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1. 夏休み明けテスト




 辺りは真っ暗だった。たまに赤い揺らめきが空間の向こうに見える。



 ……あり?なんだこりゃ?



 えとー、えとー……。明日からまた新学期だから撮り溜めてたアニメをできる限り見てしまおうと思って、気がついたらあっとう間に日付変わってて、それでもこのシリーズだけはと思ったらあっとう間に空が白み始めて、そのあたりでさすがに限界がきてベッドに倒れて……。



 なるほど、これは夢か。



 納得しつつ辺りを見渡す。 そして既視感を覚えた。

 ……なんかこの光景なんか見覚えある気がする。



 途端、目の前に、闇が現れる。



 ただでさえ辺りは暗かったのに、それを上回る黒さだ。まさに漆黒。



 そこまで来て、私は既視感の状態を突き止める。



 この夢は……!!






『邪魔をするな』






「!!!!!」


 体がびくりと跳ねた。そんな自分の体の動きで完全に覚醒する。なぜか汗ばんで息があがっていた。でも、正直それすら気に留められていられなかった。

 目を覚ます直前に聞いた声の余韻が耳元に残っている。全身に鳥肌が立ち上がっていた。そして、私の脳内はというと……。



 のぉぉぉぉぉ!!!相変わらずなんっつーエロい声だぁぁぁあ!!!!



 こんな感じで、やっぱり犯されていた。



「ってー、悶えてる場合じゃない……」



 しばらく悶え続けた私は、入学式の時よりはるかに早くその状況から脱することができた。私も何気に成長しているらしい。たぶんね。


 てか、さっきの夢と声。確実に入学式の朝に見たのと同じだった。あれだけ萌えたから忘れるはずもない。



 《魔術師》は”冥王エンド”はありえないって言ってたけど、だったらこの夢と声はなんなんだ?



 私の妄想なのかなー?どちらにしても、



「新学期早々見る夢じゃないよね……」


 前も言ったけどね、悶えるのって結構体力使うんだからね!

 大きな溜め息と共に、セットしていた目覚ましのアラームが鳴り響く。八つ当たり気味に時計を叩きながら、その音を止めた。




 ■ □ ■




 夏休みが明けた新学期。一番に待ち構えているのはテストだ。夏休みを有意義に過ごしたかどうかをジャッジされるためのテストで、ほとんどが夏休みの課題から出される問題ばかりなのだが、おかげで問題量が多くて全部解いてしまうのに時間がかなりギリギリになる。



「あー!やっと終わった!!」



 そんな地獄の2日間を終えて、私はホームルーム後の教室で机に倒れこむ。

 いや、思った以上にしんどかった。何せ私は夏休みの前半には根性で全ての課題を終わらせてしまい、後半はひたすらアニメやゲームや漫画に打ち込んでいたから、結構忘れている問題が多かったのだ。おかげで1日目が終わった後には徹夜で夏休みの課題を見直すことになった。

 前半に課題を一気に終わらせるなんて、普通に考えたら模範的な学生の態度のはずなのに、それすら問題だなんて、なんてこった。毎日コツコツ勉強しろよってことなんでしょうけどね。それができたら苦労しないよねぇ……。



「お疲れ様」



 机の上でへばっている私に真白は苦笑しながら近づいてくる。毎日コツコツ勉強していた真白にとっては、こんなテストちょろいもんだったのだろう。苦笑にもかかわらず相変わらず神々しい光を放っていらっしゃる。あー、癒される。


「うん、あんな問題量多いテスト初めてだったから疲れた……」

「確かに、さすがに手が痛くなっちゃうよね」



「なぁ、鬼勢の噂聞いたか!?」



 ホームルームが終わって生徒もまばらになり始めた頃、他愛ない会話を交わしていた私たちの耳に、男子生徒の声が飛び込んでくる。

 本人としては声を落としてるつもりだったのかもしれないけど、興奮してるのかその声は教室にいる全員に丸聞こえだった。


「鬼勢って……」

「他にいないよね?」


 聞き覚えのある名前に私と真白も顔を見合わせて、男子の次の言葉に耳を傾ける。



「さっき俺のクラスの奴が話してたんだけど、夏休み他校の生徒と派手な喧嘩したらしいぜ!」



 あぁ、男子はそういう噂好きだよな。案の定、その言葉を聞いた何人かが興味津々で噂話を始めた男子を取り囲み始める。人だかりができたせいか、周りに聞こえていたとやっとその男子が自覚したのか、それ以上の噂話は聞こえなくなってしまった。

 ふむ、《魔王》は夏休み中喧嘩に勤しんでいたのか。ゲームの中でも喧嘩っ早い性格してたし、なんか非常に《魔王》っぽい夏休みだな。

 なんて、私が呑気に思っている傍ら、真白は心配そうに眉を寄せた。


「喧嘩って……」

「高校生同士の喧嘩なんて、よくあることじゃない?」

「そうだけど、鬼勢君って無闇に喧嘩売る人には見えなかったよ?」

「目立つから、いやでも喧嘩売られちゃうんじゃない?」

「そうなのかな……」


 あれ?なんかやけに《魔王》の肩を持つな……。


「もしかして、なんかあったの?」

「……実は、夏休みに一回鬼勢君に会ったの」



 まぁ、すでに顔見知りだし街ですれ違ったりなんてありえそうな話だよな。でも、これだけ真白が《魔王》を気にする理由が何かあるはずだ。

 何があったのか詳しく聞いといたほうがいいかもしれない。



「勇気君と待ち合わせしてた時なんだけどね、ちょっと早く待ち合わせ場所に着きすぎて勇気君を待ってたら、変な人たちに絡まれちゃって……。そこを助けてくれたのが鬼勢君だったの」



 ちょっと待って。それって、【今キミ】の《魔王》のイベントじゃん。



「その時も1人だけ殴り倒した後は睨んであしらったくらいで、なるべく大事にしないようにしてくれたんだよね」

「そうだったんだ……」


 確かゲームでは容赦なく何人かボコボコにしてたはずだけど、この世界の《魔王》は結構温厚な性格してるのかな?ただ単に面倒臭かったって理由もありそうだけど。



「あのさ、勇気君って鬼勢君と仲悪いのかな?」


「え?」



 真白が声を潜めて耳打ちしてくる。その質問に私は驚いて繰り広げていた思考を止めた。

 えっとー、なんでその質問が今出てくるのかな?



「変な人たちが逃げていった後、勇気君が来たんだけど、なんか2人で睨み合っちゃって」



 うえぇえ!?なんだその修羅場展開は!?



 【今キミ】には攻略キャラ同士が対立するいわゆる”VSモード”というのは存在しない。だからゲームの中ではデート中に他のキャラとかち合うなんてことはなかった。


 が、《魔王》は《勇者》と真白のデートの待ち合わせ場所に思いっきり居合わせてしまったらしい。

 しかも、両者とも真白にすでに陥落されてて、【セント・ファンタジア】の因果か現世でも仲が悪い2人という組み合わせ。これを修羅場と言わずになんという。



「結局、鬼勢君は何も言わずにどっか行っちゃったんだ……」



 よかった、ひとまず真白を巡る殴り合いにはならなかったようだ。喧嘩の噂なんてさっき言ってたから、まさかとは思ったが……。

 きっと《勇者》と《魔王》が殴り合ったら間違いなく流血沙汰になる。そんな物騒なことが真白の目の前で起こったら、真白が気絶して《冥王》が降臨しちゃう可能性だってある。

 うん、《魔王》が温厚な性格で本当よかった!



「その時ちょっと怒ってるように見えたんだけど……。さっきの噂が関係あるなんてこと、ないよね?」

「それは考えすぎだよ」

「……そうだよね」



 即答した私に安堵の笑みを浮かべる真白。あまりにも真白が不安そうにしているから、心配そうに敢えて即答した。


 けど、私は心の中で真反対のことを考えていた。


 多分、真白が見たものは間違いない。真白と夏休みに待ち合わせをしている《勇者》を見た《魔王》は打ちのめされたに違いない。2人がすでに付き合っているとさえ思っただろう。

 課外授業の時あんなに切なそうな顔して《真白》を見つめてたんだ。ショックじゃないわけがない。




 ……《魔王》よ。



 お前もしや、失恋の鬱憤を他校生に撒き散らしているのではあるまいな?




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