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山崎は、私と同じ帰宅部だ。だからどうこうってわけではないけれど。
でも、そのおかげで私は彼の後を簡単に追いかけることができている。
「……尾行だなんて犯罪臭しかしない」
五メートル先をのろのろと歩く山崎に間違っても聞こえないように、小さな声で一人呟く。
肩にかけた鞄は重い。まあ、もうすぐ模試だからとカッコつけて参考書類を詰め込んだ私が悪いのだけれども。それでも痛みを主張してくる右肩に折れて、少しだけカバンのひもの位置を直す。
尾行、だなんて、小説の主人公にでもなったような気分だ。小さいころアニメの探偵に憧れていたことを思い出して、心臓が一度、小さく跳ねた。ローファーの下でつま先が冷たくなっている。その割には体全体に汗じんわりとにじんでいく。
山崎は気づく気配もなく、ふらふらとどこかへ向かっていく。一歩足が前に出るたびに、もう一方の足が一瞬空中を浮遊する。軸足はしっかりしているくせに、どこか頼りない。
…やはり、行き先はあの公園なのだろうか。
歩くのに疲れたのか一度立ち止まり、ふう、と後ろからでも見えるほど大きく息をついた山崎を見て、私もあわてて立ち止まる。行動の読めないやつだ。
と、
「あのさ」
山崎が振り向いた。
「おおうぃっ?」
変な声が出る。あわてて電柱に身を寄せようとするが、特に意味はなかった。
「さっきから気になっていたんだけれど」
山崎が近づいてくる。二人以外誰もいない十字路で、足音が大きく響く。
「ちょ、ちょっとまって私は別に尾行とかそんなおまわりさんに捕まりそうなことは何もやって」
手を胸の前でふるふる振りながら弁護、というよりはむしろ墓穴をせっせと掘る私に、奴は足元を見てああやっぱり、と呟いた。
「そのローファーさ、ちょっと大きいよね。買い直したほうがいいんじゃない?」
足音が少し変だったから、と山崎は続ける。
「え」
そこ?
足音で何で私の靴事情がわかるんだとかそもそも私の足音聞こえていたのかとか、さまざまな思考が頭の中で飛び交ってフリーズする。
「いや、言えてすっきりした。よかったよかった」
腕を組み、うんうんと二度ほど頷く山崎が、三回目の首振りの途中で頭を横に倒した。
「……尾行?」