8. 冬休み:初詣
どうも皆様、あけましておめでとうございます。
ってなわけで、無事に年を越すことができました。
まぁ、あんまり無事じゃなかったんだけどね。結局、私はクリスマスパーティの後を風邪をひいて大晦日まで寝込んだ。そりゃあんな薄着でテラスに立ってたら風邪をひくのは当たり前だよな……。ま、美味しいものを堪能するという当初の目標は、風邪を引きながらも見事に成し得てきたから個人的には文句なしだけど。
そんなこんなで寝込んでたら、あっとう間に年を越しちゃったわけですよ。1年前は学園に入学するために必死に勉強してたと思うと、なんだか感慨深ねぇ。
「奈美ー!そろそろ起きて、初詣いくわよー!!」
おっと、感慨に耽ってる場合じゃなかった。下の階から私を呼ぶ母親の声が聞こえる。うちの家族は毎年普通に家で年を越して、元旦の昼頃に近くの神社に初詣に行く。今年もしっかりとこの1年の平穏を神様にお祈りしないとな。特に《冥王》が降臨しないように、しっかりお祈りしとかなきゃ。
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家の近くにある神社は、歩いていける距離だけど、そこそこ大きな神社だ。この辺に住んでる人はだいたいこの神社に初詣にやってくる。おかげで、元旦は結構混んでる。
晴れ着姿の人も沢山いる。うん、やっぱ華やかだよね。自分が着るのにはあんま興味ないけど、見てる分には楽しいな。
人は多いけど、ここは学園からは少し離れてるから、学園の生徒らしき人は見ない。中学が一緒だった人たちをちらほらと見た。ま、中学ではほとんど友達いなかったから、声をかける相手なんて見当たらないんだけどね……って、あれ?
あれって……《吟遊詩人》?
母に声をかけて、参拝客の列を抜ける。見間違いかなーとも思ったけど、多分あれは《吟遊詩人》だった。もしかして、この近くに住んでるとかなのかな?
あ、発見。やっぱり《吟遊詩人》だった。んで、隣にいるのは例の彼女かな?
《吟遊詩人》は1人じゃなかった。隣に並んで歩く女性と腕を組んで楽しげに笑い合ってる。あっちに歩いてるってことは、もうお参りし終わって帰ってるところなんだろうな。
ここから見たらごくごくふつーのリア充って感じ。普段自分の生徒相手に下ネタまがいの相談かましてるセクハラ寸前教師とは到底思えないね。
うーん、いい機会だから《吟遊詩人》の子沢山人生について教えておいてあげたほうがいいのかな?
さすがに今世で15人も産まないと思うけどさ……5人ぐらいはケロッと産ませそうだぞ?
このご時世で5人ってきついよね。そんなの望んでないのに結婚しちゃったらあれよ、あれよと……なんて、ありえそうな話だ。
ま、そこまで野暮じゃないから直接言いに行ったりしないけどさ、せめてここから気をつけてオーラでも送っておこう。
なぁんて思ってたら、周りが突然ざわめき始めた。
何事だ?この神社で新年から特別な行事とかないはずだけど……。ざわめきの出どころを探してあたりを見渡す。すると、遠くのほうに人だかりが見えた。人だかりといっても、あからさまに野次馬ってる感じじゃなくて、遠巻きにその中心をチラチラ伺っている感じ。
もしかして……。
そう思いながら人の影に近づきながらざわめきの中心を確認すると、そこには案の定、真白の姿があった。
わー……真白、晴れ着着たのか。そりゃ、みんながこれだけざわめくのもわかるわ。
普段、真白を見慣れている私ですら、思わず口を開けて呆然としちゃうほど、真白の晴れ着姿は圧巻だった。まさに大和撫子。白を基調とした布に淡い橙の色がちりばめられ、繊細な花の刺繍が幾つも施してある。色とりどりの花ですら、真白という大輪を引き立てるためのものに過ぎず、ゆっくりと歩くその姿はまさに優雅。
いやはや、言っちゃ悪いけどさ、他の晴れ着姿の人たちが霞んでるわ、こりゃ。何がドンマイって、真白が来るこの神社にきちゃったことだよね。きっと、来年は他の神社に行こうと思った女性は多かったにちがいない。
しかし、もしかして《勇者》と一緒かと期待したけど、さすがにそうじゃなかったみたいだな。一緒にいるのはご両親だ。真白の家にお邪魔した時に何度か顔を合わせたことあるけど、真白が生まれたのが納得!って感じの美男美女カップルなんだよな、これがまた。
ざわめきの発生源を確認したところで、私はさっと人ごみに身を隠して元の道を戻る。え?なんで真白に声をかけないかって?
やー、さすがにあれだけ優雅で神々しい真白の横を歩く勇気ないわ。きっと神様も、あの美しい真白が1人で挨拶にくることを心待ちにしてるだろうしさ。なんか、ここで声をかけたらいろんなものに祟られそうだからやめとく。
ここで声をかけたら、流れ的に真白を両親に紹介しないといけないだろうし。真白を見た母親のリアクションと、そのあとの私へのいろいろなお小言が怖いから、そういう意味でもやっぱここは声をかけないでおく。もう少ししたら、すぐに学校で会えるしね。
そんなわけで、私は気合を入れて神様に参拝だ!
神様、どうか《冥王》によってこの世が滅びませんように。てか、《冥王》なんて、出てきませんように。どうかどうか、よろしくお力添えのほどを、お願いいたします。
よしよし、お賽銭は5円を10枚投げ込んでおいたし、住所もきちんと伝えたし、これでお祈りはバッチリなはず!
あとは定番のおみくじを引けば、新年の仕事は終わりだな!
どれどれ今年の運勢はー……中吉だ。
うん、上から二番目ってことはまずまずだな。さてさて、肝心の細かい内容は?
願望:叶い難し、努力せよ
失物:出ず、あきらめよ
あれ?なんか中吉のわりにいいこと書いてない。なんでだ!ほ、他の項目は!?
旅行:よし
勉学:安心して勉学せよ
出産:安産
縁談:切れぬ縁あり
あ、よかった。しょっぱなの項目がなんかすごいマイナスだったから焦ったわー。うん、この辺はなかなかいいんじゃない?出産は関係ないけどさ、勉強もこのまま頑張れってことだよね。旅行は今年の修学旅行の運勢ってことだろうな。よしよし、修学旅行は何の問題もなく楽しめそうだ。
……にしても、この縁談の内容、ちょっと気になるな。”切れぬ縁”?パッと聴いたらいい感じだけどさ……その縁が”いい縁”か”悪い縁”かによってその意味ってすごく変わってきますよね?
切れない悪い縁とか全然欲しくないんですけど……。まぁ、中吉のおみくじに書いてあることだし、きっといい縁のことだよね。うん、そう思っとこう。何事も気持ちが大事だからね!
さて、あとはこれを木に括りつけて……OK!!完璧だ!!新年のお仕事終了ー。早速帰ってこたつに潜り込んで、母が作ってくれたお雑煮を食べようではないか。