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12. グラウンド




 遠足以来、《勇者》・《魔王》ファンクラブのメンツから真白が襲われることはなかった。私や《女騎士》ががっちり真白の近くにいるから、1人のところを狙う機会がないと判断したのかもしれない。

 けど、それは奴らが真白を狙うのを諦めたっていう訳ではない。奴らはただ、やり方を変えてきただけだった。



「真白、危ない!!」

「きゃっ!」

「ぐぇ!!」



 うぅぅぅぅっ……真白をかばおうと思って飛び出したら、お腹に思いっきりサッカーボールを食らってしまった……。危うくさっき食べたいろんなものをグラウンドにぶちまけてしまうところだったぜ。なんとか気合いで踏ん張ったけどね。

 ……しかし、痛いのはどうにもならない。この筋肉ほぼゼロのプニプニのお腹に、あんな強烈なボール食らったら痛いのは仕方ないんだろうけどさ。うー……せめて腹筋だけでも鍛えておくべきなのか?



「奈美!大丈夫!?」

「うん……痛いけど、なんとか……」


 駆け寄ってきた真白になんとか笑顔を向ける。他の生徒や先生も心配して駆け寄ってきてくれたみたいだ。


「平野さん、念のために保健室に行ったほうがいいと思うんだけど」

「大丈夫です。少しの間見学してれば治ります」


 なーんて言い切るけど、もちろんごくごく普通の私の体に休んでれば自然に傷が癒えるようなハイスペックスキルは備わっておりません。でも、こうでも言っとかないと、私が目を離した隙に真白がボールの標的になったら大変だ。



「ごめんね、平野さん。そんなに強く蹴ったつもりはなかったんだけど」



 そう声をかけてきたのはボールを蹴った女子だった。体育はいつも隣のB組と一緒にやるんだけど、この子もB組で顔と名前は知ってるけど、今までちゃんと話したことはない。

 でも、その様子が普通じゃないのは目を見ればわかる。彼女の目は真白を襲ってきたバッド女子たちと同じ目をしてる。虚ろでぼんやりしてて、その瞳に私は一切入り込んでない感じ。謝ってくるその言葉も、もうちょっと繕えよってくらいの大根っぷりだ。

 ちなみに、この子は《魔王》ファンクラブに所属してる。そこから考えても、ボールを真白に思いっきり蹴りつけたのも故意だったに違いない。ここで問い詰めたって、わざとじゃないって言い張られて終わりだから、何も言わないけどね。



「大丈夫」



 それだけ答えて私はコートの外にでる。体育の時間はあと20分ちょっと。みんなが動き回っている中で、さっきみたいに真白を狙い打ちする機会はそうそう巡ってこないだろう。いざとなったらコートの中に乱入してでも真白を助けるけどね。



「ごめんね、奈美。また助けてもらって……」

「たいしたことないから大丈夫だよ」

「でも……」

「なんで真白がそんな顔するの。真白が悪い訳じゃないでしょ」

「……うん。でも、最近なんだかこんなことが多いから」



 うーん……さすがに、真白だっておかしいって気付くよね。

 遠足以降、直接《勇者》・《魔王》ファンクラブの女子たちが真白を取り囲むようなことは起きてない。



 その代わり、真白にいろんなものが飛来してくるようになった。



 具体的に言うと、体育の時間にはさっきみたいにボールが飛んできたり、校舎の外を歩いてたら花瓶や植木が落ちてきたり。さすがに家庭科の時間に包丁が飛んでくるってことはなかったけど……ともかく、真白の頭部を狙って何かが飛んでくる、もしくは落ちてくる。



 それは、明らかに真白を気絶させようとしてるとしか思えないものばっかりだ。



 夢の中で《冥王》もそれらしいことを言ってたし、これは間違いなく《冥王》が《勇者》・《魔王》ファンクラブの女子たちを操って真白に危害を加えようとしているとしか思えない。《魔術師》の話ではそんなの不可能だって話だけど、現に《冥王》本人がそう言ってた訳だし、実際に真白は狙われてるし、これはもう《冥王》が《魔術師》や《創造主》より一枚上手だったと考えるしかない。



 そして、もう1つ言えることは、やっぱり《冥王》が降臨するためには真白が気絶する”病気イベント”が必須ってことだ。



 だからこそ、《冥王》は執拗に真白に死なない程度の危害を加えようとしてるんだろう。でもねー……私から言わせれば花瓶とか植木鉢とか、当たりどころ悪かったら死にますよ?って話なんだけど。真白が死んじゃったらそもそも《冥王》の封印が解けることすら無くなっちゃうけど、その辺ちゃんとわかってるのかね、あやつは。

 まぁ、もともと過激だった《勇者》・《魔王》ファンクラブの皆々様のことだから、《冥王》の予想以上に過激に動いてる……なぁんて可能性もなくはなさそうだ。てか、それすごくありそうだな。



 なぁんて考え事をしながら校舎の方に目を向けると、《暗殺者》と目が合った。



 あ、またこっち見てる。うちのクラスが体育してる時、必ずこっち見てるんだよなー。多分真白のことを見てると思うんだけど……しかし、私が見るといつも私と目が合う。そして、睨まれる。一体、これはなんなんだろうねぇ?

 遠足の時に助けてくれたから、《暗殺者》が《冥王》の手下だって可能性はほとんどなくなった。考え付く理由といえば、真白のことが好きすぎて、真白の近くにいる女子の私にまで嫉妬してるとかいうベタベタな理由だけど、それならバッド女子の時、真っ先に助けに来ると思うんだよね。


 せっかく名前とクラスがわかったから勇気を振り絞ってコンタクトを取りに行こうと思ったんだけど、私が行く時に限って《暗殺者》はクラスにいない。避けられてるって考えるのが普通だよね。

 もし真白を助ける気があるなら、こちらとしては喜んで協力していただきたいところだし、むしろここは下手に動けない《勇者》じゃなくて、《暗殺者》に一気に真白を射止めてもらうのだってありだと思うんだよね。



「ねぇ、真白って年下ってどう思う?」

「え?」



 あ、しまった。善は急げと思ってとっさに真白に質問しちゃってた。脈絡なさすぎる質問だから、また真白におかしなこと言ってるって思われちゃうだろうなぁ。



「ふふふ」

「ん?どうしたの?」


 すっごい不審そうな顔をされるだろうなと思ってたのに、予想と反して真白はなぜかおかしそうに笑ってる。


「ううん。奈美が元気で良かったと思って」

「まぁ、元気だよ。お腹はまだちょっと痛いけど」

「本当に保健室いかなくて大丈夫?」

「うん。この状態で保健室行ったら脱がされちゃうし。橘先生にそんなことされたらさすがの私もいろいろな理性が吹っ飛ぶ気がするし」

「もう、またそんな冗談言って」


 半分本気で言ってるんだけど、まぁ、真白が楽しそうに笑ってくれてるからいいか。

 そう思ってたんだけど、ふと笑うのをやめた真白はちょっと眉を下げて苦笑を浮かべる。


「……良かった」

「え?」

「こんなことばっかり起こって、奈美に迷惑かけてるから、奈美が離れて行っちゃうかなって心配してたから」



 真白のその言葉に、一瞬心臓が飛び出しそうなくらい脈打つ。



「……そんなわけ、ないじゃん」

「ありがとう、奈美」



 お礼を言いながら笑いかけてくる真白の顔をまっすぐとみれない。

 そんな風に笑いかけてもらう資格、私にはない。だって、私は真白のためじゃなくて、自分のために行動してるだけなんだから。

 



 ああもう……胸がちくちく痛くって、お腹の痛みなんか忘れちゃいそうだ。




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