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エインガナの紐  作者: せらら
2/7

実験開始

 風を感じて、目を、開く。

 

「ここは…………俺はどうなって……」


 確か、あの白衣のヤツに急かされて『バルライヤ』ってのを飲んで、それから………それから? どこだここは。星が見えるからタイパン社内じゃないようだが。それに、腕に謎の輪っかがはまっている。


 だんだんと意識がはっきりしてきて、周囲を見渡す。最初に目に映ったのは、大半の店がシャッターを降ろした商店街だった。


「この風景、見覚えがあるな。確か……東区?」


 最近はスーパーで買い物をしているが、小学校低学年ぐらいまではこの商店街によく来ていた。それに、東区には商業系の建物が多いはずだから、きっと間違ってない。でもなぜか知っている看板が一つも架かっていない。昔の記憶だから曖昧になっているのだろうか。

 小学生といえばあいつは––


「そうだ! 日野瀬っ!」

「呼んだ?」

「うおっ!?」


 姿の見えない友人に一瞬本気でビビったが、真後ろにいたみたいだ。なんか見知らぬ女の人と話してやがるし、なんだよ心配して損した……。

 と思ったら、日野瀬と会話してた黒髪の女の人がこっちに来た。


「起きたみたいッスね。気分はどうッスか?」

「頭の中とかグチャグチャで気分は最悪ですけど、えっとー、どちら様?」




◇ ◇


「いやー、まさかお二人ともクープー社長の話を聞かずに参加されていたとは。驚きッス」


 ッスという語尾が特徴のこの女の人は、旗継はたつぎ 奈子なこという名前らしい。ついでに言うと同い年だそうだ。タメ口でいいッスよ、と笑っている。


 現状を教えてほしいと俺が頼むと、旗継さんは自分も全部理解できているわけじゃないッスけど、と前置きして話し始めた。


「じゃあ、今の状態を簡単にですが説明させてもらうッス。まず初めに、今自分たちがいるのはタイパン製薬会社の所有している実験島の一つ『ビフレスト』って所ッス。この島はお二人も住んでいた筈の、あの街の原寸大レプリカらしいッス。商品なんかもちゃんと置いてあるんスよ。長期保存できるやつだけッスけど。

あの会社で進化薬を飲んだ後、ビフレストに連れてこられたって訳ッス。ここまでで何か質問あるッスか?」

「あぁ、進化薬って何だ?もしかしてあのバルライヤっていう虹色の液体のことか?」

「もしかしなくてもそうッスよ。進化薬を飲むと進化が促されて〈センス〉っていう……いわゆる超能力ってやつを使えるようになるらしいッス。それを使いながらこの島で一年間を過ごすのが実験の内容なんすよ」

「この辺りは録音しておいたボイスレコーダーに音声が残ってたから、あとで聴いてみなよ」

「悪いな、ちゃんと話聞いときゃよかった」


 日野瀬からボイスレコーダーを受け取って、情報をまとめる。

 かなり厄介なことに巻き込まれたみたいだ。でも、超能力ってのにはちょっとワクワクする。炎を出したり、テレポートとかしちゃったりできるんだろうか。旗継さんそこんとこ詳しくお願いします。


「センスは一人につき一つで、その名前の通りに自分自身のセンスに見合ったものが発現するらしいッス。因みに自分は––「おーい、ナコー!ダッシュで逃げるわよー!」


 と旗継さんが言いかけたところで、商店街の奥から金髪の女性が走ってきた。

 ……大量の子鬼を連れて。


「ちょっ、ドリスさん!何連れてきてるんッスか!!」

「ソーリィ、ごめんナコ。そこの二人もさっさと逃げなよー!」


 日野瀬と顔を見合わせる。旗継さんも金髪の人を追いかけていってしまい、後ろからは子鬼たちが迫っている。

 これはちょっと、いやかなりマズイ。


「「ちょっと待ってくれぇぇぇぇ!!!」」




◇ ◇


 あの後、必死の全力疾走で旗継さんたちに追いついた俺たちは、そのまま近くにあった細い路地へ逃げ込んだ。眼鏡が汗でずり落ちる。


 旗継さんは路地の隙間から周囲を伺い、「何とか撒けたみたいッスね」と呟いている。

 あの子鬼は何なんだろうか。さっきから分からないことだらけだ。


「アクマルって言うらしいッスよ、あいつら」


 思考が口に出ていたようで、旗継さんが説明してくれる。


「あいつらは所謂モンスター、敵ッス。この街のいたるところにいるみたいで、無条件に襲い掛かってくるッス」

「じゃあ僕たちはあいつらから一年間逃げ続けなきゃならないってことですか」


 日野瀬の弱気発言に金髪の人は首を横に振る。


「アタシらには力があるでしょう?」

「センス、ですか」

「そう。こいつであのチビ共をぶっ飛ばすの。わざわざ逃げる必要なんてない、立ち向かえばいいんだよボーイズ」

「そう……ですね。ありがとうございます、えっとー…………」



「……とりあえず、自己紹介でもしとくッスか?」


 互いの名前がわからないのは流石に不便すぎるよな。俺もボーイズでひとくくりにされたくないし。

 それもそうね、と金髪の人が一歩前に出る。


「アタシの名前はドリス・ステイリー。ドリスでいいわ。生まれはアメリカ、今年で二十五よ。日本に来てまだ五年だけど、日本語はちゃんと喋れてるでしょ? アタシ努力家なんだ。あとアタシのセンスは『クリエイトチェーン』、鎖を生み出したり、自由に操る力よ。よろしくね」


 わーぱちぱち、よろしくーと言い、次は旗継さんが前に出ていった。因みにドリスさんは、なんというか、デカい。全体的に。


「えーと、もうみんな知ってると思うッスけど、自分は旗継 奈子ッス。十八歳で、趣味は……散歩ッス。センスは『エアバレット』って言う、空気を銃みたいに撃ちだす力ッス。けど、発動までに時間がかかるみたいッス。……え、えっと、よろしくッス!」


若干どもりながらも紹介を終えた旗継さん。つけ加えると、こちらは小さいというより、『無』という感じだ。どこがとは言わないが。

 次お願いするッス、と言われた日野瀬が前に出る。


「僕は日野瀬 敦紀といいます。旗継さんと同じ十八歳です。趣味は特にないけど、裁縫は得意だから服が破れたりしたら言ってください。センスは『インスタントアッパー』。一瞬だけ自分の身体能力を強化する力みたいです。よろしくお願いします」


 最後は俺だ。


「俺は天原 貢って名前だ。下の名前は好きじゃないから上のほうで呼んでほしい。呼びにくかったら、好きにしてもらって構わないけど。あと視力が弱い。センスは…………そういえばみんなセンスってどうやって知ったんだ?」

「腕輪を叩くと表示されるわよ、アマハラ」

「腕輪?」


 ドリスさんに指で示され、右腕にある謎のリングのことかと軽くリングに触れる。

 すると、なにやら文字が浮かび上がってきた。


「えーと、名前は『ポップアップバルーン』? 効果は、物質の頭上に情報を表示する。または、指定した名前を持つ物質の情報を頭上に表示する…………って、なんか地味だな」


 読んでみた限りではなんだか攻撃能力皆無っぽくて、すこし落ち込む。


「いまいち効果がわかりにくいッスね。自分に使ってみてくれないッスか?」

「分かった。やってみる」


 とは言ったものの、どうすればいいのだろうか。とりあえず念じてみた。

 ……何も起こらない。


 言葉で発動するタイプなんじゃない? と日野瀬に言われ、口に出す。


「ポップアップバルーン」


 ……何も起こらない! なぜだ!?


「声が小さかったとかッスかね? リトライッス!」


 や、やめて旗継さん。これ結構恥ずかしいから、そんなにじっと見つめないで。という思いを込めて旗継さんを見ながらもう一度、


「ポップアップバルーン!」


 突然、ポンっという音とともに旗継さんの頭の上に小さな吹き出し(バルーン)が現れた。


「あっ、なんか出てきた」


 ようやく発動した能力に、ちょっとうれしくなって皆を見るがだれもバルーンに注目していない。もしかしてほかの人には見えないんだろうか。「何も出てないッスよ?」あ、そうですか。

 まあ、見えたとしても、書いてある文字は【旗継奈子】という名前だけだけど。しょぼい。


 個人でなく、範囲で使えないだろうか。と思い三人を見てみると、ポポポンっという音とともに大量のバルーンが現れた。声の大きさは関係なく、じっと見ることが発動のトリガーだったようだ。恥ずかしい。


 三人の名前にコンクリートの壁、オオバコという草、紙くずなどなどたくさんのバルーンが視界を埋め尽くす。意外と楽しいかもしれない。

 その中で一つ、放物線を描きながらこちらに向かってくるバルーンを見つけた。


 表示された文字は、【アクマル ピュム=オーガ】



「……! みんな避け––––」





 危険を感じて警告を発した俺は、次の瞬間、強烈な衝撃とともにバルーンが一斉に吹き飛ばされるのを見た。


誤字などありましたら報告おねがいします。


次は戦闘かな

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