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9. 新入生歓迎遠足②




 お昼の自由時間。この時間を使ってみんな自由に昼食をとって、食べ終わった生徒から好き好きに動き回ってもいい。大抵はクラスの親睦を深めるために、クラス単位でドッチボールをやったり長縄をやったりが定番だけど。それも終わればみんな自由に公園の中を歩き回る。


 この公園、去年も思ったけどともかく広くて、人目につきにく場所がたんまりとあるんだよねー。おかげで私も之上様たちにメリケンを食らいかける事態に陥ったんだけど……ともかく、真白が1人にならないように注意を払わないといけない。


 ただ、ずっと私が真白についてるわけにもいかないんだよね。一応生徒会のメンバーだから、昼休み中は問題が起こってないか公園のあっちこっちを手分けして見回る仕事がある。生徒会メンバーの親交を深める意味もあって、ペアは大体違う学年の人と組まされる。

 去年はこの見回り中、一緒に回ってた先輩がちょっと友達としゃべってる隙に井之上様たちに連れされたんだよね……。真白とペアの先輩は男だし、真白から目を離さないでいてくれるとは思うんだけど。


 

「真白、何かあったらすぐに大声出すんだよ」

「先輩と一緒だから大丈夫だよ」



 真白は心配しすぎだって風に笑って見回りを開始した。このあいだの出来事を忘れたわけじゃないんだろうけど、学校行事であんな騒ぎがこるはずないって真白は思ってるのかもしれない。

 普通だったらそうかもしれないけど……いや、現に去年私もボコボコにされかけたわけだし、井之上様たちや木戸たちの過激さは普通をかけ離れている。大好きな男のためにあれだけ過激になれるのも若さだよね。いやー、ある意味感心しちゃうよ。



「平尾先輩、真白先輩の誕生日っていつなんですか?」



 そして、私の隣にも若さと情熱を思いっきり発揮している人物が1人。一緒に見回りをすることになっていた、新入生の生徒会メンバーの男子生徒がこれはチャンスとばかりにさっきから真白について色々と質問してくる。

 こっちは真白の心配したり、《冥王》や《暗殺者》のこと考えたりと忙しいていうのに……。

 てかね、後輩君。指摘しにくい微妙な具合に私の名前を間違えるんじゃない。もう何回顔を合わせてると思ってるんだ。まぁ、この見るからに純粋で悪気のなさそうな後輩君の目には真白しか写ってないのは当然だろうけども、頼むから私の単純な名前くらい覚えてくれ。



「あ、それよりも、私も君に聞きたいことがあったんだった」

「え?僕の誕生日ですか?僕の誕生日は……」



 いやいや、君の誕生日なんて聞いてないぞ!血液型まで教えてくれなくていいから!……この後輩君、モブのくせになかなか灰汁の強そうなキャラをしてるな。同じモブとして少しは見習うべきだろうか?



「じゃなくて、ちょっと名前を知りたい生徒がいるんだけど」

「え?平尾先輩、そんな地味な顔してもうツバつけときたい後輩見つけてるんですか!?なかなかやりますねー」



 この子、全然人の話を聞かないタイプなの?えぇい!こんなの相手に1つ1つ突っ込んでたらきりない!必殺!!全スルーーーー!!!



「1年にアクセつけまくって髪にメッシュ入った男子生徒いるでしょ?彼のクラスと名前を知りたいんだけど」

「へー、平尾先輩ってあぁいうのがタイプなんですか?実はメガネをかけてる姿は仮の姿で、メガネを取るとバリバリのギャルキャラになるとか?」



 そんな設定ありません。やばい。この子、かなり面倒だな。

 これ、また必殺技使わないといけないパターンじゃん。あんまり全スルーばっかりしてると、私に突っ込みとしての能力が足りないと思われるかもしれないから嫌なんですけど……この際仕方ないか。



「クラスだけでも知らない?」

「あぁ、名前も知ってますよ。名前は小夜時雨さよしぐれ 隼人はやとでクラスはE組だったかな?悪目立ちしてるくせに、全然誰ともつるまないって早速学年で浮いてますから、名前知らない奴の方が少ないんじゃないですかね」

「そっか。ありがとう」



 もっと早く教えてくれたら、もっと素直に感謝できたと思うんだけどね……。まぁ、それは置いといて、無事に名前が分かったからよしとしよう。

 しかし、ヘンテコな名前だな。ゲームでは確か”夜”がつく名前だったとは思うけど、そんな珍しい名前じゃなかった気がするんだけど。でも、ちょっと湿っぽそうな感じは《暗殺者》っぽさが出てるといえるのか?



「じゃあ、平尾先輩の質問に答えてあげたんですから、今度は先輩が俺の質問に答える番ですよ!」



 ちょっと待て。君さっきからひたすら真白について質問しまくってて、できる限りの範囲で私が答えてあげてたのをすでに忘れてしまったのか?君は数歩あるいたら記憶を失ってしまう類の種族なのか!?


 

「真白先輩の好きな飲み物を教えてください!」

「紅茶。特にアールグレイ」

「真白先輩の好きな動物を教えてください!」

「鳥類全般。インコを飼ってる」

「真白先輩の好きな色を教えてください!」

「淡い色全般。特に黄色」

「平尾先輩さすがっすねー。真白先輩検定があったら間違いなく満点で合格ですね!じゃあ、次の質問行きますよー!」





 こんな感じで後輩君に名前を間違われ続け、真白についてひたすら質問を受けながら見回りをしていた数分後。





「平野君!」



 声に反応して振り返ると、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくる《女騎士》の姿。後ろから《女騎士》と一緒に見回りをしていた1年の女子も後ろから追いかけてくる。

 私を呼ぶ声も、振り返った時に見えた顔も、明らかに緊張感を帯びていた。その時点で、すぐに嫌な予感が頭をよぎる。



「真白君がいなくなった」

「一緒にいた先輩は!?」

「それが、女子に呼び出されて真白君と一瞬離れたらしい」



 おいおいおいおい!学園一、いやこの市内一可愛い真白を差し置いて、他の女に呼び出されたからってそっちについて行っちゃうとはどういう了見だ、先輩よ!?あれか?高嶺の花より手の届く花を選んだってことか?なんて現実的な先輩なんだ!



「今、武蔵野君や他の面子で探し回ってるんだが……」


 これだけ広い公園だ。生徒会メンバー総出で探しても、かなり時間がかかるだろう。


「私、一箇所心当たりがあるから行ってみる」

「1人で大丈夫かい?」

「この子連れて行くから大丈夫」


 隣にいた後輩君の腕をガッとつかむ。なんか私じゃ頼りなさそうだから《女騎士》について行きたいって雰囲気醸し出してるけど、そんなの無視だ無視。 


「わかった。見つかったらすぐに大声で叫んでくれ。すぐに駆けつけるよ」

「うん。いくよ、後輩君!」

「はーい」



 気の抜けた後輩君の返事を聞きながら、私は目指すべき場所、去年井之上様たちに囲まれた場所に向かって走り出した。



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