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4. とある教室




 この世界はゲームと類似点は多いが、ゲームに則さない部分が多く自由度が非常に高い。つまり、私がどんなに真白と攻略キャラとの出会いをゲームを参考に阻もうとしても、他のルートで出会ってしまう。それはつまり、私がどんなに努力しても《冥王》との出会いは避けられないかもしれないということだ。


 ならば、”冥王エンド”を阻むために私にできることはたった1つ。




 それは《冥王》に付け入る隙を与えないことだ。




 私は耐え忍んだ。そのチャンスが来る時を。


 そして、そしてとうとう、そのチャンスが巡ってきた!





 ドアの隙間から視界に入ったその腕を、私は思いっきり引っ張る。





「うわっ!」



 突然のことでさすがに男子といえども私の力には逆らえなかったようだ。相手の体が隠れていた教室に入ってしまったことを確認して、私は素早く扉を閉める。



 よし、《勇者》確保完了。



「ひ、平野!?一体何の真似だよ?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「だったら普通に教室までききに来ればいいだろ?突然引っ張られたから何事かと思った……」


 普通に教室まで訊きに来ればいいだー?そんなことができたらとっくの昔にやってます。《勇者》ファンの目を盗んで《勇者》と2人で会話するためには、こうでもしないと無理なんです!

 ……なんて、話したら《勇者》ファンに私が目をつけられてることも話さないといけなくなり、そしたら正義感あふれる《勇者》が井之上様に直訴しに行き、そしてその何百倍もの報復が私に降りかかってくるのは間違いない。だから《勇者》の文句はスルーしてさっさと本題に入る。



「君、前世の記憶についてどれくらい思い出してるの?」

「はぁ?なんだよ突然……」

「最初会った時に見せてくれた宝玉、それもらった時に《創造主》様からそんな感じのこと言われたんじゃないの?」

「た、確かに前世がどうのって話はしてたけど……正直俺には何のことかさっぱりわからないんだ」

「ふーん……」



 なるほど、《勇者》の前世の記憶はゲーム通り、初期ではまったく思い出されていない状態らしい。多分そうだろうなぁとは思っていたけど、ちょっとは何か思い出してるんじゃないかと淡い期待を抱いちゃっていたので残念極まりない。

 が、こんなところで挫けている場合じゃない。



「じゃあ、なんで真白のこと好きになったの?」

「べ、別に俺は……」

「はいはい、そういうの大丈夫だから。完全攻略目前なのはもうわかってるから」

「?かんぜんこうりゃく……?」



 あー、もうっ。いらんとこ拾わんでいいからさっさと質問に答えんかい!



「な・ん・で、真白のこと好きなの?」

「……なんか、懐かしさを感じたというか……傍にいたら落ち着くし。……それに」

「それに?」



「”今度こそ”守ってやらないと、って……なんか、思うんだよな」



 うむ、なるほど。前世の記憶を思い出してはいないが、宝玉を手にしたことでなんとなく前世での真白との関わりを感じ取っているのだろう。”今度こそ”と《勇者》が言ったのがいい証拠だ。



 なぜなら【セント・ファンタジア】で《聖女》は《冥王》の手にかかって殺されているからだ。



 まだ十分な強さを備えきれない時に《冥王》は突然《勇者》達の前に現れる。《冥王》の隠れた野望に気づいた《勇者》たち一行を、力のないうちに始末しようと考えたのだ。そんな《冥王》の攻撃から《勇者》たちを救ったのは《聖女》だった。しかしそれは身を呈した行動で、《冥王》の攻撃をもろに受けた《聖女》 はその場で致命傷を負う。それでも《聖女》は最後の力を振り絞って《冥王》の手の届かないところに《勇者》たちを転送させ、そして息絶えてしまう。


 というのが【セント・ファンタジア】のシナリオだ。この背景を元に、【今キミ】の世界で転生した《勇者》たちは、《聖女》の生まれ変われである主人公と出会い、少しずつ記憶を取り戻しながら、今度こそ《聖女》と幸せになろうと心を固めていく、という流れになっている。タイトルが”今世で”となっているのも、そういうところからきている。


 だから《勇者》が無意識にでも”今度こそ”と思っているなら、それは間違いなく前世の思いが関係している。その辺りはゲームと一致していると判断していいだろう。



 それなら、きっと”これ”が役に立つはずだ。



「これ、あげる」

「……紙切れ?」

「中にデートスポットと時期が書いてあるから、その通りに真白をデートに誘うように」

「は?」

「そこに書いてあるところ以外も、じゃんじゃんデートに誘いなよ」

「お前、何言って……」

「今のとこ真白に一番近いのは君かもしれないけど、そんな状況いつだって覆るんだからね?」

「……」

「本気なら、現状に甘えてる場合じゃないと思うよ。私が言いたいのはそれだけ」

「……」



 私がなぜちょっと誘拐めいた方法をとってまで《勇者》と2人っきりになりたかったか。それは他でもない。《勇者》に【今キミ】のイベントが起こる時期とデートスポットを示した特製のメモを渡すためだ。



 それもこれも、全ては《勇者》の恋を応援するためである。



 《冥王》に付け入る隙を与えないということはつまり、真白が《冥王》以外の誰かと恋に落ちればいい。そうすれば真白が《冥王》の告白とキスを受け入れることはなくなるはず。

 だから私は《勇者》にメモを渡した。ゲームに忠実ではないとはいえ、ゲームに類似したイベントが起こっているこの世界で同じ時期に同じ場所に行けば、同じイベントが起きて《勇者》と《聖女》の記憶がだんだんと甦り、2人の距離がぐっと縮まるはずだ。

 これであとは《勇者》に真白の気持ちをがっつり掴み取って貰えば、私の思惑通り”冥王エンド”は阻止できるだろう。今のところ他の攻略対象は真白に近づいてないから、畳み掛けるなら今だ。今しかない。




「頑張れよ、《勇者》!!」


「うわぁっ!!」




 あれ?こけちゃった?……背中、強く叩きすぎたかな?まぁ、何はともあれメモも渡せたし、これで”冥王エンド”対策はバッチリなはずだ。うん。



 え?もっと積極的に2人の仲を取り持ったほうがいいって?いやいやいやいや。以前もお話ししましたが、私の恋愛偏差値は非常に低いので御座居ます。とりわけ学生生活における恋愛経験ゼロなため、私に2人の仲を取り持つなんて到底不可能どころか、下手に二次元での知識を引っ張り出してきた挙句、2人のいい雰囲気をぶち壊して回るのが落ちですよ。


 今だって結構いい感じなんだから、私は《勇者》の背中をポンと押してやり、そして遠くから見守っているのが一番だということは間違いない。周りがどうこう言ったって、結局恋愛ごとは当人達の気持ちの問題ですからね。




 まぁ、《勇者》がどんなに頑張っても、真白が落ちてくれないとこの作戦は意味を持たないんだけど……。


 そこばっかりは私にもどうしようもないしね。


 私にできることと言ったらせいぜい神頼みくらいだ。


 とうことで、今年の七夕の短冊には”真白が《勇者》のことを好きになりますように”と書くことにしよう。





 なーんて、戯言をほざいていたらあっという間にテスト期間に突入しちゃいました。



 びぎゃーーーーーー!!!



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