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6. クリスマスパーティ③




 井之上様達に見つからないようにといい場所を探してさまよっていたら、バルコニーに辿り着いた。まだ会場に到着したばかりの人が大半なせいか、比較的バルコニーは空いている。

 さすがにここにご飯は置いてないんだけど、井之上様に見つかったら何がなんでも2人のことを吐かせてやる!って暴力に訴えかけられそうだからね。新学期が始まっても人気のないところで1人になるのは控えておかなくちゃ。



「てか、寒っ……」



 吹き付けてきた風に思わず身を縮める。わかった、みんながバルコニーに出てこないのは単に寒いからなんだな。考えてみれば当たり前か。コートは入り口のクロークに預けて着ちゃったから、今は思いっきり薄着だ。いい隠れ場所だと思ったんだけどなー、この格好でここにいるのは不可能だな。

 よし、中にもど……………ん?



 会場に入ろうとして踵を返した時、視界の端に何かキラリと光るものが目に入った。


 見間違いかなーと思ってそっちの方を見てみたら、どうやら気のせいじゃなかったらしい。





 私の視界に入った光るもの、それはバルコニーに座り込んだ《魔王》の銀髪だった。





「こんな寒いところで、何やってんの?」

「お前には関係ない」



 声をかけたけど、こっちを見向きもせずにその答えだけが返ってきた。片膝を立てて、そこに載せた右手にはからのグラスを持っている。高校生のクリスマスパーティだからアルコール類は一切ないはずなんだけど、《魔王》の姿はやけ酒して黄昏ている酔っ払いにしか見えない。



 このしょぼくれ様はおそらく、さっき真白と《勇者》が一緒に入ってきたのを見ちゃったんだな。



「前も同じ様なこと言ったけどね、誘ってもないのに『負けた』とか思うのはお門違いだからね」

「……そんなの、言われなくてもわかってる」



 本当にわかってるのかねぇ。最近は頑張って真白に積極的に話しかけようと頑張ってたみたいだけど、いまいちうまくいってなかったし。真白は優しいから声をかけられたらちゃんと反応してあげてるのに、そのチャンスを《魔王》は全く活かしきれていない。

 真白に挨拶を返されただけで、今生で至上の至福でも味わってる様な顔して固まっちゃうんだもんな。どんだけ惚れこんじゃってんだ。


「結局、俺はあいつに近づくことなんてできないんだ」

「またそんな根拠のないことを……」

「根拠ならある」

「ん?」



「文化祭の時だって……会いに行ったのに、あいつはいなかった」



 ……あー、もしかして、《魔王》は真白のメイド服姿を見に来たのか。それで真白がいなかったということは……《勇者》の真白救出劇のあとに来たんだな、きっと。


 実はあの騒ぎのあと───正確には私が覗いたことが《勇者》と真白にばれて、そのことについて散々文句言われながらA組の教室に戻った後、先生たちの提案でこれ以上騒ぎが起きない様にと、真白はすぐにメイド服を脱ぐ様に言われてしまった。真白目当てで来たお客さんがほとんどだってことはわかってたけど、さすがにあんな騒ぎが起こっちゃったら、そうせざるを得ないよね。

 あの騒ぎが起こったのは2日目のお昼近くだったから、その後に来た人は真白のメイド服姿を見れなかったんだよね。それでかなりブーイング受けちゃって、結局一番人気の出し物に選ばれることもなかった。


 個人的には色々と仕方ないかぁ、くらいに思っていたんだけども……ここにその時の出来事によって、非常に傷つきまくった青春真っ只中の少年が1人いらっしゃった。



「なんで1日目に来なかったの?」

「1日目はクラスの出し物の担当でずっと教室にいたんだ」


 いつも行事をサボる癖に、なんでこういう時だけきっちり参加しちゃうかな。


「あ、そういえばB組の出し物って……」

「手作りアクセを展示だ」


 なるほど、合点がいった。自分の趣味に合う出し物だったから、きっと珍しく積極的に参加してたんだな。それは喜ばしいことだから褒めてあげたいところなんだけど、そのせいで真白の姿を見逃しちゃってこれだけ落ち込んじゃってたら褒める気も失せちゃうよねー。

 てか、隣のクラスなんだから、ちょこっと抜け出して一目くらい真白のメイド服姿を見るなんて簡単だっただろうに。




 不器用というかなんというか……残念なキャラだね、本当に。




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