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15. 体育祭①



 

 いつの間にか、体育祭当日を迎えていた。けど、ほっとんど体育祭の内容は覚えてない。気が付いたら始まって気が付いたら終わってた、そんな感じ。去年の《勇者》と《魔王》の戦いが嘘みたいに、あっさりとした味気の無い体育祭だった気がする。


 まぁ、実際《冥王》が真白に接触をするのを避けるための攻防が繰り広げられていたのかもしれないけれど、モブキャラポジションとしてすらお役目ゴメンをくらった私には、関わりようのない話だ。

 世界の重要な流れは、重要な人物の周りで巻き起こり彼らのみが認知できるものであって、私のような部外者には目にもつかないし、気配すら感じられない。世の中ってのはそんなもんだろう。


 体育祭のこと覚えてないのは、お役目御免を食らったせいだけじゃない。前回と前々回での忙しさが幻だったんじゃないかと思うくらい、今年の体育祭は暇だった。《勇者》が気を回してくれたみたいで、私は保健要員としてただボーっと本部に座ってただけだ。とてつもなく天気が良かったから、動きもしてないのに喉が渇いて、ひたすらスポーツドリンクを飲んでいた気がする。

 最初は保健要員とか《冥王》の近くにいないといけないからごめんだって思ってたんだけど、ふたを開けてみたら《冥王》はいなくて、代理の保険医の先生が来てくれていた。多分この先私がヤツと関わることもないんだろう。清々する話だ。



 なんて考えてたら、あっという間に体育祭は終わって片付けに入る。ここまで全然働いてなかったので、せめて片付けくらいはしっかり働くことにした。サボってたって後でいらない因縁をつけられたくないしね。

 ある程度本部の片付けが終わって、《勇者》に声をかけに行く。持ち場が片付いたところから帰らせてたみたいで、グラウンドに残っている生徒会のメンバーも少なくなっていた。



「あと残ってるのは、体育倉庫の点検だな」



 ちょうど近くまで近づいた時に、珍しく大きめの息を吐きながら《勇者》がぼやいてるのが聞こえた。体育祭の内容はほとんど覚えてないけど、たぶん《勇者》は今年も出られる競技全部に出場したに違いない。おまけに生徒会長の仕事もあったから、さすがの《勇者》様もお疲れなのだろう。

 私なんかが手を貸す必要なんてないのかもしれないけど……なんか働いてなさすぎて、落ち着かない。社畜根性が魂の芯まで染み渡っちゃってるからだろうねぇ……。ともかく、このまま先に帰ったら、忙しそうな上司を尻目に帰った罪悪感で寝付けないのは間違いないだろう。

 近くに私を目の敵にしてる生徒会メンバーがいないことを確認してから、《勇者》に声をかける。


「体育倉庫の点検なら私が行くよ」

「平野」

「こっちはもう片付いたし、去年も片付けたから配置とか覚えてるし。誰かさんのおかげで今年は楽させてもらったから」

「……じゃあ、最後にチェック頼むな」


 ちょっと渋るような顔をしたけど、最後の言葉が効いたのか持ってた体育倉庫の鍵をこっちに差し出してくる。てか、ただの予想だったんだけど、やっぱり《勇者》が気を回してあのくそ暇な役目を私に回してくれたらしい。

 放っておいてくれ、なんてものすごく可愛くない言い方で突き放したのにな。そんな私にまで情けをかけてくれる懐の深さは、まさに《勇者》のそれだよね。


「あ。あと、他の片付けが終わったら先に帰っていいから。鍵は職員室に返しとく」

「大丈夫か?」

「うん。じゃあ、お疲れ」


 こんな私の帰りの心配までしてくれるんだから、本当の本当に《勇者》はいいやつだよ。心の中でそう思いながらも、視界の端に人影が見えたから、別れの挨拶だけしてさっさとその場を後にする。いくら《勇者》がいいやつでも、それに甘えちゃったら自分の首絞めるだけだからね。

 邪険にしないでくれる人がいる、それだけで今の私には十分過ぎるでしょ。




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