表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
194/202

14. 体育祭準備④




「大丈夫か?」



 隣の部屋に移った《勇者》は開口一番聞いてくる。さすがに生徒会の仕事一緒にやってたら、なんか変だって気づかれちゃうよね。もしかしたら、真白か《女騎士》あたりが《勇者》に話したって言うのも考えられるけど……。


「小夜時雨も姿見せなくなったって言うし……」

「それもなるべくしてなったことだよ。まぁ……目が覚めたって感じ」

「は?」



「今までのほうがおかしかったんだって」



 何度も自分に言い聞かせた言葉を繰り返す。中学3年からここまでの3年間。私みたいなのが当たり前みたいに真白の近くにいられた。それこそが奇跡みたいなものだったんだ。



 今の状況は、その奇跡の効力が切れただけ。



 3年も続いた奇跡なんて、それだけで上等でしょ。前世ではできなかった友達との楽しい学園生活ってのも体験できた。それだけで重畳じゃないですか。

 そう考えたら、気持ち的に楽だった。変な希望もつと余計に苦しいからね。卒業までこんな状況が続くと思えば、逆に開き直れる。



「……おまえ、最近真白のこと避けてるんだってな?」

「……」

「真白に迷惑かけたくないって思う気持ちはわかるけど、せめて話くらい―――――」

「そんなんじゃないよ」

「え?」

「真白といるとさ、余計に因縁つけられちゃうから。離れてたほうがほとぼりも早く収まると思うし、私としてはそっちのほうが助かるんだよね。だから、君も放っておいてくれて良いから」

「平野……」

「あの仕事、明日に終わらせるから。後であの後輩からいちゃもんつけられるのはこっちだし」

「おい」

「足引っ張ってごめんね」


 《勇者》の呼び止める声を無視して教室を出る。励ましてくれようとしてくれてるのはわかったけど、励まされたところで状況が変わるわけじゃないからね。私程度が《勇者》と馴れ馴れしく接してる、っていうのが恨みを買った一因なのは間違いないだろうし。

 ここはひたすら独りで耐えるしかない。それで卒業までに周りのヘイトが静まればよし、静まらなければ……まぁ、それもそれでよし。前世でも高校時代の友達なんて1人もいなかったし。



 それが、ただ単に繰り返されるだけだ。



 ってー……考え事しながら歩いてたら、思わず教室に戻ろうとしてた。さっきまでいた部屋に筆箱とか置いてるから、取りに戻らなきゃ。

 うわー、あの後輩女子、腹いせに筆箱隠したりしてないよな?高いものは入ってないけど、安いとはいえお気に入りのペン買いなおさないといけないのはやだなー。




「いい顔をしているな」



 

 振り返った途端、かけられた声にはっと顔をあげる。向かおうと思っていた先に立っていたのは、白衣の男。



 保健医である、《冥王》がそこに立っいた。



 私自身も《冥王》とは接触しないようにしてるから、姿を見るのは久しぶりだ。相変わらず、不健康そうな顔色をしている。保健室の周りには相変わらず女子がたかってるって話だけど、こんなのがもてるなんて世の中いろいろと間違ってるよ。


「絶望に押しつぶされそうな顔だ。何かひどい目にでもあったのか?」

「……おかげさまで」


 わかりきってるくせに白々しく聞いてくるんじゃないよ。元はといえば、こいつが鈴木君に余計なことを吹き込んだところから全部始まったって言うのに。

 こちらを見て笑っている《冥王》の顔は無駄に顔が整ってるせいか、よけい嫌味ったらしく感じる。腹が立って、反射的に嫌味で応戦したらさらに楽しそうに笑った。


「何をされても平気な顔をしていたくせに、こんなものが一番効果的とは、人間とは本当に意味のわからない生き物だ」

「こっちはいろいろとトラウマつきなんでね」


 これ以上何か反応して見せても相手を楽しませるだけだ。ここは無視して立ち去るのが一番だと思って、歩き出す。なるべく距離をとりながら、《冥王》の横を通り抜けようとした。




「《聖女》がひどく心配していたぞ」




 真横に来た瞬間、言われた言葉に思わず足を止める。顔を上げると、《冥王》と目が合う。その目は勝ち誇ったようにこちらを見下ろしていた。



 それが何を意味しているのかは、簡単に理解できる。

 


 《女騎士》達だって、真白が保健室に近づかないようにって気をつけてくれてるはずだ。だけど、私以外は真白と違うクラスだし、《吟遊詩人》は教師だからいつも真白だけを見ているわけにはいかない。

 わかってる……。世界の滅亡がかかってる。半端ない生命の数の危機だって。それに比べたら、私の学校生活での悩みなんて砂の一粒以下だって。だから、今は真白の近くにいるべきだって。



 わかってるんだけど……。



「いじめ程度でいっぱいいっぱいになっちゃうくらい、こっちは凡人なんですよ」



 そもそも、こんな凡人が《冥王》相手に立ち回ろうなんてのが間違ってたんだよ。《勇者》もいる、《魔王》もいる、《魔術師》に《吟遊詩人》に《女騎士》もいる。真白には常人離れした人たちがついてるんだ。

 《冥王》が復活をたくらんでるって事実を彼らに気づかせただけで、モブキャラとしての役割としては十分すぎたでしょ。友達に囲まれた学園生活なんて夢も覚めて、本来あるべきボッチ状態にもどった。つまり、これはお役目ゴメンってことだよね?




 そういうことなら、こっちは一向に構わない。



 ここがタイミングだっていうなら、私は喜んで退場させていただきますとも。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ