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12. 夏休み:キャンプ①




 《勇者》の恋路を邪魔するのは《王子》だけで十分だ。


 認めよう。確かに、確かに私は”そう”言った、いや思ったかもしれない。


 《魔王》が《勇者》の恋敵にならないだろうという安心感から、確かにうっかりそんなことを思ってしまったかもしれない。




 しかし、夏休みの神よ。


 だからと言ってこの仕打ちはあまりにも非情ではなかろうか?


 苦しいテストを乗り越え、課外合宿を乗り切り、やっと待ちに待っていた夏休みだというのに……。


 なぜ?




「やぁ!真白さん、偶然だね。君もこのキャンプに参加してるなんて知らなかったなぁ」




 なぜ、目の前に《王子》がいるんだ。てか、《王子》。お前、絶対真白がこのキャンプに参加するの知ってただろ!



「……」



 ああぁぁぁ、隣で《勇者》様はご機嫌MAX斜めだし……。もう、このキャンプどうなるの!?








 ことの始まりは夏休みが始まって1週間たった時のこと。私は少しでも早めに課題を終わらせて、大好きなシリーズのゲームの新作をやり込もうと意気込み、ほとんど部屋にこもりっぱなしだった。

 そんな私に、珍しいことに《勇者》が電話をかけてきたのである。



「何?」

『よぉ、元気か?』

「はいはい、前置きはいいから。どうせ真白絡みでしょ?どうしたの?」

『それが……課外合宿で俺たち忙しかっただろ?それで民間団体が開催してるキャンプでもどうかなと思って真白を誘ったんだけど……』

「……私も誘おうってことになったのね」

『おぅ……』

「仕方ないな。それ、いつ?」

『来るのかよ』

「私が行かないと真白も行かないって言いだすかもしれないでしょ。それに、私が夏休み中暇してるのは真白にばれてるから言い訳しようにもできないし」

『……まぁ、それもそうだな』

「お邪魔虫にはなりませんから、ご安心を。じゃあ、私忙しいから後でメールで詳細送っといて」



 以上のような経緯で、私たち3人はキャンプに参加することになった。普段の私ならこんなクソ暑い中、自炊をして山の中を歩き回り虫がいっぱい入ってくるテントの中で寝るという行事に、わざわざお金を払ってまで参加しようとは思わないが、今回ばかりは仕方ない。

 キャンプなら2人きりになるチャンスもそこそこあるだろうし、プログラムを見てみると、結構大規模な肝試しもするそうなので、その時2人でペアを組ませればいい雰囲気になること間違いない。それをきっかけに夏休み中2人でたくさんデートをして、一気に付き合うところまでいって欲しいところだ。

 《勇者》がデートに誘うたびに真白が私を引き合いに出しそうな予感はするので、その辺もちゃんと対策取っとかないとな。



 なぁんて思いながら迎えたキャンプ当日。



 キャンプの行事は4人1グループで参加することになっているので、後1人どうしようなんて、真白と《勇者》と悩んでいたところに、奴が現れたのである。



 このクソ暑いのに汗1滴浮かべず、相変わらずのキラキラを撒き散らした《王子》が私たち3人の前で笑っていた。



 そして相変わらず彼の視界には真白しか写っていないらしい。さりげなく肩に手を置いて、こっちとあっちの世界で線引きしている。

 突然の《王子》の登場に真白は驚いた様子であたふたしていてかわいい。そしてお隣で《勇者》は思いっきり機嫌を損ねたいた。

 まぁ、そりゃそうだわな。せっかく夏休み中でも真白に会えると思ったら私というお邪魔虫つきで、さらに私のはるかに上をいくお邪魔蟲《王子》が現れたのだから。

 それにしても、これはかなりまずいな。参加だけして後は《勇者》の頑張りを端から見てればいいかと呑気に構えていたのに、これは気合を入れなければ美味しいとこ全部《王子》に持って行かれてしまう。てか、すでにさりげなく真白をどこかに連れて行こうとしてるし!



「あ、あの!私たち一緒にグループを組むことにしてるんです!」



 決死の覚悟で声を上げる。私の声に真白もやっと驚きから回復して私たちから引き離されそうになっていたことに気づいたらしい。慌てたように「そうなんです」といって、こっちにかけ戻ってくるかわいい真白。



「あぁ、そうだったのか。君たちは?」



 うん、やっと私たちの存在に気づいたのか《王子》。この間は生徒会室というあまり広くはない空間に一緒にいたのに全く気づいていなかったか。多分そうだとは思っていたが、もう少し視界を広く持て。そのキラキラが視界の邪魔をしているというなら頼むから消してくれ。



「平野奈美です。こっちは武蔵野勇気。一緒に生徒会をやってるんです」

「あぁ、そうだったのか。なら僕の後輩ということだね。じゃあ、僕がこのグループに入るのを当然歓迎してくれるよね?」



 おいおいおいおいおい、なんだそのキラキラ満載の爽やか全開みたいな笑顔なくせに、絶対嫌なんていわせねぇからな、的な威圧感は!おまっ……、本当に私が思っていた通りのお腹の中真っ黒キャラなの!?



「真白さんは僕と同じグループじゃ嫌だ?」

「い、いえ!そんなことないですよ!他の2人がいいっていうなら……」

「そう。武蔵野くんだっけ?僕が入って何か不都合でもある?」

「……いえ、ありません」

「なら、決まりだね」



 うわー、さすがの《勇者》もぐうの音も出ないって感じ?そして《王子》、私のことは完全スルーかいっ。まぁ、聞かれたところで「いやです」なんて言えるわけないからいいんだけどさ……。



「さて、じゃあ早速チーム登録に行こうか」



 そう言った《王子》は颯爽と真白を連れて運営員会のところへ行ってしまった。真白は戸惑いながらも《王子》に笑いかけている。うん、流されやすい真白もかわいい。



 ……なんて、言っている場合ではない。



「ちょっと、気合入れないとまずいよ」

「……わかってる」

「私、多分何もしてあげられないからね」

「そんなこと言わずに協力しろ」

「私が”あれ”相手に渡り合えると思う?」

「……」

「エールだけは送っとくから。心の中で」



 こうして波乱のキャンプが幕を開けたのである。




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