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13. 夏休み:キャンプ②




 ラブラブな恋人たちが周りの目を気にせず、ひたすらお互いに愛を語りかける。砂を吐けそうな甘い2人のやりとりに、辟易している周りのことなんか1ミリたりとも視界に入らない彼らの様子を「2人の世界に入っちゃってる」なんて、言ったりする。



 だが、今目の前で繰り広げられている光景は、そんなかわいいもんじゃなかった。



 外界からの完全遮断。まるでそこにぽっかり時空の穴が開いたようなそんな感じ。見えているのに誰も近づけない。近いようで遠い、そんな空間を一瞬で作り出してしまう。あれは……そう、まるで異次元を自在に行き来できるそんな技。



 あれこそまさに、”Another Dimension”!!



「おい、平野。お前また意味わかんないこと考えて遊んでるだろ」

「失敬な。こっちは真剣にあの技の正体について分析してたんだから」

「技、ねぇ」

「いやいや、あれは立派な技でしょ、スキルでしょ。君が人の心を読めるのと一緒で彼も特殊能力持ちみたいだね」

「……俺、人の心とか読めねぇんだけど」


 人の心を散々言い当てておいて、こいつは何をすっとぼけたことを。まぁ、隠しておきたいというならそういうことにしておいてやろう。

 それに、今は《勇者》のスキルについて談義している場合ではない。



 なぜなら、《王子》はすっかり真白と”2人だけの世界”へ旅立たれてしまっているからだ。



 同じ次元の同じ空間にいて、確かに2人は目の前に存在してるはずなのに、《王子》が作り出したその世界は何人たりとも受け入れないオーラが放たれまくっている。明らかに邪魔者である私や《勇者》はもちろんのこと、真白の可愛さに目をつけて近づいてきた男性陣も、そして《王子》に惹きつけられてやってきた女性陣さえも、全くあの2人の間に割って入ることはできなかった。



「さすがの君も”異次元”まで踏み込む勇気はないよね」

「……お前の言ってることが的を得ていると思う日が来るとはな。ありゃ確かに”異次元”レベルだ」



 ありゃりゃ、《勇者》が私の電波系発言に同意するなんて。それほどまでに《王子》の技がすごいということなのだろう。



「けどさ、このままだと本当いいとこなしだよ。どうする?今回は諦めて退散する?」

「……いや、1つだけ策がある」

「策?」

「あぁ」

「どんな?」

「敵を欺くにはまず味方からっていうだろ?」

「……」



 は……、なにそれ?なんか、とてつもなく嫌な予感がするんですけど。



「まぁ、見てろって。絶対あいつに一泡吹かせてやるから」



 うーん、そのなんか企んでる顔はとても《勇者》っぽくない。いつもの爽やかさはどこへやった。まぁ、あの状況を打破してくれるっていうならいいけどさ。


 何度も言ってるけどさ、”冥王エンド”を阻止するのが第一目標だから、《王子》と真白がくっついてくれてもいいんだよ。でもね、そうなった場合、確実に《王子》は真白を独り占めしたがるのが容易に想像できる。”Another Dimension”だけでは飽き足らず、ガチで物理的に真白を隔離してしまいそうだ。

 そんなの絶対ダメだ!真白の為にも、《王子》とくっつくことは阻止した方がいいだろう。《王子》なんかに真白を独り占めされたら、私が真白と遊べなくなっちゃうしね。


 ってことで、《勇者》の作戦とやらが気になりはしたけど、ひとまず見守ってみることにした。心の中でのエールも忘れない。しっかりやれよ、《勇者》!!




 そうしてやって来ました本日のメインイベント、肝試し。キャンプ場の裏にある林で行われる肝試しは、ライトや音響はもちろん、プロ志望の特殊メイクアーティストなんかまで引っ張り込んでかなり本格的に行われる。すでに昨日からセッティングは終わっていて、お化け役の人たちは林の中で今か今かとキャンプ参 加者達を待ち受けている。



 ちなみに、私はホラー系が前世から大の苦手だ。



「おい、あんまひっつくなよ!歩きにくいだろ!」

「んなこといわれても〜〜〜!!!」



 ってことで私は絶賛《勇者》にしがみつき中。だだでさえ真っ暗の林で怖いっていうのに、さっきからたまに光ったりする紫色の人魂っぽいものや、首筋に伝わってくる冷気とかがガンガン”出そう”な雰囲気を醸し出してくれている。

 肝試しとか考えたの誰だよ!人を驚かしてなにが楽しいんだ!?そのせいで寿命が縮んだらお前ら責任取れんのか!?え!?



「奈美、大丈夫?」



 おぉ、真白が《王子》の異空間を打ち破って私のことを心配してくれている。本当は真白にしがみつきたいんだけど、隣の《王子》が怖くてそれができなかったんだよね。

 真白ほどの神々しさがあれば幽霊とかお化けとか邪なものは絶対近づかないはず。だから一番安全なのは真白の横で間違いないんだ!今の隙に真白の横に……!


「平野君には武蔵野君がいるから大丈夫だよ」


 あ、《王子》に微笑みかけられた。それはつまり睨まれたも同じだ。近づいてくんじゃねぇって顔に書いてあるもん。お化けも怖いけど《王子》もこわいよー。


 真白も《王子》に手を引かれてこちらを振り返りながらも歩き出してしまった。くっそー、《王子》め!本来なら《勇者》にしがみついてるのは真白のはずだったんだぞ!そして私は肝試しにも参加しない予定だったんだぞ!それが、なんでこんなことに……。



「全部人間が用意したもんだろ?そんな怖がるなよ」

「本物が紛れ込んでるかもしれないでしょ!?この気に乗じて1人ぐらい仲間増やしてやるかとか思ってる幽霊とかなんとかが、いるかもしれないでしょ!?」

「……へー」



 え、ちょっと待って。何?その反応?



「もしかして……あれ、とか?」

「!?」



 いやいやいや、《勇者》様。ご冗談でしょう。だって、今あなた全部人間が作ったものだっておっしゃったばっかりで……。あ、あれ?なんか肩に冷たい感覚が……!?



『一緒に、地獄に行ってくれる……?』






「ぎゃーーーーーーー!!!!!!」










 数十秒後


 私は森の中でポツンと1人で佇んでいた。



「え!?こ、ここどこ!!?」



 耳元で幽霊に囁かれて驚いて、叫んで思わず走り出して……あれ?もしかして?



「私、迷子……?」



 肝試しのコースを大きく外れているのか、さっきまですごく怖いと思ってた人魂っぽい紫色の光も全く見えない。そこはまさに真っ暗だった。



 ……《勇者》の言った通りだ。人工物よりも自然の方がずっと怖い。



「だから、肝試しなんて嫌だったのにーーー!!!」



 これも全部全部全部全部全部、あの腹黒《王子》のせいだ!


 えーーーん!!誰でもいいから早く助けに来てーーーーー!!!!




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