5. 成績発表
この学園ではテストの結果が1人残らず張り出される。いちいち模造紙に印刷するのも大変そうに見えるのに、わざわざ紙で貼りだすのだ。それだったらネットでチェックできるようにすればいいのにとも思うが、まぁ、こっちのほうが外部に情報が漏れる確率は確かに低いかもしれない。
なーんて、余計なことを考えている余力が、幸い今の私にはあった。なぜなら、テストの成績がそこそこ良かったからだ。1学年の人数は132人。そのうち私は34位という成績を収めることができた。全体の4分の1に食い込んだのだから”平”の”並”としては上々だろう。もちろん、この成績なら奨学金も引き続き受け取れる。
受験の時にも真白から心配しすぎだと言われていたが、やはり私がビビりすぎていたようだ。まぁ、そのおかげでこの順位なのだからよしとしよう。次気を抜かないように細心の注意を払わなければ……。次のテストの時も真白と一緒に図書館で勉強しよう。
ちなみに、その真白さんの順位はと言いますと……。
「え!?真白が2位!!?」
なんと、1位じゃありませんでした。中学の頃から常に学年トップだったし、入学式で答辞を読む生徒代表に選ばれたのだから、当然真白がこの学年で1番頭がいいと思っていたのに……。
真白より頭がいいなんて、一体どこの誰だ?1位の生徒の名前は”児玉博臣”……てか、全教科満点じゃん!なんてやつだ……。あれ、そういえばこの名前、見覚えがあるな?
「児玉くんって、中学の時から全国テストでずっと1位とってる人だよ。流石にかなわないよ」
本気で驚く私に真白は苦笑しながら言う。なるほど、どっかで見たことあると思ったら、そういうことか。児玉 博臣。いつも全国テストで1位ですごく難しい資格試験とかも中学生で受かっちゃったって、話題になってたんだっけ。天才少年なんてありきたりな言葉で呼ばれてたけど、まさかそいつがこの学園にいたとは。
「てか、全教科満点って……むしろ頭おかしいんじゃない?」
「脳みその使い方間違いまくってるあんたにだけは言われたくないよ」
うげっ!こ、この声は……《魔術師》!
聞き覚えのある声だと思って声のほうをしたほうを向けば案の定、そこには図書館で出会った《魔術師》が立っていた。小柄で華奢な体にちょっと長めの髪、まだまだ幼さの残る整った顔と一見すれば女子にも見える顔をしてるのに、目つきがまっっったく可愛くない。
なんなんだ!その虫けらを見るような目は!!ゲームの中の《魔術師》はもうちょっと目がくりっとしてて、フワフワした空気を醸し出したまさに”白魔術師”的な雰囲気だったんだぞ!それが……目の前にいるのは完全に黒属性の《魔術師》じゃないか!
だいたい、もう二度と関わりたくないと思ってたのに、なんで話しかけて来るんだー!
「な、なんで君が出てくるんだよ」
「自分よりはるかに頭おかしいやつに『頭おかしい』なんて言われて黙ってられないでしょ」
「だ、誰も君のことなんかっ───」
……ん?って、ちょっと待て。
「……君、児玉博臣?」
「そうだよ」
ま、まじか!ゲームと全然名前かすってないし!いや、そうじゃなくて……。
つまりこれ、”テストイベント”!?
テストイベントとは、【今キミ】の主人公が《魔術師》より良い成績をとると、今まで全く興味を示さなかった《魔術師》が主人公に近づいてくる、というイベントである。
けど、今回はそのイベントの発生条件を満たしていない。真白は《魔術師》より順位が下だった。そりゃ、《魔術師》以外よりかは上だけど……。もしかして現実では天才少年と呼ばれる《魔術師》を超えるのはいくら真白でも無理だから、これで条件満たしたことになったことか?
この世界本当なんなんだー!ゲームに沿うなら沿う、沿わないなら沿わないではっきりしてくれよー!!
なんて、世界に対して文句を叫んでいたら、私のことなんか完全スルーして、隣にいた真白に《魔術師》は視線を移していた。
「あんたが、真白清華?」
「はい。あ、この間は本当にすみませんでした」
「……」
何謝ってるんだ真白!あんなに失礼な態度取ってきたこいつに、そんなかわいい顔して謝ることなんてないよ!そんな相手にでもちゃんと謝っちゃう心の綺麗な真白は、本当に本当にかわいいけどね!
「まさかとは思ったけど、本当だったとはね」
ん?《魔術師》なんかよくわからんこと呟いてる?真白も何を言われているのかわからない様子で首をひねってる。にも関わらず、《魔術師》は独り言を続けた。
「ちょっとは興味出てきたかな」
こいつ、人のこと散々馬鹿にしといてくれて、わけわからん独り言を呟くとか私と同レベルじゃないか。いや、私はまだ口に出さず思考に納めてるんまだましだ。意味わからんこと言って人に迷惑をかけるなんてなんとい、
「僕の研究のために、あんたのこと観察させてもらうから」
「え?」「は?」
真白と私の声が重なる。いやいやいや、この人何をおっしゃって……。
「手始めに、お昼は一緒に食べることにしよう」
は、はいー!!!?ちょ、何を勝手に決めて……、ってそんな不気味に笑ってささっと歩き出そうとするんじゃない!
事情ぐらい話してけ!……なんて言う前に《魔術師》は人ごみの中に消えていった。
出会いからしてそうだったけど……いちいち気に障ること言ってくるし、
おかげで無駄にリアクション大きくなっちゃって疲れるし。
もう、なんか《魔術師》本当ヤダ……。