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16. 体育祭準備④




「おい」

「ん?」



 ホームルームが終わって、帰り支度をしていると、私の席の目の前に誰かが立った。声に反応して顔を上げてみると、そこにいたのは《魔王》だった。……若干表情が不機嫌そうに見えるのは気づかなかったことにしておいて、私は帰り支度をする手を進める。



「あれは、お前の仕業か?」



 すると《魔王》は肩越しに黒板を指差しながら問いかける。そこには先ほどいつもより長めのホームルームで決まったことが書いたままになっている。何を決めていたかって?



 もうすぐ体育祭なんだから、誰がどの競技に出るかを決めてたに決まってるでしょ。



 《魔王》もそれを見て私に話しかけたに違いない。ちっ……まさかこんなに早くあれが私の仕業だとばれるとは……。一応しらばっくれてみるか。



「違うけど?」

「嘘つくな。さっき他の男子に聞いたら全部おまえが決めたって言ってたぞ」



 なんだよ、すでに裏を押さえてるならわざわざ私に聞くことないのに。《魔王》も案外ねちっこくて面倒な性格してるのかもな。



「なんで、俺がほとんどの花形競技に出ることになってるんだ?」



 《魔王》が今度はあからさまに眉を寄せる。きっとそういう顔をすると思ってたよ。去年の文化祭は別として、体育祭とかそういう行事ごととか、基本的に興味なさそうだもんね。



 そんな《魔王》に花形競技を全部押し付けたのは、ほかでもない私だ。



 さっきのホームルームを《魔王》がサボっていたうちに、騎馬戦とか棒引きとかリレーとか、これでもかっていうほど空きがあれば《魔王》の名前を挙手して叫び、ぶち込んでやった。あまりに《魔王》の名前ばかり出す私に、《魔王》を遠巻きにしてるほかのクラスメートはちょっとびっくりしてたけど、《魔王》の活躍してるところを見たいと思っている女子は多いようで、反対する人はいなかった。



「サボる方が悪いんだよ。もう決定事項だから変更は不可能だよ」



 ホームルームがほぼ終わると同時に生徒会室に行って、すでにうちのクラスの参加種目と面子の登録は済ませてきた。これから変更しようと思ったら生徒会長に直談判するしかないが、そんな面倒なことを《魔王》がするとも思えない。

 となれば当日サボるという線が濃厚になってくるわけだけど、《魔王》が絶対にその選択肢をとらない。なぜなら……。



「体育祭なんて、くだらないだろう。あんなので競って何が楽しいんだ?」

「まぁ、その意見にはすごく同意だけど、君にはいい加減、うじうじしてるのをやめてもらおうと思ってね」

「ん?」



「君が出る競技、全部《勇者》も出るんだよ」


「!」



 ほーら、予想通り、やっぱり反応した。《勇者》の名前出して、それを何食わぬ顔でスルーできるようなキャラじゃないってのはすでに割れてるんですよ。これだけじゃまだ不安だから、《魔王》のやる気をたきつけにかかる。


「正々堂々勝負して負けたら、ちょっとはすっきりするかもしれないでしょ?」

「……俺が負けると思ってるんだな」


 面白いくらい、予想通りのちょっと不機嫌そうな顔。ここで、放置してたらすねられて自棄になって、やっぱサボってやるー!ってなるかも知れないから、すかさずフォローを入れておく。


「決めつけてるわけじゃないけど、君が運動してるところ見たことないからどんだけ能力あるかわかんないし、運動してるとこ想像つかないし」

「そう思われてるのは、面白くない」


 おっしゃ、鞭はここまで。続いてトドメの飴ちゃんです。



「それに、真白も君が花形競技に出るのはいい案だって、言ってくれてたよ」


「……」


 

 よし、完全につれた。これで《魔王》は確実に体育祭の花形競技に全力で出場する。《勇者》のほうは去年から進んで花形競技に出てるし、今回もすでに出場を確認済みだからこれで間違いなく《勇者》VS《魔王》の構図が出来上がる。


 こーんなに簡単に思い通りに言ってくれるなんて、よかったよかった。

 さて、《魔王》への根回しも終わったことだし、私は《暗殺者》に借りてたものを返しに行くかね。



「ん?おまえ、なんでもう1枚ブレザー持ってんだ?」

「これ、私のじゃないよ。1年の男子に借りたのを今から返しに行くの」



「……もしかして、それ、隼人のブレザーか?」



 ちょ、な……何で《魔王》の口から《暗殺者》の名前が!?



「き、君……小夜時雨隼人を知ってるの?」

「あぁ。小学校からの知り合いで、昔からなんか妙に懐かれてるんだ」



 なんと……《魔術師》・《女騎士》パターンがここにも!?【今キミ】ではもちろん、そんな設定なかった。ゲームと比べると、えらく攻略対象同士の係わり合いが深いな。他人を寄せ付けない感じとか、グレーロードのアクセを愛用してるところとか知ってるから、なんか2人が仲いいって言うのは妙に納得できるけどね。



「多分、隼人は学校に来てないと思うぞ」

「……そういう妙なとこは君に似ちゃったんだね」

「俺はちゃんと学校には来てるだろう。それより、それ、俺が渡しておこうか?」

「え?いいの?」

「家が近所だからな」


 実は、私が行っても《暗殺者》に直接渡すのは無理だろうなって思ってたんだよね。探りを入れに会いに行ってもいつもいないし。だからクラスの誰かに渡そうと思ったんだけど、親しい《魔王》の手からわたったほうが早く《暗殺者》の手元に届くだろう。


「じゃあ、お願いする」

「しかし、なんでお前が隼人のブレザー持ってるんだ?あいつはなくしたって言ってたから、また喧嘩してどっかに置いてきたと思ってたんだが」


 そんな言い訳してたのか。てか、また喧嘩って……本当にいらんとこだけ《魔王》に似ちゃったんだな。なんか《魔王》より好戦的な分質悪い気がする。好戦的じゃない限り、目が合う度にこっちを睨んできたりしないだろうしさ。


「このまえちょっと手違いで私が水浸しになっちゃって、服が透けてたから貸してくれたんだ」

「……水浴びでもしてたのか?」

「手違いで、って言ってるでしょ」

「しかし、隼人がそんなことを……」


 意外そうな顔をして《魔王》がつぶやく。小さいころから知り合いっていう《魔王》がこんな顔をするんだから、私にブレザーを貸してくれたのは《暗殺者》らしくない行動みたいだ。まぁ、その理由は簡単に想像できる。


「あの時真白も近くにいたから、かっこいいとこ見せたかったんじゃない?」

「……隼人が、なんであいつに?」



 あ、もしかして……《魔王》は彼が《暗殺者》の生まれ変わりって気づいてないのかな?気づいてないのにここで私がいろいろ言っちゃうと、2人の関係にひびが入っちゃったりするかも知れないし……ここは誤魔化しておこう。

 


「え、えっと……そう、この学園で真白に興味がない男子なんていないでしょ?」

「……」

「と、ともかく、これ、お願いね!」

「ああ」



 ふぅ、ブレザーを押し付けることで何とか誤魔化せたかな。

 てか、昔から仲いいのに、《魔王》は気づいてないのか。まぁ、あんまり記憶が戻ってきてないみたいだし仕方ないのかな。

 ……《暗殺者》のほうはどうなんだろう?昔から《魔王》命みたいなやつだったって、《吟遊詩人》が言ってたし、もしかして全部記憶取り戻してて《魔王》に近づいたとか?ありえなくはなさそうだけど……。




 やっぱ《暗殺者》と話してみないとだめだよなー。


 でも、避けられてるし……どうしたもんかねぇ。



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