19. 体育祭③
さっきの《暗殺者》の真白への態度。誰もを魅了する真白に、あんな態度をとった理由として考えられる可能性は2つ。1つは極度のツンデレであるということ。もしそうならば、真白へのあの態度も実は照れ隠しというか、愛情表現の裏返し的な感じで辻褄が合う。見た目とか表情とか言葉からしてツンデレどころか、ツンツンツンツンツンデレくらいだろうな。
そして、もう1つの可能性は……。
「さぁ、とうとう最後の競技となってしまいましたぁ!!!」
最高潮にテンションのあがった放送で思考をさえぎられる。
さっきの《暗殺者》の真白への態度が衝撃的過ぎて、考え込んでしまっていたけど、いつの間にか選手たちは入場門からグラウンドへと移動していた。会場も今まで以上に盛り上がってるって言うのに、それにも気づかないくらい考え耽っていたみたいだ。
さっきのことは、すごく、いや途轍もなく気になる。だって、ここまで《勇者》と《魔王》は完全陥落、記憶を取り戻してる《魔術師》と《吟遊詩人》は事情知ってるからほれ込んではないけど、なんだかんだで遠くから見守ってるって感じだし、《女騎士》も無意識に真白に対して特別気にかけているのが見て取れる。そんな風に攻略対象たちがそろって真白に好感情を抱いている中での、あの《暗殺者》の態度。気にならないってほうがほかしいでしょ。
けど、今はともかく真白の応援に専念することにしよう。《暗殺者》のことは1人で考え込んでたって答えが出るわけじゃないし、後で《魔王》にでも聞いてみるしかない。
「最後の競技は、わが学園伝統の学年混合リレー!各学年の男女1名ずつからなる6名のチームが競い合います。たすきの色は白、青、緑が白組。赤、ピンク、紫が赤組となっています」
リレーが始まる前に放送が懇切丁寧な説明を入れてくれる。今回は外部のお客さんも多いから案外こういう細かい説明は重宝されるかも知れないな。
なんて考えていたら、第一走者がスタート地点に並ぶ。ちなみにこの学年混合リレー、走る順番は学年とは関係なく、各チームで自由に決められることになっている。言わずもがな、ここにもいろいろな思惑が働いて、《勇者》と《魔王》がそれぞれのチームのアンカーとなっている。しかもここまでの競技の獲得点数は同点。この競技でこの体育祭の勝負の決着がつくというわけだ。おかげさまで会場の緊張感も一気に高まっている。
「さぁ、泣いても笑っても、これですべての決着がつきます!皆さん、悔いのないように応援しましょう!!!」
放送の声にあわせて多きな歓声が上がる。その歓声がしばらく続いたのを見届けて、スターターを持った教員がその手を高らかと空に向かってあげる。それを見て取ったとたん、最初の中距離層のときのようにしんと会場が静まり返った。
「位置について!よーい……」
全員のごくりと生唾を飲む音が聞こえそうなほどの静寂の中、スターターを持った先生が声を上げる。スタート地点の選手たちが構える。一瞬の完全な静寂。
ぱぁん!!!
「さぁ!最初に飛び出したのは白チームだぁ!!!」
選手たちが走り出したのと同時に、歓声が上がり、放送が実況をはじめる。そんな歓声の中を6人の選手は駆け抜けていく。6人とも多少の差はつくものの、ほぼ一列になって走り続けた。
《勇者》と《魔王》のまさに俊足を見た後なら、人並みの速さだなーって思っちゃうのは仕方ないよね。自分の足はどうかって?これが世に言う棚上げというやつですよ。
歓声は弱まることを知らず、グラウンド中の空気を振るわせる。順位はほぼ第一走者のときから変化がなく、《勇者》がアンカーを務める白チームがずっと1位をキープしたまま、とうとう女子のアンカーまで順番が回ってきた。
いよいよ私の大本命、真白の出番だ!真白の前の走者は二番手で真白にたすきを渡す。たすきを取ったとたん、地面を軽やかにける真白の走る姿は優雅なのにともかく速い。半周くらい走ったところで、真白は白チームの女子と並んだ。そのまま抜くかと思ったら、案外その女子も根性あって、ずっと真白と並んだまま最後のコーナーを曲がる。
真白がんばってー!でも無理をしてこけたりはしないでーー!!
「白チーム、赤チーム、ほぼ同時にアンカーにたすきが渡ったー!!!」
その放送にさらに歓声が上がる。真白は今年はこけることなく、最後までちゃんと走りきれたみたいだ。真白が単独1位じゃなかったのは惜しかったけど、ともかく怪我もなく走りきれてよかったよかった。
さてさて、私の大本命の真白が走り終わったところで、とうとう《勇者》と《魔王》の最後の直接対決だ。
さすがに2人ともぶっ続けでおまけに全力で競技に出ていたせいか、最初の中距離走の時のような馬鹿みたいな速さでは走れないみたいだ。ちゃんと残像を残しながらも、あっという間に最後のコーナーへ。
ここまではほぼ横並び!いったい、どっちが勝つんだ!!!?
「昇!いけーーーー!!!!」
「勇気様、がんばってーーーー!!!!」
団長たちの応援も最高潮に達する。もうゴールまであと10メートルってところになって、全員が息を呑んだ瞬間だった。
「っ負けるかぁ!!」
声を上げたかと思った瞬間、《勇者》が今までよりいっそう大きく一歩踏み出すのが見えた。それを脳が認識したときには《勇者》は、ゴールのはるか先へと走り抜けていたところだった。
グラウンドにまた静寂が流れる。
「い、1位は白チームの武蔵野選手!よって、今年の優勝は白組だぁぁぁ!!!!」
会場の半分側から、狂喜じみた歓声が上がる。いや、私としてはホントあのテンションについていけないから、ちょっと狂っちゃってるくらいに聞こえるのよ。一部の男子はうれしさのあまり、ゴールの先にいる《勇者》に飛び掛っていってる。もみくちゃにされながらも、《勇者》はその中心でまんざらでもなさそうに笑っていた。
一方、もう半分側には沈み込んだ空気で満たされていた。中には涙を流しながら抱き合っている女子たちもいる。うん、たかが体育祭だけどね、ひとつのことに一生懸命打ち込んで悔しがったりする経験をするって、すごくいいことだと思うよ。
それにしても、なかなか見ごたえのある勝負だったなぁ。体育祭が始まる前は《勇者》の余裕勝ちかな、って決め付けてたけど、《魔王》も《勇者》に肉薄する実力を持っていたとは。これは勝負させてウジウジを発散させるっていうでっち上げた動機も、見事に完遂されたかも知れないな。
今はきっと悔しそうな顔をしていると思うけど……って、あれ?さっきまでゴール地点で立ち尽くしていた《魔王》がいない。
どこに行ったんだとあたりを見渡せば、なぜか校舎の裏側へかけていく真白の姿が見えた。
……え、あれ?そんなイベント、ゲームにはなかったはずだけど……もしかして、これってイベント的な展開ですか?真白が負けた《魔王》を励まして2人の仲が深まる的な……。
ちょ、その展開、ちょっとまったーーーーーーー!!