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14. 文化祭1日目③




「僕は大体物心つく頃には全部思い出してたよ。宝玉も持ってたし」

「そんなに早くからか。まぁ、お前は前世でも《創造主》から信頼されてたしな」


 目の前で繰り広げられる担任と天才少年と呼ばれる男子の会話。側から聞いたら電波すぎて、一般人が聞けば顔を歪めて首を傾げながらゆっくりと距離を取って行きたくなるような会話だが、これが正真正銘の現実話っていうんだから不思議だよね。

 今私が生きてる時代は前世の世界と酷似してるけど、やっぱ私って【ゲームの中の世界】に転生してきたんだなーって、改めて思っちゃった。


「《冥王》を封印してた後はどうしてたんだ?」

「魂の研究を続けてたよ。《創造主》も魂の仕組みや転生について完全に把握してるわけじゃないらしいからね」

「そうか。俺はちなみに……」

「どうせ女はべらせて世界を歩き回って、恨みを買った女に刺されて死んだとか、そういう落ちでしょ?」


 ふむ、《魔術師》の話からしてどうやら《吟遊詩人》は前世ではかなりの垂らしだったらしいな。ゲームでは確かあんまり人を寄せ付けないクールな感じなのに……前世までとことん残念なキャラだったんだな、《吟遊詩人》。


「失礼な奴だな。旅の果てに出会った1人の女性と大恋愛の末に結婚して、子供を15人作って育てて立派に生き抜いたんだぞ!地下室にこもりっぱなしで子孫も残さなかったお前と一緒にするな」

「お盛んで何より。きっと今この世界が人口増加で困ってるのは、あんたが前世で頑張りすぎたせいだね」


 《魔術師》の言い分は大げさだと思うけどさ……15人はちょっと生みすぎでしょ。奥さんめっちゃ頑張ったんだな。《吟遊詩人》が結婚を考えている彼女とやらに、この前世事情を教えてあげてたほうがいいんじゃないか?


「思い出話はこの辺にしとくか。いい機会だから聞いときたいんだけど、お前も平野からこの世界がゲームの中かもしれないとか、”冥王エンド”について話は聞いたんだろう?」

「一通りはね」

「お前はそれについてどう思ってるんだ?」


 どうやら前世話はこれでおしまいらしい。期待した《冥王》についての情報はわからなかったけど、キャラの知られざる裏設定的なものを垣間見れた気がしてすごく楽しかった。公開されてなかった裏設定とか知った時とかテンションあがるよね!!


「ちょっと、あんたが持ってきたネタ話してんだから、ちゃんと聞いときなよ」

「わ、わかってるよ……」

「平野が他の世界からの転生者ってのは間違いないのか?」



「そうだね。いろいろ調べたけど、魂の構成が僕たちとは少し違ったから」



「……え?何それ?ちょっと待って、いつそんなこと調べたの!?」


 《吟遊詩人》の問いにさらりと答える《魔術師》の言葉を聞き捨てることはできなかった。

 だって、今「調べた」って言ったよね!?いつ、いつなのよ!?ま、まさか家に侵入してきてすでに頭を開けられちゃった後とかそういうことなわけ……!?


「頭開かなくてもそれくらいのことはわかるんだよ。もっと調べたいからそのうち開けるけどね、絶対」


 ひ、ひとまずまだ未開封みたいでよかったけど、「絶対」とかそんな宣言ここでしなくていいから!


「じゃあ、お前はこの世界が平野の言う【ゲームの世界】だと思うのか?」

「それは僕には断言できない。誰かが創造してルールを敷き、誰かによって操作させる世界を【ゲームの世界】っていうなら、ここはまさにそうだと思うよ。現に《創造主》がこの世界にはいるわけだしね」

「なるほど。じゃあ”冥王エンド”については?」

「僕が封印術式を開発したんだ。あれを《冥王》が内側から破ることはまずない」


 あれ?なんか私に答えた時とはちょっと言い回しが違うような……。私が担任と同じ質問をした時は『”冥王エンド”はありえない』って言い切ってたはず。なのに……。


「今、”内側からは”って言ったな?」

「脳みそはめちゃくちゃだけど、立派な世界の不確定分子だからね。こいつの言葉を全部信じたわけじゃないけど、《冥王》の封印について改めていろいろと調べてみたんだ。そしたら、1つの可能性が浮かんできた」

「1つの可能性?」

「《創造主》の力を外から加えれば、封印は壊れる。封印の鍵とも言える部分に使ったのは《創造主》の魔力だからね。あそこを壊せば封印は解ける。それを壊せるのは魔力の源である《創造主》。そして……」



「《創造主》の力を授かっている、《聖女》」



 《魔術師》の言葉を引き継いで、私はこっそりとお客さんに囲まれて困ったように笑いながら対応している真白をちらりと見る。


「そういうこと。あんたに答えた時もその可能性を考えなかったわけじゃないけど、限りなくゼロに近しい確率だったからね。今もほぼないに等しい数字ではあるけど」

「じゃあ、なんで今はありえないって言い切らないの?」

「改めて検証してみたら、《冥王》の封印が解ける確率が一桁上がったから。1が10になるって大事でしょう?いくら数値が小さくたって、確率が10倍上がったなら、それはありえないと言い切れない根拠にはなるよ」


 うむ、さすがに天才少年と呼ばれるだけあってわかりやすい説明だ。

 てか、待って。今までの話を整理して要点をまとめると、ゲームと一緒で《聖女》の力によって《冥王》が蘇る可能性が実際にあるっていうことで……。



「じゃあ、やっぱり平野の言う”冥王エンド”は現実に起こり得るってことなのか?」



 眉をひそめた《吟遊詩人》が今まさに私が考えていたことを言葉にしてくれた。

 そう!そういうことになっちゃいますよね!?つまり、この世界が滅亡しちゃうかもしれないってことですよね!!?



「僕が今話してるのは《冥王》の封印が解ける可能性についてであって、この”変脳”が話したことについてじゃないよ。そもそも、”変脳”の話によると、《冥王》は封印が解ける前に学園に現れてるわけでしょ?」

「じゃ、じゃあ……、やっぱり”冥王エンド”はありえない?」

「それは改めて検証中だから今は断言できない段階だね」


 なんだ、その曖昧な返事。少し胸を撫でおろしたところだったのに、そんな曖昧な返事されたらまた不安になっちゃうじゃないか!


 正直、自分の実力ギリギリで届くレベルの学園に入っちゃったおかげで勉強は大変だし、安請け合いで生徒会に入っちゃったりなんかして日常生活が忙しすぎて《冥王》のことを考えることはほとんどなくなってたんだ。

 ぶっちゃけ《勇者》と真白がくっつくのは時間の問題かなとか思ってるし、真白も生理対策したせいか倒れるようなことは起こってないし、それに《魔術師》 が《冥王》の封印が解けることは「ありえない」って言い切ってたから、”冥王エンド”なんて起こらないだろうなーってちょっと呑気に思ってたとこだったんだ。なのに……。



「や、やっぱりあの夢って本物の《冥王》が見せたものなのかな……」

「「え?」」



 嫌な予感に再なわれて思わず呟くと、《魔術師》が《吟遊詩人》が同時に首をかしげた。

 夢のことについては不確定すぎるというか、本当に単なる夢の可能性が高いと思ってたから2人には話してなかったんだよね。バカにされるかもしれないけど、話しておくべきかなぁ……。


「実は────」



「「「きゃーーー!!!」」」



「!?」

「な、なんだ?」

「うるさい声……」


 私の声を見事にかき消してくれたのは、女子生徒の黄色い声だった。何事かと思って3人で声のした方、教室の入り口の方を見ると、そこには女子たちの人だかりができている。


「先輩!来てくださったんですか!?」

「先輩が卒業しちゃってとてもさみしかったから嬉しいです!」

「今からうちのクラスに来てくださいますか!!?」


 えっとー……今、”先輩”とか”卒業”とかそういう単語が聞こえたような気が……。そして、この女子たちの歓声からして、あの人だかりの中心に入るのって、もしかして。



「まさか、あそこで囲まれてるのって御堂か?」



 あぁ……やっぱり?ちょっと違ってくれたらいいなぁとか思ってたけど、そんな都合のいいこと起こるわけありませんよね。あれだけ女子に騒がれる卒業生なんてそうそういないだろうし、だいたい卒業した高校の文化祭にわざわざ昼間っからくる卒業生なんて、あのお方くらいしかいらっしゃいませんよね。


「この黄色い歓声からして、あの人で間違いないでしょうね」

「なんだ、平野は御堂のこと知ってるのか?」

「誰?御堂って」

「ここの卒業生だ。去年の生徒会長で前世の《王子》だな」

「あぁ、あの無駄にキラキラしてた奴?」

「今世でもキラキラしてるよ……」





 キラキラエフェクトは前世からの常備スキルだったのか。


 今世の《王子》は”Another Dimension”なんて凄まじい技を習得しちゃってるけど、


 前世ではどうだったのか、後でそれとなく聞いてみるか。




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