表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/202

8. 授業中も考え続けてみました。

7/1 改稿しました。内容が微妙に変わってます。




「このあたりの問題テストによく出るから、しっかり覚えておくのよ」



 そう言って黒板を叩いているのは歴史の先生だ。歴史は好きだが、歴史のテストは好きじゃない。重箱の隅をつつくようなずるい問題がわんさかあるからだ。あれを解いていると、重要なのは過去の出来事を振り返って未来に生かすことより、人の揚げ足をとるようにわずかな間違いを見抜きその隙に付け入ることの方が人生において重要だと思えてくる。やれやれだ。


 と、思わず歴史の先生の発言に気をとられていたが、今は私はそれどころではない。受験生と言われようと、それどころではないったらない。



 だって、今私が考えてるのは、この星にある全ての生命の危機についてなのだから。



 《冥王》のヤミエンド、”世界滅亡エンド”、”冥王エンド”などとも呼ばれるが、ともかくそれは【今キミ】の舞台となる世界のありとあらゆる生命が1つ残らず滅亡するエンドだ。

 他のキャラのエンドは前世で言うところの現代世界の域を出ないものばかりなのに、なぜか”冥王エンド”だけファンタジーな要素が絡んでくる。原作が【セント・ファンタジア】だからということで説明はできるが、それにしたって、”世界滅亡”ってねぇ……。ちなみに、”冥王エンド”のシナリオはこうだ。


 【セント・ファンタジア】のエンディングで完全封印された《冥王》はわずかな力を使って外界に接触し、《聖女》の生まれ変わりがいる学園へ保健医として潜り込んでくる。そして、見事に《聖女》の心を虜にし、卒業式の告白で《冥王》のキスを《聖女》が受け入れた時、《冥王》を縛り付けていた封印が消え去る。《創造主》の片割れと言われる《聖女》のキスが、《冥王》の封印を解いてしまったのだ。そして、一瞬にして世界は闇で覆いつくされ、《冥王》と《聖女》以外の生命は死滅する。



「この静かな世界で、永遠に2人だけで過ごそう」



 というのが、《冥王》様の愛の言葉。

 うぅ……思い出しただけでゾクゾクする。《冥王》役をやっていたのは私が一番愛していた声優だったんだよね。あの声が聞きたいがために、私は何度も世界を滅亡させた。動画サイトとかでも観れるけど、やっぱその過程も含めてこそこの最後のセリフに深みが出るのだ。隠しキャラなので本気を出せば1時間くらいでクリアできたし。

 そんな感じでただのゲームなら私は転げ回るように喜びながら、何度も世界を滅亡させてしまうわけなのだが……。



 でもね、もしそれが本当に自分が生きてる世界だとしたら、もちろんそんなことしませんよ?



 世界滅亡ってことはもちろん、私も跡形もなく消え去ってしまうということだ。同い年の真白さんが《聖女》の生まれ変わりだということは、《冥王エンド》が起こったとしたら私の人生は高校3年生で終わりを遂げてしまうことになる。



 そんなことは断固として拒否したい。



 せっかく転生できたんだからもっとこの人生を楽しみたい。魔法とかが使えるわけじゃないけど、違う世界だから旅行とかもいっぱい行きたいし、それにこの世界にだってオリジナルの乙女ゲームが存在するからいっぱいプレイしたいし、好きな声優さんだっているし、漫画だって面白いし。



 それに、せっかく前世の記憶を取り戻したんだから、ちょっと大人な階段的な野望も持っていたりするんだよねー。



 兎にも角にも、私は《平野奈美》としての人生を全うしたいのだ。前世は多分かなり早く死んだか何だしたのだろうから、今世はヨボヨボのおばあちゃんになるまで生きてみたい。そうして見えてくる世界はどんなものか是非とも感じてみたい。


 とういわけで、前世のように声が聞きたいからって”冥王エンド”を選ぶような安易なことはしない。……ちょっと声のことは気になるけど、でもしない。やっぱ自分の命の方が大事だ。

 だから、もしこの世界で”冥王エンド”が起こる可能性があるというなら、私は全力でそれを阻止しに行こうと思う。



 思ってはいるんだけどもさ……具体的にどうすればいいんだろう?仮に私が主人公だったら聖亜細誕巫亜学園に入学しなかったらいいだけの話なんだけど、主人公は真白さんだし……。

 真白さんに聖亜細誕巫亜学園に入学しないように説得するっていうのは1つの手かもしれないけど、《創造主》様の啓示を受けたって、あれだけ嬉しそうに話していた真白さんを知り合ったばかりの私が説得するっていうのは無理な話だよね。

 高校の進路だって今後の進路に関わってくるんだから真白さんの人生を左右することにもなっちゃうかもしれないし、そんな大それたことする勇気ないし。



「うーん……」

「あら、平野さん。何か考え込んでるみたいだけど、質問でもあるの?」

「え?」

「まさか全然関係ないこと考えてたってわけじゃないわよね?」

「そんなわけないじゃないですか。なんでその領主様はその時にそんな行動をとったのかなと悩んでいただけで……」

「あら、いい質問ね。実はこの領主は……」



 お、うまいこと誤魔化せたみたいだ。

 先生がこちらから視線を外して話し始めたことを確認してホッと息を吐く。封建制度時代の話だったのは覚えていたので当てずっぽうで適当なことを言ってみたが、いい質問だったらしい。こそあど言葉の有用性を再確認した瞬間だった。



 えっとー……先生に話しかけられる前は何考えてたんだっけ?あ、思い出した思い出した。



 ともかく、真白さんが《冥王》を選ばなきゃ”冥王エンド”は起きないわけだ。そもそも、”冥王エンド”の発生条件が変り種だし。8人もいる攻略対象の中からわざわざそこに落ちるなんて、そうそうあり得るわけないよねー。

 私が何もしなくても、多分大丈夫でしょ。ゲーム知識はあるけど、主人公でも攻略キャラでもサブキャラでもないし。





 なぁんて、ゲームの感覚で軽くそんなことを考えてはいたんだけど、一方で振り払えない思いもあった。



 もし万が一、真白さんが”ヤツ”に落ちちゃって、世界が滅亡しちゃったら……



 その可能性に気付いてたのに何もしなかったことを、私はきっと後悔するんだろうなー……って。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ