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2. 思い出したことを整理してみました。

7/1 改稿しました。内容が微妙に変わってます。




 目を覚ましたら、そこは保健室でした。



 うん、森の中とかじゃない。たまにサボりに来る見慣れた保健室のベッドの上だった。



「突然倒れたって聞いたけど、どうしたの?」



 私が起き上がったことに気付いたのかおっとりとした口調がカーテンの向こうから聞こえてくる。カーテンをずらして顔を出したのは、この学校の保健の先生だった。



「あー……先生は前世の記憶とかってある?」

「はい、今日はもうお家に帰ろうか」



 質問に答えてもらえなかった。あ、うん。やっぱそういう反応ですよね。ちょっと混乱中でついつい口に出しちゃったけど……。

 まぁ、いっか。どうせさっき教室で謎のワードを口走って失神した私には立派な厨二病のレッテルを貼られたに決まってる。その認識が1人増えたところで痛くもかゆくもない。

 私が早退したがるのを見越していたのか、すでにカバンが保健室にあった。気をきかせてくれた保健の先生に感謝こそすれ、誰がちょっとくらい冷たい態度に拗ねたりするもんですか。くすん。

 そんなことを思いながら、さっさと学校を後にした。





「結論から言うと、私は前世の記憶を思い出した」





 返事はない。独り言なんだから当たり前だ。

 学校から帰宅後、自室に篭って椅子に座って天井を見上げている最中だ。だんだん苦しくなってきたので姿勢を元に戻す。



「しかし、まぁ、まさか本当にこんなことってあるんだねぇ」



 しみじみと呟いてしまう。なんか感慨深かった。オタクの私が憧れていた異世界への転生。それが今まさに自分の身に起こってる。



 そう、今世の14年間と前世の28年間、合わせて42年間、私はこの時を待っていた。


 つまり何が言いたいかというと、私は転生してもオタクだった。オタク歴42年だ。



 いやいや、生まれた瞬間からオタクではないか。いやいやいや、今はそんなことどうでもいいんだよ。どうやら前世の記憶を取り戻した反動でかなり混乱しているみたいだ。

 落ち着くためにも、思い出したことを書き出してみようかな。そう思いながらパソコンを立ち上げる。こういうのはただ考えるより、何か形にした方が整理しやすいもんだろう。適当に理屈をつけながらメモ帳ソフトを開く。


「今世の名前は平野ひらの 奈美なみ。前世の名前は不明、と」



 箇条書きでひとまず思い浮かんだままに考えを整理していく。



・今世の名前:平野奈美、前世の名前:不明

・前世の年齢:28歳?(28歳の誕生日を祝った記憶がなんとなくある)

・前世の仕事:事務員(社畜、残業ばっかしてた気がする)

・前世の家族構成:独身(恋人もいなかったかな)、両親は健在だった、一人っ子

・前世の知人:思い出せない。(あだ名っぽいのなら何人か、さっちゃん?)

・はっきりと思い出せたこと:好きだったゲーム、漫画、アニメ、声優の名前。(多すぎて描いてたら日が暮れる)



 ……うん、我ながら酷い。もうちょっと他のことにメモリ使っとけばよかったな。



「そして、一番重要なのがこれ」


 独り言を言いながら、キーボードを打つ指に思わず力が入る。



・前世を思い出したきっかけ:【今キミ】の”聖亜細誕巫亜学園”



「単純に考えると、ここって【ゲームの中】ってこと?」


 画面の文字を見ながら頬杖をつく。

 【今キミ】と書いて【こんきみ】と読む。それは前世で私が大好きだった乙女ゲームの略称。正式名称は【今世で君を手にいれる 〜セント・ファンタジアの勇者たち〜】。



 なぜこんな長々しい名前なのかというと、【今キミ】が純粋なRPG【セント・ファンタジア】から派生した乙女ゲームだからだ。

 【セント・ファンタジア】は前世の私が生まれる前にできたソフトで、私が触ったこともない初期の家庭用ゲーム機のソフトだった。当時からかなり人気だったが、何と言ってもこのゲームのすごいところはその人気の長さ。移植・リメイクは数知れず、派生物を含めれば30本以上のゲームが発売されていた。


 【今キミ】もその1つ。【セント・ファンタジア】には魅力的なキャラが揃っているというのに、初期のゲームだからかキャラ同士の絡みなどが少ない。恋愛要素もほぼない。妄想の余地はあるけど、もうちょっとオフィシャルに色々欲しい。

 そんな状況に乙女たちが立ち上がった!噂によると【セント・ファンタジア】の熱狂的ファンの女性が発売元のゲーム会社に乗り込むようにして就職し、鬼のような勢いで企画会議に乱入し、雷のような速さで予算を奪い去り、3年という歳月を経て発売にこぎつけたゲームだと言われている。

 なんで予算もらった後にそんなに時間がかかったかって?ふっ、愚問だな。ときめきを求める乙女たちの心が妥協を許さなかったからに決まってるじゃないか。声優なんてこのゲームのためにプロアマ集めてコンテストを開き、適した人材を探したらしい。私はその女性を心の底から尊敬している。会ったことなんてもちろんないが、乙女ゲーム界ではある意味伝説の人物で……、



「……いや、だからなんでこんなのばっかり覚えてるんだ」



 答えは簡単。私が普段からそんなことしか考えてなかったからです。



 思考をゲームのことに戻す。【今キミ】の大まかな設定は【セント・ファンタジア】で活躍したキャラクターたちが、悪の敵を打ち破り世界に平和をもたらした後、世界の《創造主》の慈悲によりはるか未来の平和な世界へと転生したという設定だ。若き日々を戦いに費やした彼らに健やかな青春を送ってほしい、というのが《創造主》の気持ちだということになっている。

 ゲームの主人公は【セント・ファンタジア】のキーキャラクター《聖女》の生まれ変わり。そんな彼女が転生した彼らは魔法の朽ちたごく普通の世界で、かつて共に旅をした《勇者》たちと再会する。3年間という学園生活の中で、《聖女》と《勇者》たちが前世の記憶を取り戻しながら恋に落ちていくというストーリー。



 その舞台となるのが”聖亜細誕巫亜学園”なのだ。



 このヘンテコな名前の学園が今現在私が生きているこの世界に実在してる。中学の”高校受験の手引き”に載ってたんだから、まさか遊び心で「ゲームの中の学園のせちゃいました」なんてことはないはずだ。



 と、すると考えられるのは、大好きだった乙女ゲームの世界に転生しちゃったってことだよね。



 でも、今まで《平野奈美》としての人生を振り返ってみると、そんな感じしないなー。確かにここは前世で生きてた地球とは違う惑星だけど、大きな違いってないんだよな。大陸の形とか、国とかは違ってるんだけどさ、文明的には酷似してるし。オタク文化だってちゃんとある。

 【今キミ】の世界は確かに現代風だったから、こんなもんなのかな。【セント・ファンタジア】では思いっきり魔法とか魔物とかもあったけど、【今キミ】ではそういうファンタジー要素はほとんど除外されてたし。

 あれ?でも、確かファンタジー要素もちょっぴりだけど入ってたよな?



 ”あのキャラのエンド”ってこの世界ではどうなるんだろう?



「奈美ー、ご飯できたわよー」

「はいはーい」


 いつの間にか母親が帰ってきて、いつの間にか夕飯の時間になっていたらしい。うん、脳内考察って本当簡単に時間過ぎ去っていくから怖い怖い。ひとまず糖分を補充して、ゲームして、余裕があったらまた色々考えてみよう。



 

 ゲームの中でも、人生は人生だ。


 それがわかったところでやることは今までと変わり映えしない。


 一生懸命生きる、これだけだよね。


 


 あ、ちなみに自分がゲームのヒロインとかそんなことは妄想の余地がない。なんで言い切れるかって?



 だって、私の前世はオタクだし。



 ひっくり返して振ってみても、燃やしてみても、水に沈めてみても、どうがんばったって《聖女》なんてものには変換できません。



 予言してみせよう。私は来世でも絶対にオタクとして生まれてくることを。



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