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13. 文化祭1日目②




「はい!平野さんのテーブルの紅茶とお菓子ね」

「……なんか、すごく多くない?」



 裏方に来ると、クッキーとケーキがたっぷりと乗った皿と紅茶がたっぷり入ったポットとミルクが乗ったお盆を渡された。

 真白のお客さんたちに配られているのはカップ一杯のお茶と2枚のクッキーだけなのに、なんで?



「真白さんの指名の人ばっかりだとお店が回らないでしょ?真白さん以外を指名すればのんびり休んで行ってもらえますよってアピールで、他の人指名してくれた人にはサービスしてるんだ」



 いつの間にそんなことになったんだろう。まぁ、言ってることは理にかなってると思うんだけどさ。思うんだけどもさ……!



「これ飲み終わるまで、私あの人の相手しなきゃいけないの……?」



 誰か、冗談だと言ってくれ……。



「平野さんを指名したのって天才少年の児玉くんだよね?」

「うん、そうだね」


 天才少年っていうか、マッドサイエンティストすぎて、少年って言葉があんなに似合わない高校生はいるんかねぇと、疑いたくなるレベルだけども、と心の中で付け足しておく。



「結構かっこいいって人気だよね!ちょっと無愛想だけど、なんかミステリアスな感じだし」



 出たよ、イケメンマジック。ちょっと顔がいいと”マッドサイエンティスト”に”ミステリアス”フィルターが作動しちゃうんだから、本当世の中って不思議だよね。

 特に若い時ってそのフィルター作動しやすいのよ。私は中身が歳くってるおかげで見た目フィルターはかからないからさ、外見除外の《魔術師》の姿がきちんと認識できてるわけだけど……あいつはマッドな上にサディスティック体質を持った非常に危険極まりないやつである。


 そりゃね、私も若気のいたりで「やっぱSキャラだよね!」とか言ってた時期もありましたとも。でもね、それって架空のキャラだから良い訳で、多分本当の意味で一般的な女性たちは、実際に虐げられたりするよりも、優しく扱ってもらったり大事にしてるよってストレートにわかりやすくアピールしてもらったほうが幸せを感じるものだと思うのよ。

 世の中いろんな考えの人がいるから一概には言えないと思うけどね、私がSキャラに抱く感情は二次元上での萌えであり、決して目の前に存在して、ましてやいじめていただきたいなどとはこれっぽっちも思っていないわけで……。




「ふーん、これが”聞いてもらえるお願いリスト”ね」




 なので、たとえ目の前の《魔術師》が一部の女子に人気の男子であっても、私は全く嬉しくないのである。

 てか、”聞いてもらえるお願いリスト”を見ながらこんな邪な笑みを浮かべているというのに、なんでこれがみんなにはかっこよく見えちゃうんだ!?いや、 わかってるよ。遠くから見てるから良いんだよね。きっと私もそのポジションから見てたら同じように思っていただろうさ……。



「これ、なんであんたが考えなかったの?」

「え?」



 えっとー……確かに私は今回生徒会の仕事が忙しすぎてクラスの出し物のことはノータッチだったから、このリストも他の人たちが考えたものだ。

 ”聞いてもらえるお願いリスト”に載ってるのはその名の通り、指名したメイドさんにお願いできることなんだけど、あくまで高校の文化祭程度のレベルになっている。例えば”名前を呼んでもらう”とか”クッキーを食べさせてもらう”とか”大好きです”って言ってもらうとか。まぁ、可愛いレベルだけど、これを真白にやってもらえるからこそ成り立っているわけだ。

 私が考えちゃうと余裕でR指定つくような内容になっちゃうからね。そういう意味でも私はこのリスト作成に携わらないと最初から決めていた。


 だから、《魔術師》が言ってることは正しいんだけども……なんでこいつには私がこれ作ってないってわかったんだ?


「あんたのその”変脳”の中に、もっと面白味のあるものがいっぱいつまってるでしょ?」

「そ、それはどういう意味ですか……?」



「例えばさ、僕が何を言われたらすごく喜ぶとか」



 ……うん、残念ながらすごく思いついてしまう。きっと心の底では本当は言いたくないと思ってることを、さもそう思ってるかのように丁寧に懇願してみせれば、きっと《魔術師》の機嫌はよくなるだろう。

 例えば、「ご主人様の研究のために私の頭を開いてください」とか……。



「それ、言ってみて」



 ……は?



「な、なんのことでしょうか……?」

「今あんたが頭の中で考えてたセリフ。ちゃんと声に出して言ってみて」

「え、えぇっと……」

「適当に考えようとしても無駄だからね。薄っぺらいセリフなんて言ったら、お茶ぶちまけて帰るから」



 こ、こいつさっきからスラスラ人の脳内読みやがって!てか、脳内読んだならわざわざ口に出さなくてもいいでしょうが!



「僕は今あんたの主人でしょ?ほら、早く言いなよ」



 こいつ……手にカップを持ちやがった。その持ち方はカップに入ってる紅茶を飲もうとしているのではなくて、後数秒で言うこと聞かないとその熱々の紅茶を私にぶっかけるってことですよね?

 仕方ない。ここはご主人様の機嫌をとるためにご要望にお応えするしかないだろう。こんな凶暴なご主人様のメイドなんて私はなった覚えないんだけどね!


「……ご主人様」

「何?」



「あなた様の研究のために、私の脳みそを是非とも弄ってください」



 サービスでさっきよりも盛ってやったよ。《魔術師》が喜びそうな真面目な従順メイド風に思いっきり真顔でな!これで文句はあるまい!?



「いいよ」



 え……?何、そのにっこりスマイル。なんか、その笑顔見覚えがるんですけれども……。


「今日の放課後、化学室でどう?」

「『どう?』……と、申されますと……?」

「あんたが言ったんじゃん、脳みそ弄んで欲しいって。望み通りにしてあげるって意味だよ」

「い、いえ……あの、ご主人様?それはあくまで我がクラスの出し物の戯れごとの一環でして……」



「それとも、今ここで頭、開いて欲しい?」



 いやー!《魔術師》が手に持ったケーキを切り分けるためのナイフがキラリと光って、なんだかメスみたいに見えてるー!!な、なんでそんなすごくピュア系な笑顔で笑いながら怖いこと言うの!?まさか……まさか本気の本気で言ってるとか言わないよね!?



「大丈夫。くせになっちゃうくらい、気持ち良くしてあげるから」



 気持ち良く感じるわけあるか!頭開くのくせになるとか、そんな人外な感覚持ち合わせてないっつーの!

 てか、本当そのナイフいい加減おろし……ぎゃー!首掴まれたー!!!





「おーい、お前ら何きわどい会話こんなところでやってんだ?」





 こ、この声は、《吟遊詩人》!?いつの間に私の背後に立っていたのかは知らないが、と、ともかくこれで助かった!


「児玉、平野をからかうのはいいけど、ほどほどにしとけよ」

「ふんっ。万年頭の中ピンク色のくせして、いいところで邪魔しに来るのは以前から変わらないね」


 先ほどまで浮かべたにっこりスマイルを引っ込めて、ただでさえ悪い目つきをさらに鋭くして《吟遊詩人》を睨みつける。不機嫌を隠そうともしないその顔のほうがホッとできるのはなぜなんだろうね……。



 てか、この2人って前世の記憶全部取り戻してる組じゃん!



「以前からって……2人は今まで”昔の話”したことあったの?」

「直接話したことないよ。入学式で見たときから《吟遊詩人》じゃないかと思ってたけど、今はっきりと確信した。こんな絶妙なタイミングで邪魔してくるやつは、あいつしかいない」

「俺は最初からお前が《魔術師》だって確信してたぞ?昔と同じでイっちゃってるくらい頭いいもんなぁ」


 《吟遊詩人》……本人を目の前に笑顔でさらっとそんなこと言っちゃうなんて、勇気あるな。


「ふん。それより、やっぱあんたもこいつが《吟遊詩人》だって気づいてたんだ」

「うん。この間の登山でたまたま話す機会があったから」

「おまえはいつ前世の記憶を取り戻したんだ?」


 空いてる席に腰掛けながら《吟遊詩人》は《魔術師》に問いかける。この2人も今まで特に接点がなかったから、これを機に前世話に花を咲かせる気らしい。私も転生組ではあるが、残念ながら異世界なのでその会話に加わることはできない。




 2人の前世の話から、もしかしたら《冥王》について何かヒントが得られるかもしれないし……。


 ここは空気となって2人の会話に耳を傾けていることにしよう。




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