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たどり着いた先は、やはり例の公園だった。すでに数人の子どもがいて、手のひらサイズの石ころで線を弾いていた。以前見かけた子も、知らない子も混じっていた。今日は女の子も数人いて、うちひとりがドッジボールを持っている。
近寄っていくと、山崎のにーちゃん! と叫ばれた。数人の目が、隣に突っ立っている私に目が行く。ナニ、彼女? に見える? 見えない― はは、ひどいこと言うなあ。ありがちな追及を、山崎はさらりと流した。
「ん、クラスメイト。皆と遊んでくれるってさー」
「マジで?」
「よっしゃ、にーちゃん来たら人数が奇数になっちゃうねって話してたところだったんだよー!」
喜ぶ子供たちを横目に、山崎がこちらを見た。思わずビクンと肩がはねる。
「巻き込んじゃったけど、いいよね?」
猫のような、面白いおもちゃを見つけた子供のような、そんな笑みを浮かべる山崎。後ろめたさでいっぱいの私は、頷くしかない。周りから歓声が上がる。
「ねーちゃん、体力ないなあ」
一回りも二回りも年下の男の子から帰り際に言われ、私はすごすごと公園のベンチの隅に座った。小学生の頃ってこんなに元気いっぱいだったっけ、なんて思いながら小さなフィールドで逃げ回っていたら、いつの間にか女の子から剛速球を食らわされていた。
私と山崎は当然チームを分けた、のはいいのだけれど、すぐに戦力外通知を出されてしまう。きたボールを味方チームに渡すくらいだ。
仕方ないじゃない、ドッジボールなんて久しぶりだわ、なんて意地を張ってみたところで相手は子供、よわっちー! の一言で済まされた。
一、二度ボールが転がってきたので、隅にいる女の子に向かって投げてやったらオトナげねー! と叫ばれた。普通系女子の全力で内野にいた山崎に投げたら、うわウチリンモメかよー! とヤジられた。子供怖い。どっちにしろ、投げたボールはキャッチされてしまったので、締まらない。
「お疲れ」
「ほんっと疲れたわ……」
座り込んだ私に、山崎はおかしそうに笑った。脇には二人分の鞄が投げ捨てられている。あーあ砂が付いてしまう、だなんて思いながらも、割と心は晴れやかだ。
「こんなに体動かしたのは久しぶり。毎日こんなことやってんの?」
「ん、まあ。きらきらした顔で走ってこられたら、断れないよ」
そこそこ活躍し、そこそこへまをして、外野へと回った山崎。球のスピードは小学生たちより少し速いくらいで、それなりに手加減をしているのがわかる。だが表情は楽し気で、何より本気に見えた。
やっぱりうまいなあ、と思う。
「途中で当てられたのもさ、外野の子の靴ひもがほどけてたからだよね?」
もはやあざとさすら感じるわ、と呟く私に、山崎は驚いた顔をした。よくわかったね? まあ、見てたからね。軽くそう返答してから、失言だったと気づく。
「あー、ストーカーさん、だったっけ?」
体を動かしたからか、表情は酷く友好的だ。どちらかと言えば、いたずらを見つけて苦笑する母親のようにも見える。
うぅ、馬鹿にされている。
「悪かったってばぁ……ああ、うん、その、興味本位でした、ごめん」
「ん、まあ楽しかったからいいよ。いつかは誰か知り合いに見つかるだろうとは思ってたしね」
そういうと、山崎はほんの少しだけうつむいた。私に跡をつけられた理由を、十分理解しているみたいだった。見透かされているみたいでちょっと腹立たしい。でも、それを私は口にできなかった。山崎からあーあ、という声が漏れる。男子にしては長い前髪に瞳は隠れてしまっていたけれど、その口元の端は上がっていた。
ひと汗かいた制服の隙間を、優しい夕方の風が通り抜けていく。見上げた空は綺麗なオレンジ色と朱色を混ぜたような色をしていた。東の方にはもう夜が挨拶をしようとしているのが見える。
そういえば、こうやって夕焼けをじっくり見たのも久しぶりだ。
山崎の唇が、開く。
「働きアリの法則って、知ってる?」