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9. 冬休み:古本屋




 三が日が終わって、新学期も間近に迫ってきた。冬休みはこんなにも短いというのに、どう考えたって無茶だろうという量の課題が出たせいで、私はほとんど部屋に引きこもってその課題と戦うことになった。去年の年末に風邪ね寝込んでたのが痛かったな。

 それもこれも全部《魔王》のせいだ!今度顔を合わせたら文句を言ってやらねば────




『おまえも、風邪引く前に中に入れよ』




 ……あれ?おかしいな?また風邪ひいたのか?なんか顔が熱くなって動悸が激しくなってきた。うーん、そんなに寒いわけじゃないんだけど。

 むしろ、これは暖房の聞きすぎた部屋にずっといたせいで頭がぼーっとなってるのかな?さっきまで降ってた雪も今はやんでるし、ちょっと気分転換に出かけてこようかなー。うん、思い立ったが吉日。こりゃ、行くっきゃないな!

 ちゃちゃっと支度をして、玄関に向かいながらリビングの方に声だけかける。


「ちょっとでかけてくるー」

「はぁい、いってらっしゃーい」

「きをつけてな」


 母と父の声もリビングから返ってくる。ついでにこんな会話も。

 


「きゃっ、奈美は出かけるんだって!久々に家に2人きりよ、真くん」

「あ、うん……そうだね」



 なんだ、今の会話。もしかして大事な一人娘にしばらく帰ってくるなと言ってるのか、あの母親は?そうかそうか、久々に父といちゃいちゃしたいんだな。高校生になる娘がいるというのに、相変わらずラブラブでなによりだ。

 仕方ないから、ここは気を利かしてやろうじゃないか。どれくらいのレベルでいちゃいちゃするかは知らんが、娘はしばらく帰らないことにします。……2時間ぐらいあればさすがに足りるよね?




 ■ □ ■




 ふらっと出かける予定で本屋にも行こうかと思ったけど、時間を潰すために立ち読みのできる古本屋を目指した。

 え?勉強中はそういうの封印してるんじゃないかって?ほら、両親の貴重な時間を邪魔しないためにもさ、ここは時間を潰さなきゃいけないわけよ。つまり、これは私の欲望からくる行動ではなく、両親を思う娘の無垢で純粋な心から発生した行動であって────



「うわっ!」「わっ!!」



 あ、しまった。久々の漫画の立ち読みが嬉しすぎて前をちゃんと見てなかった。おかげで思いっきり人とぶつかってしまった。ぶつかった途端、相手が持っていた本やらゲームやらが床に派手に散乱した。



「す、すみません!ちゃんと前を向いてなくて……」

「いや、こっちこそちょっとよそ見をしてたから」



 ぶつかった相手は20代半ばくらいの男の人だった。ツンツンした短い髪の毛に、がっちりした体つきで思いっきりスポーツマンって感じだ。でも、怖い人じゃないみたい。

 よかった……一瞬因縁つけられるかと思ったけど、見た目の割に優しい人みたいだ。

 ってー、安心してる場合じゃない。激しく散乱させてしまったゲームとかを拾わな────



『大正浪漫 華族令嬢の恋』

『Bloody Lover ご主人様は吸血鬼!?』

『私の純潔、捧げます』



 あれ?えっとー…… これって……。



「うわぁぁぁぁ!!!」



 散乱していたゲームをじぃっと見ていたら、ぶつかった男の人が突然大声をあげた。私も頭の中混乱してたから、その声にもイマイチうまく反応できない。

 そうしてる間に、男の人はすごい勢いで私の手元にあったゲームを回収して、レジの方へ駆け去って行った。

 ……つまり、それ全部買うってことですよね?




 あの人が持ってたゲーム、全部乙女ゲームだったんですけど。




 あれか、マッチョな人によくある、あれか。あれのなのか。

 そうかー……結構カッコよかったのにな。スポーツマンなんて私のタイプではないけれど、勿体ないなって思っちゃうのは仕方ないよね。必死に婚活とかしてる女性たちにドンマイっと心から声をかけてあげたい。まぁ、同じ嗜好の男性たちにとってはラッキーってとこなんだろうけど。


 しかし、R18ものまで手を出すとは、あれは相当な乙女ゲーム好きとみた。成人ホモ男性と女子高校生の乙女ゲーム談義か……なかなかシュールな絵にはなりそうだが、案外盛り上がるかもしれないな。



 二度と会う機会はないだろうけどさ、多分今の人のことは一生忘れないだろうな。




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