12. A組の教室②
「じゃあ、私たちと一緒に食べましょう!」
「真白に誘われたんじゃ断れないな。じゃあ、お言葉に甘えて」
「誘われなくてもそのつもりだったくせに」
どうやら《魔術師》も私と同じ考えらしい。疑わしげな目でに睨みつけられて、《吟遊詩人》は誤魔化すように笑ってるから間違いないだろう。
「こら、博臣。先生に向かってその態度はなんだ」
「ふんっ」
おぉ、《魔術師》にお説教をかますとはさすが幼馴染設定。
「それに、なんだこの弁当は!?葉っぱしか入ってないじゃないか!」
「栄養価の高いケールだよ。これだけ食べてれば大体の栄養摂取できるの」
「そんなので腹が膨れるわけないだろう!私が持ってきた握り飯を1つ分けてやるから」
「いらないよ。僕の体は効率よく栄養摂取するようにできてるから大丈夫なの」
「栄養価がなんだ!腹がふくれなければ食事をする意味がないだろう!」
「はぁ……これだから学校でショウに関わるのは嫌だったのに……」
もう一回言っとこう、さすが幼馴染設定。《女騎士》のおかげで《魔術師》が完全に翻弄されている。天然気味な《女騎士》には《魔術師》の理詰めの言葉は届かないみたいだ。これから《魔術師》関連で困った時には《女騎士》を引っ張ってくることにしよう。
「これ、お前の仕業か?」
《魔術師》と《女騎士》の夫婦漫才みたいなやり取りをのほほんと聞いていたら、隣からこそっと《吟遊詩人》が耳打ちをしてくる。真白も《勇者》も滅多に見れない《魔術師》の様子に釘付けになっている様子で、《吟遊詩人》が私に話しかけたのには気づかない。
「なんのことですか?」
「どうせ、お前が謀ったんだろ?」
ニヤリと笑った《吟遊詩人》が騒ぐ《女騎士》、げんなりしてる《魔術師》、おかしそうに笑う《勇者》、そして優しげに笑う真白……《聖女》に順に視線を送る。
「《勇者》パーティが揃ってる」
そう、《吟遊詩人》の言う通り。今この場に【セント・ファンタジア】の《勇者》パーティが勢揃いしてる。《聖女》がこのパーティに加わっていたのは、わずかな時間だけど、《勇者》《魔術師》《吟遊詩人》《女騎士》のこの4人は、《魔王》がまだ敵だと思われていた頃から一緒に旅をしたパーティだ。
《女騎士》とテストの結果を見て話してた時、みんなで一緒に集まったら《勇者》や真白が昔のことを思い出してくれるんじゃないかなと思って、私は《女騎士》を昼食に誘ったんだ。《吟遊詩人》がきたのは本当にただの偶然だけど。
「俺と児玉以外はほとんど何も思い出してないんだろうけど、なんか懐かしい気持ちになるよ、こうしてると」
しみじみと言ってみせる《吟遊詩人》。きっと、彼の脳裏には前世での記憶が鮮明に蘇っているのだろう。
ちなみに、私の脳裏に浮かぶのは【セント・ファンタジア】のゲーム画面。洞窟を探索してる途中に野宿の準備をする前にイベントが発生して、他愛ない会話が繰り広げられる。私がプレイしたのはオリジナルを他のゲーム機に移植したリメイク版だったけど、それもアニメチャットとかはなくて、ただアバターがいる場面にセリフが表示されるだけのイベントだった。
でも、今なら鮮明に想像できる。居る場所も、着てる服とかも違うし、《魔術師》にいたってはは全然性格もちがってるけど、多分雰囲気はこんな感じ。《吟遊詩人》はきっと、騒ぐみんなを微笑ましく、少し遠くで眺めてたじゃないかな。
そういえば、このイベントの後に、【魔族】陣営の《魔王》と《暗殺者》がパーティに加わるんだよね。
……なぁんて、思いながらふと廊下の方に視線をやったら、嫌に目立つ銀髪が視界に入る。
げ!あれは……《魔王》じゃないか!
も、もしかして、みんなで仲良さげにご飯食べてるところ見られた!?ただでさえクリスマスパーティの時ショック受けてたのに、《勇者》パーティ勢揃いとか見ちゃったら、彼の心の傷はさらに開いてしまうんじゃないか!?
こんなシチュエーションになるように企てたのは私だけれどもさ、まさか《魔王》に見られるなんて思ってなかったんだよ!
さっきちらりと見えた思いつめた顔。
放っておくのは……ちょっとまずいかも……。
「わ、私ちょっと用事思い出した!」
「え?お昼食べないの?」
「次の授業中にこっそり食べるから大丈夫!」
首をかしげる真白に、それだけ言って私は教室を飛び出す。
「おいおい、次の授業って俺の授業じゃないか。平野は歌いながら弁当食べる気か?」
「ふむ、平野君は独特な特技を持っているんだな」
「相変わらずだね、ショウ」
「……」
最後に1人で呆然としている《勇者》よ、ツッコミ人代理は君に任せた!
そのおとぼけ《勇者》パーティを責任持ってさばいておくように!!