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15. 体育祭準備③




 残った私、真白、《暗殺者》の間にしばしば沈黙が流れる。



 助けてもらったしお礼でもいっとくかー、と思って《暗殺者》の方を見たら、やっぱり今までと同じように睨まれた。

 またかー。なんで何だろうねー?まぁ、理由はよくわかんないけど、この人に嫌われてるんだろうな。嫌われてる相手にお礼とか言われても嬉しくないだろうから、お礼言うのは真白に任せるか。

 


「……」

「……ん?」



 あれ?なんかちょっと視線が緩んだ……ってか、さっきまでは思いっきり目を見て睨まれてたけど、なんか視線が下にずれたような……?



「うわっ!!」



 ちょ、何!?いきなり顔になんか投げつけられたんですけど!!!



「な、奈美!?」



 痛くはなかったけど、いきなり視界が暗転したことで後ろにふらついた私を真白が後ろから支えてくれる。なんとか体勢を立て直して投げつけられたものを見ると、それはブレザーだった。

 これを投げてきたのは《暗殺者》で、その《暗殺者》がブレザーを脱いだシャツ姿になっているところから考えて、これは奴のブレザーなんだろう。

 いきなりブレザー投げてくるとか意味わからん。攻撃のつもりなのか?さっきのホース女子の攻撃よりも痛くないっつーの!



「もう!もし真白が支えてくれなかったら尻餅ついてたところだったよ!ただでさえホース女子のせいでこの辺りの地面はべちょべちょに濡れてるんだから、そんなところに尻餅ついたら制服が泥だらけにな────」

「紫」

「え?」



 ……む、紫?え、何それ?何かの暗号???紫、むらさき、ムラサキ、パープル……。だめだ、何が言いたいのか全然わからん。てか、暗号って解くには規則性が必要だから、1つのワードでその意味を解き明かすとか無理でしょ!《暗殺者》、本当に意味不明すぎる!!



「言いたいことがあるならはっきり言ってよ」

「……」



 思わぬ展開だけど、とうとう《暗殺者》と対峙する時がきた。今までは教室に行っても、いつもいなくてなかなか面と向かって話す機会がなかった。真白がいるけど、この機会を逃すわけにはいかない。今日こそいろいろと聞き出してやる!

 


 気合いを入れて、《暗殺者》を睨みつける。その視線の先で、《暗殺者》はゆっくりと口を開いた。






「透けてる」





「……へ?」

「だから……透けてる、下着」

「え!?」



 《暗殺者》の言葉に後ろで真白が声を上げるのが聞こえた。それと同時に自分の胸元を見下ろしてみると、確かに水で濡れた部分が肌に張り付いて、下着の色が透けてた。


「あ、ほんとだ」


 へー、白シャツって濡れるとこんなに透けちゃうのね。今まで制服でずぶ濡れになったことなんてなかったから、新発見だわ。

 やー、それにしてもやっぱり濡れたのが私でよかったよかった。これが真白だったら、いろいろやばいことになってたな。たたでさえ水も滴る効果で真白の美しさアップに加え、透けて見えた白い肌と下着とか、何人の男子生徒が鼻血吹き出して貧血で病院に運ばれる羽目になるか、想像だにするに恐ろしい。メイド服の時の絶対領域でさえ何人かを昇天させた真白がそんな格好したら……あ、想像した私まで鼻血出しちゃいそう。



 なぁんて、鼻元を抑えていた私の前に真白が素早く回り込んで、《暗殺者》のブレザーで私の胸元を覆う。

 え、真白さん。そんなことしたら、《暗殺者》のブレザーがビチョビチョになっちゃうよ?


「な、奈美!なんでブレザー着てないの!?」

「あー……気合い入れて電卓打ってたら暑くなっちゃって、そのまま来たんだよね」


 多分、私のブレザーはここに来る前に作業してた生徒会室にあるはずだ。

 そう説明してる間にも、なぜか真白は顔を赤くしながら慌てふためいる。もしかして、《暗殺者》に下着を見られて、私が傷ついたと思って気を使ってくれてるのかな?

 安心したまえ、真白君。真白ならともかく、ほぼぺたんこ色気ゼロな私がこんな状態になったところで、ラッキーすけべと思う強者はいないって。

 


 その証拠に、《暗殺者》だって顔色変えずに────って、いつの間にかいなくなってるし。



「あいつどこいった!?」

「え?あ、私も気づかなかった……」



 真白も振り返ってあたりを見渡すけど、後ろ姿もどこにも見当たらない。どうやら《暗殺者》はその名のごとく、神出鬼没なようだ。 

 せっかく色々聞くチャンスだと思ったのに……てか、暗号と思った紫って私の下着の色だったのね。今日来た下着の色なんていちいち覚えてないから、暗号かと思っちゃったよ。



「ともなく、奈美は急いで着替えた方がいいよ。私、奈美のジャージ持ってくるから、先に更衣室に行ってて」

「あ、うん」

「良かったね、ブレザー貸してもらえて」



 え?このブレザーってそういうことだったの?真白に言われるまで全然気づかなかったけど……《暗殺者》がブレザーを投げてきたのは、これを使って胸元を隠せってことだったのか。

 そうか、確かにさすがの私も下着が透けてる状態で校舎の中を堂々と歩く勇気は持ち合わせてないもんな。そこんところを《暗殺者》は汲み取ってくれたのかもしれない。

 普段から睨まれてばっかりだから全くいい印象を持ってなかったけど、どうやら《暗殺者》はなかなか気が利くやつみたいだ。




 てか、ブレザーびしょ濡れにしちゃって悪かったな……。


 お詫びにしっかりクリーニングに出してからお返ししよう。




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