9. 生徒会室
テストも終わったし、後は夏休みをのんびり待つばかりー、なんて問屋は卸さない。残念ながら夏休みを目前に、新入生には課外合宿という行事が待ち構えている。やっと学園に慣れてきて芽生えてきた友情をここで一気に高め、学年全体のまとまりを硬くしておこうというまっこと、まっことありがたい学園からのご配慮だ。
ちなみに、この行事の中心となるのは1年の生徒会メンバーと各学級代表で、つまり私も含まれている。とほほ。なんども言うけどさ、本当生徒会なんて安請け合いでするもんじゃないね!学んだよ!この教訓は必ず来世で活かしてみせる!!
てなわけで、成績発表が終わって数日後、私たちはその課外合宿に関する引き継ぎを受けるために、生徒会室にやってきていた。真白、《勇者》、私の3人が去年課外合宿を取り仕切った2年の先輩から概要を聞き、それを元に学級代表と協力して課外合宿を進めるというのが例年の流れらしい。もちろん先生たちのサポートもあるそうだが、生徒の自立性を高めるためのイベントでもあるそうで、私たちがかなり気張らないといけないらしい。まぁ、真白と《勇者》に任しとけば大体なんとかなるんだろうけどね。私は体育祭のときよろしく裏方に徹させてもらいます。
「課外合宿かー。海の近くの宿泊施設に行くんだろ?」
「うん、でもまだ時期がちょっと早いから泳げないみたい」
「そうか。残念だな」
《勇者》よ、それは真白の水着姿が見れなくて残念ということか?お前も立派な男子だな。そんなに真白の水着姿が見たいなら、デートで温水プールに行くがよい。
なぁんて、2人の会話に脳内でツッコンでいたら、あっという間に生徒会室の前に着いた。……着いたんだけど、
「ん?なんか騒がしいな?」
「もしかして、別の会議でもしてるのかな?」
「さぁ?」
扉の向こうからなんか……主に「きゃーきゃー」いう声が聞こえる。いわゆる黄色い声というやつだ。この状態でしている会議と言ったら間違いなく真面目な内容ではないだろうな。言ったのが真白だからツッコミはしないけど。
3人で首を傾げつつ、ここに突っ立っているわけにも行かないので、《勇者》が代表して扉をノックした。
「失礼します。武蔵野です。課外合宿の引き継ぎに来たんですが、入っても───」
ガラッ
《勇者》が言い終わる前に扉が開いた。反射的に、扉を開けただろう人物の顔を見る。
あ、《王子》だ。
「君達が新しい生徒会のメンバーかい?」
おぉ、微笑みの周りにキラキラが見える。さすが王子って感じだな。着ているのはただのポロシャツとチノパンっぽいのに、姿勢のせいなのかなんか無駄に気品が感じられる。育ちの違いってやつなんだろうなぁ。いやー、典型的な白馬に乗った王子様タイプだな。
てーかー、出会う条件満たしてるとは思ってましたけど、まさかこんな早く出会っちゃうんですね……。うん、もうなんかここまできたら驚く気力もわかないよ。
「あ、すみません。お取込み中でしたか?」
制服姿ではない人物が出てきたので、真白は生徒会室で何やら特別な会議が行われていたと勘違いしたのか、そんなことを聞いた。
うん、ある意味お取込み中だったかもしれないけどな。さっきまで《王子》にたかって黄色い声を上げていただろう女子生徒たちが恨めしそうにこちらを見ている。邪魔しちゃってごめんねー。って、その中に引き継ぎをしてくれるはずの先輩も混じってた。《王子》を前に完全に仕事忘れてんな、あの人。
「いや、お邪魔したのは僕の方だよ。久々に時間が空いたからちょっと学園の様子を見に来たんだ。僕がいなくなった後の生徒会の様子も気になってたしね」
「ということは、この学園の卒業生ですか?」
「あぁ、去年生徒会長をやっていた御堂 晃治だ。君は、真白清華さんだね?」
「あ、はい!」
「とても優秀な生徒が入学してきたと聞いていたから、一度会ってみたかったんだ。優秀なだけじゃなくとても可愛らしい人だと聞いていたけれど、なるほど噂は間違ってなかったようだ」
「あ、その……」
あれ?なんか完全に2人の世界になっちゃってるんですけど。てか《王子》、お前絶対真白のこと知ってただろ。まるで今初めて会いました的な感じで言ったけど、絶対いろいろ調べてただろ!
実はこの元生徒会長、この学園の理事長の孫だったりする。この聖亜細誕巫亜学園は御堂一族によって創立されて以来、ずっと彼らが理事長を引き継いできているのだ。そんなわけで、卒業しても学園を自由に行き来できるし、在学中の生徒の情報だってその気になれば見放題ってわけだ。
《王子》の真白を見る目が《勇者》並みに攻略されていることを物語っている。おまえもなのか、《王子》。この世界にはもうちょっと 張り合いのあるやつはいないのか!
いくら女神・真白が相手だからってチョロすぎだおまえらー!
てか、もしかして《王子》も《魔術師》みたいに記憶全部取り戻してたりするのかな?
「課外合宿の引き継ぎをしにきたんだろう?話は聞いているよ。僕の時のこともいろいろ話してあげよう」
「あ、ありがとうございます」
「さぁ、中に入って」
私がいろいろ考えてた間に、《王子》はさりげなく真白の腰に腕を回しながら教室の中へエスコートしていた。うん、流れるような動作でいやらしさを全く感じさせない動きだ。素晴らしい。
真白と《王子》が並んでも絵になるなー。それも一重に真白が超絶かわいいからだ。さすが真白。あんなガチでキラッキラしてる人と並んでも違和感ないなんて、すごいぞ。
「なんか、あいつ感じ悪くないか?」
あ、完全に無視されて真白を連れていかれちゃった《勇者》殿が拗ねておられる。私はもともと平民だから《王子》に無視されてもなんとも思わんが、さすがに《勇者》はそうはいかないみたい。まぁ、あんだけがっつり真白の腰に腕回すの見せつけられたら、そうなるよね。
ご機嫌斜めの《勇者》を宥めてひとまず生徒会室に入る。《王子》はしっかりと真白の横の席を陣取り、必死に食いつこうとしてくる他の女子生徒を優雅に交わしながら、ひたすら真白に話しかけている。その顔は、離れ離れになっていた愛しい人とやっと出会えたって感じの幸せそうな顔。なんかキラキラがさっきより凄まじくなってる気がする。ずっと見てたら目が痛くなってきた。
んー、あれは前世の記憶思い出してる気がするなー。後でカマかけてみるか。
って、思ってたんだけど、残念ながらそんな隙は全くなかった。
何せ、ただでさえ《王子》はひたすら真白と話してるっていうのに、なんとか《王子》の気を引こうとしている女子たちががっつり周りを固めてて、その気迫が凄まじすぎて到底私なんかが割り込める感じじゃなかった。
てか、生徒会の先輩、ちゃんと仕事してください。
結局、《王子》への探りは諦めて、不機嫌そうに《王子》を睨む《勇者》をなだめつつ、置き去りにされていたもう1人の生徒会の先輩(もちろん男子)から課外活動の引き継ぎを行うことになった。
って、おいおい、なんだよこの展開。課外授業のことは真白と《勇者》に任せて私はぼーっとしてる予定だったのに。《王子》は早速出てくるし、真白にすでにメロメロで《勇者》は思いっきり《王子》に敵対心抱いちゃってるし。
ちなみに真白はちょっと困りながらも《王子》にちゃんと対応してあげてた。たまに心配そうにちらりとこっちを伺ってくる真白がかわいいったらありゃしない。
てか、確実に《勇者》と《王子》と真白を取り合うことになりそうだな。真白がいいならどっちとくっついてくれても私は構わないんだけどさー……。
お願いだから《冥王》が出てくる前に、さっさと蹴りをつけてください。