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7. 裏庭②




 茂みの奥に消えていく女子たちの後ろ姿を見て、全身に入っていた力が一気に抜けていく。

 よ、よかった……。なんかすごい危ない目してたからなりふり構わず襲い掛かってくるかと思ったけど、どうやら完全に部が悪いと判断したみたいだ。

 真白も顔色は悪かったけど、ひとまず女子たちがいなくなって安心したみたいだ。そのせいかへなへなと地面に座り込む。



「真白、大丈夫?」

「うん、ちょっと安心したら力ぬけちゃって……」



 真白は苦笑しながらおどけたように言う。多分、私を心配させないように強がってるんだと思うけど、真白にはかなりショックな出来事だったにちがいない。

 これまでの真白の人生全てを知ってるわけじゃないけど、今まではみんなと仲良く敵を作らずに真白は過ごしてきたと思う。こんな風にあからさまな敵意を向けられたのって、初めてなんじゃないかな。そんな真白に今回の出来事は衝撃的すぎただろう。いまだに私の手を握る真白の手から力が抜けてないのがその証拠だと思う。



「怪我はないね?」

「うん、真白と私は大丈夫」

「翔子は?」

「私も大丈夫だ」


 

 《女騎士》が真白にニコリと笑いかける。その表情に真白はほっと息をついて、少しだけ私の手を握っていた力を緩めた。



「彼女たち、なんだか様子がおかしかったね」

「うん……」



 立ち上がりながら、私にだけ聞こえる声のボリュームで《女騎士》が言う。女子たちが走り去っていた方向を見ながら怪訝な表情を浮かべた《女騎士》にも、やっぱり彼女たちの様子は普通に見えなかったみたいだ。



「真白君を襲ったのは嫉妬か何かの類なんだろうけど……なんだかそういう感情的なものが彼女たちからは感じられなかったよ」

「うん、なんか、ぼうっとしてたっていうか……」



 ……もしかしたら、彼女たみたいな様子を”何かに操られたみたい”って表現するのかもしれない。

 漫画とかによくある表現だけど、彼女たちからは確かにそんな感じがした。私たちが現れても慌てなかったことといい、どう考えても”普通のいじめをする女子高生”には見えなかった。




 仮に、本当にそうだとするなら……問題は一体”何に”操られていたのかってことだけど……。




「奈美、翔子……来てくれてありがとう」



 考えふけっていると、ようやくショックから回復した真白が立ち上あった。顔色もさっきに比べれば少しマシになってる。


「一体、何があったんだい?」

「それが……よくわからないんだけど、突然囲まれて、殴りかかられて……」


 問いかけた《女騎士》に、真白は困惑した表情で答える。


「それだけ?何か言われなかったの?」

「うん……なんでこんなことするのって聞いたけど、何も答えてもらえなくて……」



 何も、言わなかった?それは変だ。《勇者》や《魔王》に近づく真白が許せなくてあんなことをしたのなら、必ず「これ以上彼らに近づくな」的な決まり文句を吐くはずだ。そうして真白を牽制することが彼女たちのいじめの目的のはず。

 真白が目障りすぎて手っ取り早く怪我させて学校に来させたのかもしれないけど、それはちょっとリスクが高すぎる。真白が誰のせいで怪我をしたのか証言すれば、その生徒たちは退学になる可能性だってある。それは”いじめ”の行動として相応しくない。



 ……まさか、本当にただただ真白を殴りたかったのか?


 そして、真白を気絶させて《冥王》を降臨させるのが本当の目的?



 いや、それはちょっと考えが飛躍しすぎてるか。どうも始業式の時に見た夢のせいで、なんでも《冥王》に結びつけようとしちゃってるのかもしれないな。

 だいたい、この世界には魔法の類なんてものは存在してないんだ。たとえ彼女たちが”操られてるみたい”に見えたとしても、そんな方法存在しないはず。やばい薬とかあったら話は別だけどさ、そんなのあったら間違いなく社会問題になってるでしょ。


 今はっきりしてるのは、井上様一派と木戸一派が手を組んで真白を標的に本格的に動き出したってことだ。《冥王》が絡んでいようがいなかろうが、彼女たちがものすっごく過激なのは私が身をもって知ってるから、十分に用心しないといけない。



「……先生たちにも報告しておいたほうがいいね」

「うん。そうだね」



 《女騎士》に一応相槌を打つけど、内心ではあんまり意味ないだろうなと思ってた。ここでそんなことが起こったって証拠がないし、いくら真白に襲い掛かった女子たちの名前を並べてみても、お金持ちのご令嬢とかだったら、下手に疑うことだってできないだろう。学校側は現場を押さえない限り下手に動いたりは絶対にしない。

 でも、《吟遊詩人》なら、多少警戒するくらいはしてくれるだろう。それだけでも少しは違って────




 ん?今、あの辺の茂みが動いたような……。


 あ、……あそこの木の陰に誰かいる。


 ……あれって、《暗殺者》じゃん。




「……」

「……」



 私に気がつかれて、《暗殺者》は身を隠すのをやめたらしい。わずかに木の陰から身を出して、こちらをじっと伺う。

 え、なんでそんなこっちじぃっとみんの?……ってー、また睨まれたし。一体なんなんだ?

 

 てか、いつからいたのか知らないけど、仮にも《暗殺者》の生まれ変わりなら真白を助けに割ってこいよ。女3人が頑張ってたっていうのに、傍観してるなんて男の風上にも────





 ……ちょっとまって、さっきの一部始終、あいつ、わざと傍観してた?


 真白が襲われてるのにあえて何もしなかった?


 それってつまり……《暗殺者》は真白の敵ってこと?




 え、まさかとは思うけどさ……《暗殺者》が《冥王》なんてことないよね?





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