9. それから1ヶ月くらい考え続けてみました。
7/1 改稿しました。内容が微妙に変わっています。
それから、1ヶ月くらいが過ぎた頃。
「平野ー。この後職員室によってくれー」
さっさと帰ってゲームの続き、と思っていたら担任から声をかけられた。無駄に声が大きくて、クラスメート全員にそれは聞こえていたのだろう。「あいつ何やらかしたんだ?」とか「とうとう退学じゃない?キモすぎて」とか声が聞こえて来る。
キモすぎて退学って何だ。お前のほうが化粧臭すぎて退学させられる可能性高いっつの、この化学製品の塊が!もはや公害レベルであることにいい加減気付け!
心の中で悪態をついて、荷物を持って職員室に向かう。実は、そろそろ呼び出しをくらうのではないかと予想はついていた。
「平野さん、大丈夫?」
後ろから相変わらず優しげに真白さんが声をかけてきてくれる。本当に、真白さんの垢を煎じてあの化学物質の塊に飲ませてやりたい。真白さんの100パーセント天然ものの美しさに癒されながら、私は真白さんの心配を振り払うために笑ってみせる。
「大丈夫大丈夫。多分進路の話だと思うから」
「進路?」
「うん、実は私もあの学園受けようと思ってるんだ」
「え!?本当!?」
「この間の進路希望調査に書いたから、その話だと思う。多分反対されるんだと思うけどね」
「え?なんで?」
「私そんなに成績よくないからさ」
「今から頑張れば大丈夫だよ!先生の言うことなんかに負けないでね!」
力いっぱい激励の言葉をいただいた。そんなに同じ学校を受験する人がいるのが嬉しいらしい。いや、どっちかというと真白さんは前世の話を共有できているところに喜びを感じてるのかな?
まぁ、まだ勝手に自分の中で受験しようと決めただけで、担任に全力で止められたらもしかしたら気持ちを変えるかもしれない。嬉しくないことを言われるのは間違いなので、その心の準備だけして私は職員室へ向かった。
「お前、本当にこの学園にいきたいのかー?」
職員室に行くと案の定、担任は私が提出した進路希望表を手にそう尋ねてくる。放課後の職員室はほとんどの先生たちが戻ってきててざわざわとしていた。3年の先生たちの机の周りには結構生徒がいた。どうやら受験に向けての相談を他のクラスでもどんどん進めているようだ。うちのクラスでは私がトップバッターらしい。
まぁ、今まで努力するのなんて馬鹿らしいって態度を前面に押し出してきた私が、自分の現在の実力じゃ入れない上のレベルの学校を第一希望に書いてきたら、何か言われるのは必至だろうなと思ってたけれど。
「ちょっと色々調べてたら興味が出てきて」
「それはそうなんだけどなー、学費高いぞ?」
「奨学金もらえる特待生の枠で受験して、それで落ちたら諦めます」
「なるほどなー」
相変わらずののんびり口調でそう言いながら首を縦に振る。どうやら、頭ごなしに「お前には無理だ」とか言うつもりはないらしい。まぁ、結局受験料を払うのはうちの親だしな。チャレンジぐらいさせてみるか、とでも思われてるのかもしれない。
「親御さんには相談したのか?」
「一応話してます。奨学金免除の枠に入れるならそこに通ってもいいって」
「ふざけて書いたわけじゃなさそうだなー」
どうやら冗談だと思われていたらしい。まぁ、確かに前世でもこういうとき見栄を張って絶対に無理だろというくらいレベルの高い学校書いたりする奴もいるからな。え、そんな人たちと同じと思われたの?なんかやだな。
私は真剣に自分の将来を考えた末、この結論を出したというのに。
「無理とは言わんがなぁ、厳しいとは思うぞー」
「わかってます。別にそこに行けなかったら死のうとか思ってないんで大丈夫です」
「そんな心配してるわけじゃないだがなー……まー、がんばってみろ」
話はそれで終わりだったようだ。担任は私の出した進路希望表の隅にチェックを入れると、立ててあったファイルの一つにしまい込んだ。
思いの外あっさり終わってしまって、来る前に入れた気合は完全に無駄になったなと思いながら、私は職員室を出た。
んで、肝心のこの1ヶ月私が何を考えていたかということなんですけれども。
端的に言いますと、自分の将来について真剣に考えておりました。