2
存在感の薄い奴、後は少し暗めの話しかけづらい奴。山崎に対する印象は、そんな感じだった。クラス内でも彼はそういうふうに「クラス内での位置」を獲得していたし、誰もそれを気には止めなかった。
だから私も、昨日の帰り道、近所の公園で彼らしき人物を見かけた時、最初はクラスメイトによく似た顔の人がいるなぁ、位にしか思わなかったんだ。
「そいつ」は、顔も似ていない、明らかに兄弟ではないといわれる小学校低学年の男の子達七人とサッカーをしていた。
鉄棒をゴールポストに見立て、その周りを私服姿の少年らが走りまわっている。そのゴールもどきの前に、私の高校の男子用制服を着た男子が背丈的にも年齢的にも浮いた状態で立っていた。腰を低く落とし、さも何か策略があるような笑みを浮かべていた。ゴールキーパーに白シャツ黒ズボンは全く似合っていなかった。
男の子の一人が白黒のボールを勢いよく蹴る。鉄棒の柱の左下に向かって、吸い込まれていく。しかしゴールに見立てたとはいえ、鉄棒は鉄棒、横幅はそいつの両腕の長さより少し短い位だ。ああ、男の子、それじゃあゴールは無理だ――と思った瞬間、そいつはいきなり斜め上に跳んだ。その下をボールが転がり抜ける。歓声と落胆の声が上がる。あたかも男子の防御をすり抜けて、見事に男の子がゴールしたように見えた。
へえ、と私は声をあげた。ずいぶんと優しい奴もいるものだ。私は部屋の隅の方できれいなビー玉を見つけたような気分になり、うん今日はいい日だ、とそのまま歩を進めようとした。
その時、男子の味方側らしい男の子一人が、何やってんだよもう、と叫ぶ。
「山崎の兄ちゃん、ちゃんとボール見ろよっ」
山崎、という名前に、私は固まった。それって、あの根暗な山崎?
他の味方らしき子も集まってきて、口々に抗議し始める。山崎の兄ちゃん、たまにへまするよな。ほら、二点差まで追い詰められちゃったじゃないか。どうしてくれるのさ。
公園の入り口で突っ立ったままの私に聞こえてくるほどの大声で、私は初めて気がついた。先程まで暗くなっていた相手チームの子達の表情が、わずかに明るくなっていることに、今更気づく。
なるほどそれでか、と納得する。手を抜くなんてホントは駄目だけどねえ、と誰にも聞えていないことをいいことに呟く。しかし――あの山崎が、なぜ子どもたちと遊んでいるのか?
山崎の兄ちゃんと呼ばれた男子は、まあまあ、と味方をなだめている。これからもう一点取ればいいじゃないか。まるで子どもたち全体のリーダーのように、綺麗に子どもたちの「遊び」をまとめ上げる。
そんな山崎の姿に、私は立ち尽くすしかなかった。