14. 夏休み:キャンプ③
人は失敗を繰り返して成長するというが、その成長とういのは一体いつ私に訪れるのだろうか?
例え、思考の中だけでも迂闊なことを言うもんじゃないとうことを、一体いつになったら私は本当の意味で理解するのだろうか?
「あぁ、ここにいたのか」
顔に照らされる光。やっと誰かときた!と思って顔を上げた。
そんな私の先にいたのは満面の笑みを浮かべていらっしゃる《王子》様。
ぎゃーーーーー!
確かに誰でもいいとは言ったけど、なんでよりのよってあんたが来るのーーーー!?
「あれ?迎えに来たのが僕じゃ不満だった?」
お、お前も……お前もなのか、《王子》!お前も人の心を読む力を身につけているというのか!?
「このまま置き去りにしてほしい?」
「と、とんでもないです。ありがとうございます」
「真白君たちもまだ君を探してると思うから、早く戻ろうか」
翻訳「さっさと立ちやがれ」。
「はい……」
うん、なんかさっきまで真っ暗なのとかお化けでそうとか、いろいろ怖くてガタガタしてたんだけど、今の状況の方が何億倍も怖いです。
前を歩く《王子》の背から明らかに不機嫌オーラが漂っている。表情こそ崩れてはいないが、ご立腹なのは間違いない。そして、その怒りの矛先は間違いなく私に向いている。
わ、私があなたに何をしたというのですか!!?
「君のせいで、真白君に逃げられたんだよ」
ひー!また心読まれた!!お、お願いだからニコニコしながら物騒なオーラ放たないでください!こわすぎるから!!
「あ、あの……、私が走り出した後、どうなったんでしょうか……?」
「知りたい?」
「お、教えていただけると、ありがたいです」
「君が叫び声を上げた時、僕も一瞬驚いたんだ。すごい声だったからね」
おぉ、《王子》の気を一瞬でも反らすとは、私の叫び声の効果もなかなか────
「その隙をついて、武蔵野君が真白君を連れて林の中に走り出したんだ」
な、何!!?ま、まさか《勇者》……。
「去り際に真白君と2人で君を探すといいながら姿を消したけど、あれはおそらく、」
《王子》から真白を掻っ攫うために、私をダシにしやがったなーーー!!!
昼間、なんか「いい考えがある」とか言ってみたけど、これか!?このことなのか!!!?考えてみれば、幽霊らしき声が聞こえる前、後ろに何かいるみたいなことをほのめかしてきたのは《勇者》だ。
あんっのやろーーーー!何が「敵を騙すにはまず味方から」だ!作戦のこと言ったら私が絶対拒否するのわかってて言わなかっただけじゃないか!仮にも《勇者》の生まれ変わりのくせに、いたいけなモブキャラを利用するなんてなんてやつだ!!
「その様子だと、君は何も知らなかったみたいだね。今回は見逃してあげるよ」
あ、《勇者》に憤慨して怒りの思考撒き散らしてたら、なんとか《王子》の怒りは治ったらしい。よかった……。しかし、次回こんなことがあったらどうなるんだろう……、考えたくもないな。
「君は彼と真白君をくっつけたいのかい?」
え、ちょ……、突然そんな核心つくような質問してきちゃうんですか。
「え、えっとー……」
「下手な嘘はつかない方がいいよ」
うん、思考読まれてるから逃げ場ないよね。
「……はい。2人とも普段から仲がいいのでそうなればいいなぁと」
「へぇ」
なんだろう、その意味ありげな「へぇ」は。な、なんか地雷踏んじゃった?
なんて不安に思ってたんだけど、《王子》はそれ以上は何も言わなかった。
私なんて取るに足らない存在だと思われたかな?まぁ、実際そうだし、そう思っていただいてた方がありがたいことこの上ない。
《王子》は肝試しのコースを外れて、最短でスタート地点へと私を連れて帰ってくれた。地図もないのになんでこんな暗い林を迷わずに帰れたのは不思議でしょうがないが、それは腹黒《王子》ならではの特殊能力だということで納得しておく。
「奈美!」
「真白!」
スタート地点に戻ると真白と《勇者》がいた。私を見つけた真白がすぐさま私に向かって駆け寄ってきてくれる。
あぁ!会いたかったよ真白!私の心を慰めてくれるのは真白しかいない!
「突然走り出すから心配しちゃったじゃない!」
「ご、ごめん……びっくりしすぎてつい……」
「思ったよりすぐに見つかってよかったよ」
「御堂先輩、奈美を見つけてくれて本当にありがとうございます!」
「真白君の大切な友達なんだろう?当然だよ」
《王子》め、ただでは転ばん気だな。真白の友達を助けたということで見事に好感度を上げおった。きっと真白の中で《王子》の評価は”変な先輩”から”頼れる先輩”へと格上げされたに違いない。
熱心に《王子》に頭をさげる真白の様子を、面白くなさそうに《勇者》が見ていた。
ふん、私をダシに使った報いだ!ざまぁみやがれ!!
「これ、貸しだからね」
「なんのことだよ?」
思いっきりとぼけた顔をしても無駄だぞ《勇者》。絶対に倍返しさせてやるからな!