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6. 入学2日目②




「奈美、大丈夫?顔色悪いよ?」

「大丈夫ー……」



 机にうつ伏せている私に真白は心配そうに声をかけてきてくれる。ただいまの時間は4時限目が終わったところ。なのになんと、私はまだ朝全力疾走した疲労に苛まれていた。体力がない上に回復力までこれだけ低いとは……てか、まだこの体15歳のはずだよね!?この歳でこれはさすがにまずすぎる気がする……。




「私の分のスタミナジュースも飲んでいいよ?」


「それはだめ!」




 真白の言葉に思わずガバッと顔を上げる。うぅ、急に動いたからめまいが……。そんな私に真白は水筒に入れたまだあったかいお茶を渡してくれる。


「わかったから、ひとまずお茶でも飲みなよ。落ち着くかもよ?」

「……そうする」


 真白は本当に優しい。私なんかにも優しくで包んだから、地球上の誰にでも優しくできるに違いない。ほんと女神だよ聖母だよ。真白の優しさに涙ぐみながらお茶をもらう。それを飲むと、ちょっとフラフラが落ち着いた。うん、真白が注いでくれたことによってこのお茶は聖水に変わったようだ。ありがたやー。

 なんてふざけてないで、真白に”あれ”を渡さなくては。



「あ、これ今日の分ね。今日はりんごベースにしてみた」



 そう言いながら私は小さめのタンブラーを渡す。その中に入っているのは私お手製の”スタミナジュース”だ。まぁ、ただフルーツ3種類と葉物野菜1種類をミックスしたジュースだが、ビタミンのバランスなどを考えているので栄養価は高いはず。



「相変わらず色はすごいのに、美味しいから不思議だよね」



 タンブラーの中身をのぞこ込みながら、真白は苦笑する。真白さん、料理は見た目ではなく味ですよ、味。見た目がわからないようにタンブラーに入れてるんだからわざわざ覗き込まないの!


 なんて突っ込みながら、2人でご飯の前にそのジュースを飲んでしまう。うん、今日も普通に美味しい。朝ちゃんと味見してたから知ってたけどな。

 不味い料理を他人に振る舞う人間は二種類に大別できる。一方はは完全に味音痴、一方は味見をしない。前者はまぁ仕方ないとして、後者は論外だ。自分が不味いと思うもん出してどうすんだ。たった3秒くらいで終わる作業をなぜしない。そこまでの努力に酔いしれず、人に出せるかちゃんと確かめてから出してこい。

 という信条をもっているので、私は味見をしていなものを他人に、ましてや真白の口に入れるような真似はしない。幸い私は味音痴ではなかったようなので、だいたい真白に喜んでもらえる。

 実は、私はこのジュースを中3の頃から真白に持ってきていた。



 これも立派な”冥王エンド対策”の1つなのである。



 なんで生ジュースごときがそんな大事につながるかって?《冥王》の出会いイベントがゲームの主人公、この世界で言えば真白の健康に大きく関係しているからだ。

 《冥王》は隠しキャラなので普通にパラメータを上げただけでは出会うことができない。《王子》との出会いの条件が”生徒会に入る”ことだったように、《冥王》にも出会いのための特別条件がある。



 それが、”ぶっ倒れること”である。



 他意は何もない。疲労でも貧血でも怪我でも風邪でもなんでもいい。ともかく何かしらの弾みに意識を失う。これが《冥王》と出会うための条件だ。



 なぜなら、《冥王》は保健医として、学園に現れるからだ。



 ゲームの中でいうと、無理にパラメータを上げすぎたせいで疲労状態となり、そのポイントがたまっていくと主人公は病気になる。そして、それが治るまで一切パラメータは上げれないというペナルティなのだ。

 ”病気イベント”と呼ばれるこのイベントは、そのペナルティが発生する前、主人公が学校で倒れ保健室に運ばれることで発生する。そして、主人公はそこで《冥王》の仮の姿である保健医と出会いを果たすのである。



 これで、私が中学の頃から真白に手作りジュースを持ってきている理由をお判りいただけただろう。真白が健康で倒れたりしなければ《冥王》との出会いイベントは起こらないのだ。

 今のところ各キャラとの出会いイベントはゲームの通りに発生している。だから真白が倒れない限り《冥王》と出会うことはないし、出会わなければ”冥王エンド”は起こり得ない。うん、我ながらとてもいい作戦だ。



 ちなみに、真白は月に1回必ずやってくる女の子のものの時、かなり体調を崩していたが、今はそれも改善している。産婦人科に行って薬を処方してもらうように勧めたからだ。前世の私は体調が悪くなるわけではなかったが、不順すぎたので友達に教えてもらってそれを服用していたので知っていた。副作用のこととか心配して飲まない人もいるが、ちゃんと定期的に検査も受ければ大丈夫だ。



 ということで、真白と仲良くなって以来、”真白が倒れない対策”はバッチリしてあるのである。

 ちなみに、念には念をということで、真白を保健室に近寄らせないために、私はいつもある程度の怪我に対応できるだけの道具と、ある程度の症状に対応できるだけの市販薬を入れた救急箱を持ち歩いている。今はロッカーの中に入っているが、体育の時はグラウンドや体育館に持っていくつもりだ。

 これで、真白は保健室に通うことなく無事に3年間の学園生活を送るであろう。完璧!!



「あれ、あの人……」



 ジュースを飲み終わったところで、次はお弁当を開こうとしていた真白がポツリと言う。そこで私はやっと現実世界に戻ってくる。

 自分の完璧な”冥王対策”に酔いしれてたせいで全然気づいてなかったけど、なんだか教室が騒がしい。そして、真白は教室の後ろの入り口の方を見ている。

 私もそちらにつられて視線をやった。そして、納得する。



 そこに立っていたのは《勇者》だった。



 生徒会に入る話をしにやってきたのだろう。予想通り断る気はさらさらなさそうだ。はっ、チョロいぜ。




 ……しかし、なんでこんなに教室がざわついてんだ?



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