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10. 新入生歓迎遠足③




「先輩!早く走ってください!」

「ちょ、これでも全速力で……」

「平尾先輩しか場所わからないんですからね!」



 くっ、この後に及んでまだ私の名前を間違えるのか後輩君。いや、今はそれどころじゃないな。急いで去年私が井之上様に囲まれた場所に行かなくちゃ!!

 たしかこの道を外れてずっとまっすぐ歩いた先のはず……。



「いた!」



 後輩君が大声を出して前方を指す。息絶え絶えになりながらそっちの方を確認すると、木を背にして追い詰められた真白と数人の女子生徒の姿が見えた。

 うっわ!今度は8人もいるし、しかも全員こぶし大の石を手に持って、今にも真白に向かって投げつけんばかりの勢いなんですけど!!!



「ちょっと待ったー!」

「奈美!!」



 渾身の力を振り絞って最後のダッシュ!んでもって真白と女子たちの間に割り込んだ。全員の視線がゆらりとこちらに向けられる。その目はやぱり前回のバット女子たちと同様、虚ろな目をしてた。



「そんなん投げて真白が怪我したら、停学なんかじゃ済まないよ!」

「別に、私たちがしたってばれなきゃ問題ないでしょ?」



 む、やっぱり何を言ってみても無駄か。停学なんてぜーんぜん怖くないて感じだな。高校で停学とかしちゃったら、この先の人生、人より数倍困難になるっていうのに……お金持ちの余裕って奴もあるのかもしれないけど、多分、彼女たちの場合は自分たちが何してるのかあんまわかってないんだろう。

 そんな彼女たちのことだから、私がいるのも置かないましで石を投げてくるんだろうなぁ。



「邪魔するなら、お前もそいつと同じ目にあわせてやる」



 やっぱりー!!!?てかね、前回のバットもそうだけど、そんなの投げて打ち所悪かったら人って死んじゃうんだよ!!!その辺わかってんのかな!?って、あのイっちゃってる目からしてわかってないよね。



「奈美、逃げて!!」



 石を投げつけようと構えた女子たちを見て、私の後ろから真白が叫ぶ。

 でも、ここで逃げるわけにはいかない。ここで逃げたら真白に石が当たっちゃう。当たりどころが悪くて真白が気絶して《冥王》降臨とか、石ぶつけられるより数百倍やばい。だからここは逃げるわけにはいかない。


 痛いのは嫌だけど、真白を守るためにやってやるーーーー!!!

 あ、それはいいけど、やっぱお気に入りのメガネは死守したい。メガネ、メガネ取らなきゃって、ぎゃー!1人が勢い良く振りかぶったー!







 あ、当たるーーーー!!!







 ……………………。


 ……あ、れ?




 反射的に顔の前に腕を突き出して目をつぶったんだけど、どこにも石が当たる衝撃は伝わってこない。

 何が起こったんだろうと思って恐る恐る顔を上げると、そこには1人の男子生徒が女子たちと対峙するように立っていた。その後ろ姿には、見覚えがある。



「……き、君は!」

「……」



 

 ゆっくりと、男子生徒がこちらを振り返る。


 私の目の前に立って飛んできた石をキャッチしたのは《暗殺者》だった。


 後ろ姿からしてそうだろうとは思ったけど……でも、なんで、《暗殺者》が?




「お前も、邪魔をする気か!?」



 突然現れた《暗殺者》に、女子たちは私の時以上にいきり立っているみたいだ。怒鳴りつけてきた女子の方を《暗殺者》はゆっくりと見る。



 その瞬間、女子たちが一斉にびくりと肩を震わせた。



 私からは《暗殺者》の後頭部しか見えてなかったからわからないけど、多分、《暗殺者》が女子たちに睨みを利かせたのんじゃないかと思う。

 いつも睨まれてるからわかるけど、あの視線、なかなかの威力があるもんね。虚ろでイっちゃってる目をしてる人たちにも効果があるのも納得だ。 



「失せろ」


「「「「!!!!」」」」



 うわっ……なんか今空気がビリビリってなった。すごい威圧感。普段は気配とかに疎い私が鳥肌まで立てちゃうなんて……。

 女子たちも気圧されたのか、だんだんと《暗殺者》から距離を取る。そしてしばらくすると、バラバラと公園のさらに奥の方へと駆け出していった。



 よかった。今度は本当にギリギリだった。絶対に石が当たると思ったもん。メガネ死んだと思ったもん。

 


「奈美、怪我してない!?」

「あ、うん。私は大丈夫なんだけど……」



 目の前に立つ《暗殺者》を見る。女子たちが逃げていった方を見て、こっちには背を向けたままだ。さっき放たれてた威圧感はもう消えてる。

 まさか、《暗殺者》に助けられるなんて、思ってもみなかった。前回はただ見てるだけだったから《冥王》の手下かもとか思ってたのに……もしかして前も助けようとしてくれてたのかな?



「あの……助けてくれて、ありがとう」



 色々考えてた私の代わりに、真白が一歩《暗殺者》に近づきながらお礼を言う。すると、《暗殺者》はゆっくりとこちらを振り返った。



 ぁんれ?ま、また睨まれた……。しかも、声をかけた真白ではなく私が。なんで?



「……」



 あ、ビビってる間に歩き出しちゃった。聞きたいことはあるけど、今は真白がいるし、ここで引き止めても話せることって限られてるから、今はいいか。

 でも、本当の本当になんなんだ?なんで、あんなに私のこと睨んでくるんだろう。執拗に睨んでくるから、てっきり私に敵意があると思って《冥王》の手下かもとか疑ってたのに。助けてくれたからその線は薄くなったわけだけど。



 まぁ、なにはともあれ、今回も私も真白もメガネも無事でよかった。



「奈美!?大丈夫?」

「あ、うん。腰抜けただけ」


 一気に体の力抜けたせいで、今回は私の方がへたりこんでしまった。そんだけ体に力入ってたんだろうな。前世でもあんな石ぶつけられたことなんてなかったから、どんだけ痛いか未知数で体がこわばってたんだろうね。

 座り込んだ私の顔を、真白が泣き出しそうな顔で覗き込んでくる。


「ごめんね、私をかばおうとして……」

「ううん、結局怪我しなかったし。真白に何もなくてよかったよ」

「なんで、そこまでして……助けてくれるの?」



 なんで、か……。



「真白は私の友達なんだから、当たり前じゃん」

「奈美……!ありがとう!!」



 涙をにじませながら私に抱きついてくる真白。真白に抱きつかれるなんて、普段の私なら昇天しそうなほど喜ぶところなんだけど、今回はちょっとそんな気分にはなれなかった。



 チクリと胸を刺したのは、多分罪悪感、かな。



 もちろん、友達だって思ってるのは嘘じゃない。真白のことはすごくすごくすごくすごく大好きだ。

 でも、わかってる。基本根性なしで薄情な私は、友達で大好きだからって理由で体まで張れるような勇気ある人間じゃないってこと。いざとなれば自分を守るために、簡単に大切な人を裏切るような人間だってこと。


 今こうして頑張れてるのは《冥王》のことがあるからなんだよね。真白が怪我したら嫌だなって思うのも、結局は《冥王》が降臨して世界が滅亡しちゃったら、なんかそれ私のせいみたいで嫌だなって、思ってるからなんだよね。




 もし、《冥王》のことなしでここまで真白にしてあげられたかと言われると……正直自信ない。


 そう思うから、なにも疑わずに私を抱きしめてくれる真白に、罪悪感が湧いてきたんだろうな。




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