4. クリスマスパーティ①
ぐっと冷え込んできたなぁ、と思ったらあっとう間に年末が迫ってきた。クリスマスにお正月と子供には嬉しい行事が詰まったこの時期だけど、私は記憶を取り戻す前からなんとなくこの季節が好きじゃなかった。
それはきっと、前世で年末にいい思い出がなかったからだと今なら納得出来る。年末は毎回追われるように仕事に明け暮れてたしな……。子供の頃は多少楽しかったけど、社会人としての年末年始が苦しすぎてトラウマになっていたんだろう。今世ではのんびり年末年始の休みが取れるような仕事についてみせる!!!
なぁんて、改めて気合を入れて日々の勉強に取り組んでいたら、あっとう間に今年最後の登校日、つまりクリスマスパーティの日になった。
「せっかくだから、もっとドレスっぽいのを買えば良かったのに」
玄関先で少しだけヒールのあるパンプスを履いていると、背後から母が声をかけてきた。事前に生徒会の先輩たちから聞いた話ではみんな普通にドレスを着てクリスマスパーティに参加するらしいが、私が着ているのはギリギリ普段着でも切れるようなワンピースに、レースで作られた薄手のボレロといったカジュアル 寄りな服装だ。もちろん、外はクソ寒いからこの上にコートを着てるけどね。
私のこの格好に、母はこうやって何度となく不満を漏らしてきた。学園でクリスマスパーティがあると話したとき、「まぁ、すてきね!」と自分のことのように浮き足立っていた母は、どうやら私にフリッフリのドレスを買う気満々だったらしい。
「下手な格好して行って目立ちたくないもん。1年なのに生意気とか、先輩に目をつけられたら面倒だし」
「それはそうかもしれないけど、ちょっと地味すぎない?」
母よ。あなたまでそれを言うのか。
「地味でいいの!ひっそりと美味しい物を楽しんでくるのが、今日の私の最大の目的なの!」
「色気がないわねぇ。お母さんが高校生の時なんかは……」
また、母の自慢話が始まった。今世の私の母は結構お茶目さんで、自分の過去のことをすごく話したがる性格をしている。前世の母の記憶はあまりないが、自分の高校生時代の話を嬉々として話すような人ではなかったのは確かだ。世の中にはいろんな母親というのがいるもんだな。
「そこで、運命のように出会ったのが真くん、つまりあなたのお父さんでね」
「はいはい、その話は何度も聞きました。それじゃ、行ってきます」
「あ、もう!話は途中なのに……。ともかく、いい男がいたらチャンスを逃しちゃダメよ!大概のいい男は高校の時から女にキープされて、そのまま結婚までなだれこんじゃうんだから!青田買いするなら今しかないのよ!!」
貴重なアドバイスありがとうございます。ご近所さんに聞かれたらまた失笑されちゃうから、声のボリュームだけは落としてね。
まぁ、でも母のアドバイスは的を得ていることはわかってる。青田買いって言葉が正しいかどうかはわかんないけど……ともかく、社会人になって”いい男” がすでに先約済みだったなんて例はいくつも見てきた。売れ残りたくないのなら、確かに今からいい男を探してがっちりキープしとくべきなのかもしれない。
でもねぇ、そこまで結婚に重きを置いてるわけじゃないし。一生独りはいやだなぁ、とは思うけど、一生ゲームや漫画やアニメに時間を費やしていきたいと思っている私と結婚してくれる寛大な男性がいるかどうかは難しいところだ。
「一緒に乙女ゲームを楽しんでくれるような人がいたらいいんだけどねぇ」
おっと、ついつい口に出してしまっていた。ご近所さんに聞かれたら、ますます変人扱いされてしまう。気をつけないと……。
あたりを見回して、誰にも今のつぶやきが聞かれていないことにホッと息を吐く。家の前を離れる前に、クリスマスプレゼントをちゃんと全部持ったか軽く確認してから、学校を目指した。
何度目になるかわからないけどさ。
迂闊なことって本当に口にするもんじゃないよ。
この時のことを後悔するのは、ずーーーーーーーっとあとの話なんだけどね。