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18. 文化祭2日目③




 お、いたいた。やーっぱここにいたか。



 真白を見事に連れ去った《勇者》が向かった先は生徒会室だろう、と踏んだ私の予想は正しかった。ここなら関係者以外入れないから他の教室より人が来る確率は低いしね。

 基本的に生徒会メンバーは文化祭の最中は見回りかクラスの出し物のところにいるから、今も教室には《勇者》と真白以外誰もいない。

 せっかくかわいい格好をしている真白と2人っきりでゆっくり話したい!という欲望が《勇者》をここへと導いたのだろう。ふっ、お前の欲望なんて全てお見通しなんだよ、《勇者》。



「大丈夫だったか?」

「うん。変なことされたわけじゃないから」

「そうか……」



 わずかに開いた扉の隙間からそっと中の様子を伺う。《勇者》の問いに真白は笑顔で応答する。その笑顔に《勇者》は思わず頬を染めているようだ。



「あ、てか……ごめんな!突然抱き上げたりして……」



 《勇者》め、さっきはとっさの行動で意識してなかったけど、今考えたらお姫様だっことかすごい大胆なことしちゃったな、とか思って今更慌ててるんだろうな。真白を助けるのに必死で下心とか全くなかったんだうけど。《勇者》の鏡みたいなやつだよ、ほんと。



「ううん、勇気くんが助けに来てくれなかったら、どうなってたかわからないから。ありがとう」

「……」



 さすがの真白もお姫様抱っこは結構恥ずかしかったらしい。照れてるけど精一杯笑いながらお礼を言ってる真白が、今すぐ押し倒してくなるくらい可愛い!

 こんな離れたところで見てる私がそう思うんだから、きっと目の前でその笑顔を向けらえて、《勇者》はきっと己の衝動と理性の狭間で揺れ動いていることだろう。


 耐えろ、《勇者》。気持ちはわかるが、まだその時じゃない。頑張って耐えるんだ!


 私の念が通じたのか、《勇者》は顔を真っ赤にしつつも、眉間にしわを寄せて口元を押さえながら、必死に湧き上がる衝動と戦っているようだ。よしよし、そこで耐えてこそ真の勇者だ!



「なんか……変な感じだね」

「え?」



 己と戦っている《勇者》に真白がしみじみと微笑んでみせる。なんか……すごく意味ありげな笑みに見えたんだけど……もしかして、真白。






「前にもこんな風に助けてもらったことがあるような気がするのは、なんでなのかな?」






 前世の記憶を、取り戻しかけてる?




「それって……」



 どうやら《勇者》も同じことを思ったらしい。驚いたように目を見開いて真白を凝視する。



「ごめんね、変なこと言って。気にしないで」



 多分、真白は前世の記憶のことを思い出しかけたんだ。でも、前世なんて普通の人に言ったら変に思われると思ったから、言葉を濁した。そうに違いない。


 違うんだよ、真白!怖がらないで、ちゃんと感じたことを話したらいいんだよ!だって、目の前にいるのは前世で一緒に戦った《勇者》なんだから!


 そう叫びたかったけど、私はそれを思いとどまった。ここで私が出て行ったらきっとこの流れは途切れてしまう。自然な成り行きに任せてこそ、”冥王エンド”を阻止できる《勇者》とのハッピーエンドが待ち構えているはずだ。だから、ここで私が横やりを入れるわけにはいかない。



「……真白、俺……」

「え?」



 ずっと黙りこくっていた《勇者》がゆっくりと口を開く。《勇者》は前世の話をするつもりだ!

 いいぞ!いけ!!《勇者》が前世の話をすれば、真白もきっと心を開いてそのことを話すはず!そうすれば、《勇者》と真白のハッピーエンドまで一直せ──────





「!!!!!!!」





 な、何……今の?なんか、背中に悪寒が……。あの気配……覚えがある。


 反射的に振り返って、廊下の先を見つめる。


 廊下へと降りていく、白い人影がわずかに見えた。




 今のは……まさか《冥王》!!!?




 とっさに、走り出していた。間違いなく感じ取った気配は階段の方に向かってる。その気配の正体を見なければいけない。その衝動だけで、私はともかく階段を駆け下りた。最後の数段を一気に飛び越えて、廊下を見渡す。



 そこに見えたのは、学園祭を楽しむ人々の喧騒だけだった。



 間違いなかった……。さっき、絶対に夢で感じた《冥王》の気配があった。でも、今はもう何も感じられない。まるで人々の中に溶けてしまったかのように、その気配は全く無くなってる。それでも、間違いない。間違えるはずがない。





 なんで、《冥王》の気配がこんなところで……?





「ひ〜ら〜の〜!!!」

「え?」


 呆然と立ち尽くしていたら後ろから、すごい恨めしい声で名前を呼ばれた。振り返るとそこには表情いっぱいに怒りを浮かべた《勇者》様のお姿。


 えっとー……なんか、すごい怒ってるみたいだけど……なんで?

 ……あ、そういえば。《冥王》の気配に驚いた時に、思いっきり生徒会室の扉を揺らしてしまったような気が……。



「お前、覗いてただろ?」



 ドスの効いた声で問い詰められて睨みつけられる。うん、怒りに満ちた《勇者》様の視線はなかなかの迫力があるな。

 これは下手に誤魔化さない方が身のためだと悟った私は、精一杯の可愛げのある顔で首を傾げて見せる。


「ご、ごめんね?」

「お前は俺に協力したいんじゃなかったのかよ!」


 うん、私がこんなことしても全く効果はないようだ。まぁ、わかってたけどね。


「協力はしたいけど、真白の貞操は心配っていうか……」

「お、俺が学校で変なことするわけないだろ!!」


 結構適当な理由を言ったら、本気にしたのか顔を真っ赤にして反論してくる《勇者》。うん、青いな。こんな青い純情少年に「ただ覗きたかったから」という理由で覗いていたとばれたら、きっと軽蔑されてしまうだろう。なので、本当の理由は黙っておくことにする。


 しかし、いくら非常事態だったからとはいえ、やらかしてしまった。せっかく真白と《勇者》が決定的に接近するチャンスが私のせいでおじゃんになってしまったなんて……。


 とういうか、あれって私のせい?もしかして、《冥王》の気配がしたのって、2人が前世の話をするのを防ぐためで、そのダシに私を使った……とか?



「な、奈美!いるならいるって言ってよ!!」



 後ろから同じく顔を真っ赤にしてプンプンに起こった真白がやってきた。いつもならそんな真白を見て、かわいいなー、なんてのほほんしているところなんだけど、今の私はそれどころじゃなかった。





 もしかして、やっぱり、本当に、”冥王エンド”ってありえちゃうの?





 そんな嫌な予感を感じつつ、1年目の秋は過ぎ去っていく。




<3章 終>



これにて3章、学園生活1年目秋が終わりです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいけたら幸いです。

引き続き明日から4章、学園生活1年目冬を更新します。

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