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1. 真白の家

章は切り替わりましたが、前話と同じ日の出来事です。




 見事に名前を呼び損なった後、さっちゃんに散々残念な目で見つめられ、めちゃくちゃため息つかれまくり、しばらく名前を呼ぶ特訓をさせられた。期待を見事に裏切ってしまったことは本当に申し訳ないと思ったので、文句を言わずにその特訓に従った。


 けどねっ、もう一回言うけどねっ、本当の本当にわざとじゃないんだよっ!!あれはね、がんばらなきゃって自分を奮い立たせたものの、いざ口に出そうとした途端、ものすごい羞恥心が湧き上がってきて、その2つの感情がせめぎ合いまくってああなっちゃったんだよ。

 ……そういえば、前世で住んでた家の近くに、あんな名前のタコ焼き屋があった気がする。うん、ほんとごめんね。




 そして、さっちゃんの猛特訓を受けた後、私たちはその足で真白の家へと向かった。




「奈美……」

「夜遅くにごめんね」



 玄関から出てきた真白は私の顔を見ると、驚いたような、強張った顔をしていた。一応ここに来る前に、今から家に行くってことはメールで伝えてたんだけど、もしかしたら来ないでほしいと思われてたのかもしれない。何も悪くない真白を突き放すようなことしたんだから、嫌われて当然だよね。けど、どうしても真白に会いたかったんだ。



 倉庫に閉じ込められてる間に、自分がしたことがどんだけ馬鹿だったかって、痛感したから。



 毛嫌いされてる私のそばにいれば、真白も嫌な思いをすると思った。そして、私が本当にぼっちになれば、いじめてきてる人たちも満足して、ほとぼりも冷めてくれると、思ってた。前世の経験もあったから、それが一番の道だって、信じてた。



 でも、全然違ってた。



 あのままトイレ我慢できずに、どん底人生まっしぐらだと思った途端、思い知った。諦めたフリして、納得したフリして、理解したフリして、全然そんなことなかったってこと。ほとぼりが覚めた後、あわよくば真白と、そしていつかさっちゃんとも、前と同じように戻れればいいって、心底望んでた自分がいることに気がついた。

 諦めるのは、すごく簡単だ。前世でいつもそうやってきたから、よく知ってる。それでいいことだって、多分ある。それに、前世では結構諦めきれてた。諦められないくらい、未練があるものなんて持ってなかったから。



 だけど、今は違うんだよ。簡単に諦めるとか、無理だったんだよ。



 このまま、真白と友達でいないままなんて、そんなの嫌だよ。世界が滅亡しなくて、長生きできたとしても、死ぬまでこの時のことを後悔し続けるよ。今度こそって思ってたのに、そんなの意味なくなっちゃうよ。

 もう、遅いかもしれない。でも、《王子》にだって、あれだけ生意気な口きいたんだ。だから、私はみっともなくても、滑稽でも、できることがあるなら、足掻くべきなんだ。そう思ったから、私は真白に会いに来たんだ。



 強張った顔の真白を見て、胸が苦しくなる。自分が招いた状況なのにすごく怖くて、逃げたくなった。だけど、ここまで来たんだ。たとえどんな結果が待ってたとしても、ここで逃げたらそれこそ意味がなくなるんだ。

 心の中で自分に言い聞かせて、大きく息を吸う。震えそうになる声を必死に搾り出しながら、私は頭を下げた。



「……ごめん」

「え?」

「何も相談せずに、勝手なことして、すごい心配させて、本当にごめん」

「……」



 真白は何も言わなかった。頭を下げてる私には、真白がどんな顔をしてるのかわからない。帰れって、今すぐにでも言われちゃうのかもしれない。だけど、まだ言いたいことがたくさんあるんだ。


「都合よすぎるってわかってるんだけど、でも、私はまた、真白とっ……」



「奈美ーーーー!!!」



 あ、あれ……?えっとー……、なんでだろう。突然真白に抱きつかれた。今日はよく抱きつかれる日だな。……じゃなくて、あれ?真白、泣いてる??


「よ、よかった……。すごく、心配で……」

「真白……」


 ちょっと混乱しつつも、拒否られなかったことにはホッとする。久々に近くで聞く真白の声とか、ほのかにするいい匂いとか、真白がすごく近くにいるんだなって実感できて、それだけですごく嬉しかった。


「ごめんね」

「え、何で、真白が謝るの……?」

「奈美が辛いのに何もしてあげられなくて。でも、私、どうすればいいかわからなくて。奈美が言うことも多分正しいと思ったら、何も、できなくなっちゃって……」

「真白……」

「本当にごめんね」


 涙を流しながら顔を上げた真白が、途切れ途切れに言う。その言葉で、胸がキュンキュン締め付けられた。だって、真白全然悪くないのに。私こそ、真白にひどいこと言ったのに、それなのにこんなに心配してくれてたなんて……真白は本当の本当に《聖女》の心を持ってるよ。優しすぎだよ。ああ、泣いてほしくなんかないけど、泣いてる顔もすっごく可愛いよ!!!

 って、真白の可愛さに悩殺されてる場合じゃなかった。真白が謝る必要なんてこれっぽちもないからね。それに、今回私を救ってくれたのは、真白でもあるんだ。


「真白が謝ることないし、真白は何もしてなくないよ。私が家に帰ってないってさっちゃんに教えてくれたの、真白だったんでしょ?」

「うん……、奈美のお母さんから奈美が帰ってないって連絡きて、心配になって……」

「ありがとう。お陰ですごい助かったよ」

「奈美……何かあったの?」


 心配そうに尋ねてくる真白、可愛い。色々とあったんだけど、説明したら真白を余計心配させちゃうよね。こうして無事に真白に会いに来れたんだし、これ以上心配させたくない。


「あー、うん。でも、さっちゃんが助けてくれたお陰で……」



「奈美」



 後ろから、ものすごい鋭い声が飛んでくる。真白の家まで一緒に来てくれて、今の今まで黙って後ろで待っていくれた《暗殺者》の生まれ変わりさんの声なのは間違いない。ちらりと後ろを向くと、こちらをじっとりとした視線で見てくる。明らかに何かお気に召さないご様子だ。

 あー……、その表情だけで彼が何を言わんとしてるかは手に取るようにわかるよ。わかるけどさ、今真白との大事な話の最中なんだけどなー……。


「……今?」

「今」


 にっこり笑顔が返ってくる。下手に恐い顔で脅されるよりも迫力あるって、どういうことなんでしょうね?仕方ないと思いつつ、真白の方を向きなおる。

 突然意味のわからないやりとりをし始めた私たちに、真白は目に涙を浮かべながらも、ちょとんと首を傾げている。そんな真白もすっごく可愛い。すっごくすっごく可愛いんだけど……。真白の前で、あれをやるのか。そう思った途端、爆発するんじゃないかと思うほど顔が熱くなってきた。


「~~~~~っ!!!」

「な、奈美?」


 真白が思わず慌てるほど、私の顔は今真っ赤なのだろう。それもこれも全部湧き上がる羞恥心のせいなんだけどね。えぇ、でも、わかってますよ。そんなに後ろから睨んでこなくても、ちゃんとやりますよ!!!


「はっ……」

「は?」



「は、隼人が助けてくれたお陰で何とかなりましたっ!」



 んはっ!!あー……たったこれだけの言葉を口にするために、呼吸困難になるところだったよ。ふっ、しかし、今のは特訓の成果が出てたんじゃないか?ちゃんと「は」と「や」と「と」がくっついてたし。これでさっちゃんも満足……って、まだ不満そうな顔してるし。まだまだ不自然だ、とか思ってるんだろうな。不自然さが消える日はとてつもなく先だと思うから、気長に待っていただけるとありがたいんだけどなー……。



「奈美……今……!!!」



 あれ、何か真白の目がすっごいキラキラしてる。え、何か感動してる?どうしたの?今の間に、流れ星でも目撃したのかな?

 なんて思ってたら、キラキラした瞳で満面の笑みを浮かべて、さっちゃんの方に駆け寄る。



「よかったね、小夜時雨君!!」

「うん」



 うん、じゃないよ。すっごい嬉しそうな顔で真白に笑い返してるし。あんな笑顔を真白に見せるなんてめずらし―――――って、ちょっと待って。さっきの真白の反応って……。もしかして、真白さん何か勘違いしちゃったんじゃないだろうか?え、違うよ。ただ、名前で呼ぶようになっただけだよ?正しくは名前で呼べるようになるように猛特訓の最中とか、そういうレベルだよ。目をキラキラさせながら”よかったね”っていうようなこと、何もないんだからね!




 てか、さっちゃんも!紛らわしく、”うん”とか頷いてるんじゃないよ!!




「これで、またみんなでお昼ご飯たべれるね!」

「え……」


 急いで真白の誤解を解かなければー、と思っていたら、真白が弾んだ声で言ったセリフに、思わず声が漏れる。


「え?食べないの?」


 私の反応に、真白は眉を下げながら残念そうに尋ねてくる。本当、どんな顔しても真白は極限に可愛いよ!って、そうじゃなくて……。みんなでご飯食べるとか、すごく楽しそうだし、もちろんしたい。けど……。



「あの……また、私と友達になってくれる、の?」


「何言ってるの!私たち、ずっと友達でしょ!」



 ちょっと眉を吊り上げながら、私の両手をぎゅっと握ってそう言った真白。殺文句でしょ。私の心臓、ぶち抜かれました。



 真白、ほんと、大好きっ!!!



「ま、真白~~~!!」

「奈美っ!」


 嬉しすぎて、ときめきすぎて、思わず泣きながら真白に抱きついたら、真白もぎゅっと抱きしめ返してくれた。あぁ、もう!こんな幸せを味わえるなら、ここ数ヶ月の苦しみなんて、一気に忘れられそうだ。



 もう絶対に、真白を傷つけたりしない。絶対の絶対だ!!



 私は真白のぬくもりを感じながら、心の中で何度も何度もそう繰り返した。





「……俺には自分から抱きついてこなかったくせに」



 誰かさんの恨めしそうな声は、聞こえないったら聞こえない。




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