1. 始業式①
2年目突入。やっとだわ。
辺りは真っ暗だった。たまに赤い揺らめきが空間の向こうに見える。
……あり?なんだこりゃ?
えとー、えとー……。明日から2年生としての学園生活が始まるから、その前にどうしても、どうしてもクリアしておきたかったゲームを突貫で進めてて、気がついたらあっとう間に日付変わってて、無理やり2週目突入してたらあっとう間に空が白み始めて、そのあたりでさすがに限界がきてベッドに倒れて……。
なるほど、これは夢か。
納得しつつ辺りを見渡す。 そしてまたしても既視感を覚えた。
……え?ちょっとまって、これって、あの夢だよね?さすがに3回目だから気づいたよ!
てか、またなの!?また新学期の朝なの!?そういうお約束なの!?あー、本当やめてよね。何度も言うけどさ、悶えるのって冗談じゃなく結構体力をつか────
途端、目の前に、闇が現れる。
『邪魔をするなと言ったのに、お前は私の忠告を全く聞く気はないようだな』
で、出たーーー!!文句言ってたら当の本人が出てきたーーー!!
ただの闇の塊だから顔とか体型とか全然わかんないけどさ、その声は間違いなく今まで夢で見てきた《冥王》の声!わ、私はまたベッドの上で悶える羽目になるのか!!?
『おい、聞いているのか?』
「……え?」
あれ?おかしいな。今までのパターンだと、確か《冥王》の声が聞こえた途端目が覚めて、ベッドの上で悶えるっていうのがお決まりだったのに……。
目が、覚めない?
えーーーーー!?ちょ、待って!?まさかこれ、夢じゃないとかいうんじゃないよね!?いやいや、確かに私自分の部屋にいたし!さすがに家抜け出すほどすごい寝ぼけ方なんてできないぞ!?はっ、まさか《冥王》に操られて知らぬ間にこんなところに来ちゃったとか……!?
『おい、私を無視するな』
……目が覚めないどころか、私、もしかして《冥王》に話しかけられてる?
『ようやく耳を傾ける気になったか。よく聞いておけ。この間までは脅しだったが、今度邪魔したらお前もタダじゃおかないからな。命が惜しければ《聖女》から離れることだ』
ちょ、何それ。邪魔って、確かに”冥王エンド”を避けるために色々しているけど、もしかしてそれが有効に働いてるってこと?だから《冥王》は怒って私の夢に出てきてる?
『これからは私自ら動く。お前の妨害がうまくいくのもここまでだ』
な、何それ!?つまり、《冥王》はもうすぐ近くまで迫ってるってこと!!?
『今度こそ、この世界を闇で包み込んでやる』
「!!!!!」
体がびくりと跳ねた。そんな自分の体の動きで完全に覚醒する。なぜか汗ばんで息があがっていた。でも、正直それすら気に留められていられなかった。
目を覚ます直前に聞いた声の余韻が耳元に残っている。全身に鳥肌が立ち上がっていた。
全身を犯すのは、間違いなく寒気。
前回までとは違う、本当の本当の恐怖。《冥王》は本当に存在していて、そして世界の滅亡を願ってる。《冥王》の存在は《魔術師》の話から実在してるのはわかってたけど、でも、それを直に感じてしまったら、恐怖を感じずにはいられない。
それに、封印されてるはずなのに、『タダじゃおかない』とか『自ら動く』っていうあのセリフ……どう考えてもこの世界に干渉できるってことを意味してる。
「……これ、マジでまずい?」
思わず呟いたその声はカラカラに乾いて、掠れてて、から回るようにして空気をわずかに震わせる。
相変わらず新学期に相応しくない、進級するっていう朝にはもちろん相応しくない、そんな朝だった。