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15. 夏休み:キャンプ④




 結局、私が迷子になったことで私たちの班の肝試しはそこで終わりになった。せっかくのキャンプの一大ベントだったのに、真白にゴールさせてあげられないのが残念だった。



「ううん、気にしないで。奈美と喋れなくてちょっと退屈だったし」



 ごめんね、と謝ると少し声を落として真白は笑った。真白ーーー!!!



「テントではゆっくり話そうね!」

「うん」



 さすがに女子テントまでは《王子》も攻めてはこなかった。おかげで真白と久々にゆっくり2人で話ができた。

 《王子》は現れるし、《勇者》には利用されるし、肝試しで迷子にはなるわでなんかすごく散々だったけど、こうして真白と楽しく話してたら全部チャラになりそうな勢いだ。

 なにせ、パジャマ姿の真白は恋に落ちちゃいそうなくらいかわいいのだから。恋人でもないのに真白のこんなかわいい姿が見られるなんて。女子ってさいこー。



 なんて、真白の可愛さに浸ってばかりもいられない。夏休みに入って会ってなかったら、1つ大切なことを確認し時たかった。


「ところで真白、前世の記憶って思い出した?」

「うーん、それがあんまり。なんか懐かしい感じになる時はあるんだけど」

「例えば?」

「……さっき、武蔵野君と2人で林の中歩いてた時とか」



 お、それは非常にいい感じじゃないか。私がダシにされた甲斐もあったというものだ。だからって《勇者》への貸しをチャラになんてしないけどね!



「武蔵野君って、私の前世と関係あるのかなー?」

「さぁ?本人に聞いてみれば?」



 真白は時々、私に前世のことで相談をしてくる。その度に私は曖昧な答えを返していた。

 真白に全部話しちゃって、《冥王》と恋に落ちないように忠告するってのも考えはしたんだけど、もし”冥王エンド”なんてものが存在しなかったら、真白が保健医と恋に落ちたって言い訳だし。……いや、今の保健医は女だし人妻だし、いろいろまずいから違う意味で止めるけどさ。

 それに、私が全部話しちゃったら、昔のことをちょっとずつ思い出して恋に落ちていくっていうプロセスを壊しちゃうかもしれないからね。そうなると《勇者》とくっつくことはなくなる可能性もある。


 そんなこんなで私は真白には何も話してない。まぁ、信じてもらえないだろうなって思いなが一番大きいからなんだけどね。全部話して変人だと思われて真白に嫌われる勇気を私は持ってない。

 真白に今更嫌われちゃったら、それこそ私は廃人になっちゃうよ。だから、真白が自分で記憶を取り戻すまではいろんなことを黙っておくことにした。



「うーん、でもそんなこと突然話したら変に思われちゃうよね?」

「案外大丈夫なんじゃない?」



 なんて、自分のことを棚に上げてこんなささやかな後押しなんかはしてみるけどね。



「ねぇ、奈美は本当に《創造主》様から宝玉もらわなかったの?」

「うん、私前世はこの世界に住んでなかったから」


 ちなみに、私の前世がこの世界の住人じゃなかったことだけは話してある。もちろんゲームのこととかは話してないけどね。 


「そっかー」

「どうしたの?」

「ううん、奈美も同じ転生者だったら、すぐに前世の記憶なんて思い出しちゃってただろうなーと思って」


 この子は……なんてとてつもなくかわいいことを言うんだ。くそ、こんなことなら男として転生すべきだったか!?いや、でもそれだと真白のパジャマ姿が……。



「でも、よかった」

「え?」

「奈美がこの世界に転生してくれてよかった」

「真白……」



 ……そういうのは、反則でしょ。



「も、もう消灯の時間みたいだし、そろそろ寝よ!」

「え?まだ早くない?」

「そんなことないよ!ほら、明日も朝早いし!」

「えー、もうちょっと話したかったのに」



 残念そうに言う真白にどんな顔をしてるのかも想像できたけど、顔を上げることはできなかった。



 だって、たった一言で嬉しすぎて泣いちゃったとこなんて、恥ずかしくて見せられない。



「おやすみ!」


 ブランケットに潜り込みながら、真白にばれないように涙をぬぐった。




 ■ □ ■




 次の日、キャンプの行事は1日目でほとんど消化してしまったので、残るは片付けやゴミ拾い、そして解散式くらいだ。相変わらず真白の横には《王子》がべったりで、私も《勇者》も手出しはできないまま、とうとう解散式が終わってしまった。



「なんか、散々んなキャンプだったな」

「それはこっちのセリフだよ!」

「お前はいいじゃねぇか。真白と同じテントでゆっくりしゃべってたんだろ?」


 お、なんだ《勇者》。私にまでヤキモチとか?青いのぉ。


「まぁ、幸い相手は卒業生だし、君に分があるんだから」

「……」

「どうしたの?」


 励ましてあげたのに返事も返してこないなんて、変なの。って思いながら《勇者》の顔を見たら、途轍もなく真剣な顔をしていて驚かされる。


「昨日、寝る前にあいつに言われたんだ」

「な、何を?」



「『いつまでも主人公でいられると思うなよ』って」



「!?」

「なんのこと言ってるかはよくわかんなかったけど、喧嘩売られたのはわかった」

「……他に、何か言ってた?」

「いや、それだけだったな」

「そう……」


 ここまで尋ねる隙も勇気もなかったから放置してたけど、”主人公”って……。



 もしかして《王子》は、前世の記憶を全部思い出してる?



 浮かんできた疑問に、咄嗟に少し前の方に、真白と並んで立っているはずの《王子》の方を見ようと顔を上げた。



 前を向いていたはずの《王子》とバッチリ目があう。


 目を見開く私に、ニコリと、微笑みかけてくる。


 そしてゆっくりとはっきりと、口を動かした。


 その口は確かにこう言っていた。




『あきらめないからね』




 《王子》め……、卒業生とさっきは侮ったような発言をしたが、あれはかなりの強敵だ。

 てか、卒業生でほんとよかった。あんなのと学生生活を送るなんて冗談じゃない。それこそがっちりガード固められて、なすすべもないまま真白を独り占めされていたに違いない。

 真白は私の大事な友達なんだ。たとえ真白に彼氏ができたとしても独り占めなんて絶対させないからね!



 渾身の勇気を振り絞って、『じょうとうだ!』と声に出さずに言い返してやると、《王子》はさらに笑みを深めた。




 こうして1年目の夏は過ぎ去っていく。




<2章 終>



これにて2章、学園生活1年目夏が終わりです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいけたら幸いです。

引き続き明日から3章、学園生活1年目秋を更新します。

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