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エインガナの紐  作者: せらら
7/7

ガソリンスタンド防衛戦

最後にちょっとグロいシーンがあります。

別にそこは今後の物語の流れにあまり関係ないので飛ばしてくださっても問題ありません

「次の交差点にピュムが三体。日野瀬が先行、旗継さんはチャージを始めてくれ」

 人気のない道路をのろのろと低速で移動するフロートキャリアー。

 その助手席から索敵した内容を伝えると、荷台が微かに揺れて直ぐにフロントガラスから日野瀬が走る姿が見える。


「今の状況は?」

「ピュムの表示が一つ減った。多分日野瀬が倒したんだろうから、残り一体になったら速度を上げて突っ込みつつ日野瀬を回収。旗継さんがトドメって流れで行こう」

「分かったわ」


 ビルの向こう側でバルーンが動き回る。【日野瀬】と表示されたバルーンを目で追っていると、高速でもう一つのピュムのバルーンへと近づき、次の瞬間には【ピュム】の表示は消えていた。

 速度から考えて日野瀬はセンスを使ったんだろう。インスタントアッパーの効果は一瞬だ。つまりもう日野瀬の身体能力は普通の人間レベルに戻っているはず。


「今だ、道の真ん中に飛び出して!」

「オーケー! 全力で行くよ!」


 いきなりフルパワーで発進したため、荷台にいた旗継さんが「うわわわわ」と変な叫び声を上げながら転がっていく。

 そのままビル横から飛び出した俺たちは今まさに日野瀬に襲い掛かろうとしているピュムを弾き飛ばした。

 無事に日野瀬を回収しつつ急いでその場を離れる俺たちを、轢かれたダメージでふらつくピュムが力なく見つめている。


「あれ? ナコ、トドメは?」

「撃ったけど外したッス……」


 伸ばした手のひらから真っ直ぐに撃ちだされるエアバレットは、揺れの激しい荷台から当てるには決して向いているわけではない。

 それに加えて、当てる対象がどんどん離れていくのだ。外すのも無理はない。


「まあ一体ぐらいならどうにでもできるし、大丈夫よナコ」

「次の交差点には敵影なし。少し休憩しよう」


 拠点である喫茶店ゆれなみを出発してからもうすぐ一時間。出来るだけ交戦を避けるために敵の少ない道を通っているせいでかなりの時間がかかっている。

 あまり遠回りをし過ぎると、今度はガソリンスタンドにつく前に燃料切れになりかねないので、どうしても戦うことにはなるのだが。


「地下栽培所まではあと二キロぐらいです。この調子なら日が落ちるまでには給油も終えて帰路につけるはずですね」

「自分はあまり動いてないから大丈夫ッスけど、日野瀬君は平気ッスか?」


 少し息の荒い日野瀬に水の入ったペットボトルを投げ渡すと、慌ててキャッチした。

「ありがと天原。多少は疲れてますけど、大したことはないですよ」

「でも危なくなってからじゃ遅いッス。きつくなったら直ぐに言ってくださいッス」

「うーん……やっぱりもう少し戦闘を避けたほうがいいか?」

「いや、これ以上の遠回りは時間と燃料の無駄だよ。暗くなったらもっと進行が遅くなるから、急がないとね」

 そう言って立ち上がる日野瀬を見て、もそもそとカロリーのメイトなやつを食べていたドリスさんが急いで口を動かす。ドリスさんの口内はパサパサだろうからそっちにも水を渡しておく。


「んぐんぐ…………じゃ、じゃあ出発しましょうか」




◇ ◇


 さらに一時間をかけて、俺たちはガソリンスタンドの目の前へと到着した。

 視界に映るバルーンは五個。まずはその五体を排除する必要がある。


 俺たちはいつもの配置、日野瀬とドリスさんが先行し、旗継さんが後方から援護するフォーメーションで奇襲をすることにした。


 まずドリスさんが先端に鉄球のついた鎖を地面に叩きつけた。その衝撃と轟音でアクマルたちがこちらに注意を向けた瞬間––


「ぶっ飛べッス!!」


 ズドン、という重い音があたりに響き、バルーンの表示が二つ一気に消える。旗継さんのエアバレットだ。

 ガソリンスタンドに当ててしまうと大惨事は免れないので、フロートキャリアーの屋根という若干の高所から下方向に向けての射撃となったが、今度は上手く命中したようだ。


 いきなり仲間の消えたピュムは混乱して動きが止まる。そこに高速で迫るのは日野瀬……ではなく、日野瀬の投げた木の棒だ。

 この木の棒は出発前に店の倉庫にあった角材の先端を鋭く削り、槍のように加工したものだ。荒い原始的な造りだが、インスタントアッパーで強化された腕力をもって放たれれば十分強力な武器になる。

 風を切る音に気が付いたピュムが顔を向けたのと同時に、槍はその頭を撃ち抜いた。


 こちらに飛び掛かってきたピュムはドリスさんの鎖で弾き飛ばされ、距離を取ればエアバレットで撃ち抜かれる。さらにクールタイムが終わった日野瀬の追撃。


 バルーンが全て無くなるまでに、そう長くはかからなかった。



 敵がいなくなった隙に急いで給油を始める。恐らくさっきの戦闘音であたりのアクマルが集まってくるだろうが、それも初めから織り込み済みだ。

 荷台に置いてあるリュックから戸水博人の遺品のナイフやサラダ油、ラップなどを取り出してそれを各所に配置していく。

 これは、簡単に言ってしまうと罠だ。これまでの戦いから、アクマルにある程度の思考能力が備わっていることが分かったからこそ使える手段の一つだ。

 ガソリンスタンドというのはオープンスペースと言っても差し支えないほどに視界が開けていて、敵味方ともに発見しやすく接近しやすい場所だ。だからこそ明らかに危険がありそうな場所を作り、そこを回避させて移動を制限するのがこの罠の目的だ。


 とりあえず周囲にビニールシートや網を配置して精いっぱい危険さをアピールさせてみたが、効くかどうかはその時にならないと分からない。ダミーの中に本物も交えているから、いくつかは引っかかってくれるだろうが。



 そうこうしているうちにポン、とバルーンが現れた。数は十四。敵が来たということはつまり俺の出番が終わったということでもある。さーて後ろで休憩でも、と思っていたのだがそうもいかなかった。

 今回のガソリン給油作戦での俺の役割は、センスを使っての索敵とナビゲート、ガソリンスタンドに着いてからは罠を仕掛けてアクマルの妨害をすること…………だけの、はずだったのだが、


「ちょっと作戦変更。天原には地下栽培所から野菜と種を取ってきて欲しいんだ」

「えっ、俺一人でかよ!? 言っとくが俺は敵の位置は分かるけど戦闘能力なんて皆無だぞ」

「だからこそだよ。地下栽培所の内部は結構複雑だから、アクマルの位置さえわかれば撒くのは簡単なはずなんだ」


 確かに戦わないなら問題ない……のか? フロートキャリアーを守る人員が少なくなるのは危険だ。でも万が一ってこともあるし、そうなったときは生存確率は限りなくゼロに近いだろう。

 悩んでいる間にもどんどんとバルーンは増えていく。


 ……覚悟は、今できた。


「分かった。けどもし、俺が帰らなかったら見捨てて逃げてくれ」

「なっ、何言ってんスか! そんなこと……」

「皆でぞろぞろ行くわけにもいかないし、この数じゃ轢き逃げにも無理がある。できれば給油が終わり次第すぐに出発したいからな。共倒れは一番避けるべきだ」

「了解したわ。でも出来る限り生きて帰ってきてよね」

「努力するよ」


 一通り持っていく道具をリュックに詰め終えて振り返ると、既に三人は続々と集まりつつあるアクマルとの交戦を開始していた。

 ガソリンスタンド横にある地下栽培所への下り階段は、ぽっかりと口を開けてエモノを待ち構えているようだ。


 一つ深呼吸して、俺は地下への道を進み始めた。




◇ ◇


 周囲は自分の手のひらも見えないような真っ暗闇。

 私は光を通さない様に板が打ち付けられてある窓によりかかっている。

 その部屋では男二人と女二人がひそひそと何かを囁きあう。


 いや、前に一人連れ出されたから、もう男は一人になったんだったか、と彼女は空腹によって思考のまとまらない頭でぼんやりと考える。

 確か、最後に物を口にしたのはいつだったか。カレンダーも時計も太陽もないこの場所では時間さえ曖昧だ。今が午前か午後かもはっきりしない。



 ふいにキイ……と音を立てて扉が開き暗闇に光が差し込んだ。同時に投げ込まれる数個のカンパン。

 あぁまたこの時間だ。


 この光のたびに部屋の中の人が一人ずつ外へと連れ出される。もちろん帰って来た者はいないし、おそらく先ほどの小会議も誰が生贄となるかの話し合いだったのだろう。まあ、生贄を決めるのは私たちではなく外のやつらなのだが。


「戸水ちゃん、こっちへ出ておいで」


 甘やかすような優しい声で、ゴテゴテと悪趣味なアクセサリーをつけた男が呼びかける。


 戸水か。それは私の名前だ。母親は生まれた後すぐに亡くなったし、男手一つで育ててくれた父親は初日に私たちを逃がすために囮になった。生きている可能性は限りなく低いだろうから、呼ばれたのは父親ではないだろう。もっとも、もう五十を超えている男にちゃん呼びはないだろうが。


 私が呼ばれたということは、ここにはもう戻ることはないのか。長いのか短いのかよくわからないが世話になった部屋を最後に覚えておこうとして––


 ––部屋から出る直前に振り返った私が見たのは、首を食い破られて動かなくなった男と、その身体をグチャグチャと貪り食う女という元同居人の姿だった。




誤字などありましたら報告おねがいします


このお話はパニックのジャンルでいいんだろうか?

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