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電車
気が付くと、私は電車の中に立っていた。
車内にはほとんどの人がいない。
しかし、私は何故か座席に座らず、吊革に掴まり立っていた。
だが、それは私だけでは無い。
広い車内の中で、何故か私の真横にも男が吊革に掴まり立っているのだ。
ぼーと窓の外を見る。
窓の外には、見知らぬ街並みが広がっていた。
ここは何処なのか。
何故、私はここにいるのか。
そんな当たり前の疑問がふと頭に浮かんだものの、頭の中に靄がかかったようにそれを考えることが出来ない。
私はただ、窓の外を眺めていた。
しばらくそうして窓の外を見ていると、突然足元からごろりと音がした。
その音につられて下を見る。
すると、そこには先程から私の隣に立っている男が転がっていた。
いや、この言い方は正しくない。
正確には、私の足元に、隣に立っている男のものだった頭が転がっていたのだ。
なるほど、さっきの音は頭が転がった音だったのか。
納得した私は視線を上げ、先程と同じように窓の外を見る。
窓には、私と同じように隣に立つ男の姿がうっすらと映っていた。