12. 体育祭準備②
「ねー、何で清華ってあんなのと仲いいの?」
「え?」
「平野だよ。あいつ、地味でキモくない?」
ただいまの現在時刻、放課後。現在地、トイレの入り口。生徒会の仕事が終わって、先に仕事終わった真白の待ってる教室にむかってた。その途中に生理現象発生でトイレによろうとしたんだけど……、ドアを開けようとしたら聞こえてきたのがさっきの会話。
中にいるのは真白と数人の女子。真白の声以外誰かなんてわからないけど、会話からして明らかに私にいじめを仕掛けてきている女子の一群なのは間違いない。
「な、なんでそんなひどいこと言うの?奈美はいい子だし、中学から仲良くて……」
戸惑ったような真白の声が聞こえてくる。それをはやし立てるように声を上げる、周りの女子。「やさしー」とか「慈悲深いー」とか、大げさに感心して笑う声が次々に聞こえてくる。
そして、その次の展開が手にとるように想像できた。
だって、私は前世で、今と似ている状況に陥ったことがある。
だからわかる。あいつらは、目障りな私を徹底的に叩きのめしたいんだ。本当の本当の独りにさせたいんだ。まるで、ゲームで楽しむみたいに、あいつらは……。
「真白は誰にでもやさしいからなぁ。でも、良く考えてみなよ」
続きがわかってるなら、逃げ出せばよかった。聞きたくないなら、聞かなきゃよかった。なのに、体は動かない。そして、一際大きく笑っていた声が、言う。
「あんな奴とつるんでたら、アンタが損するよ?」
はっ……。世界が変わっても、気に食わない奴を陥れる言葉は大して代わり映えしないんだな。
事実だよ。前世でも現世でも、それは紛れもない事実ですよ。だからその言葉は意味わかんないぐらいぐっさり刺さってくれちゃうんですよ。平々凡々、なんのとりえもなくて、お金だって権力だってわけじゃない。おまけに、こんな地味ないじめの対象になってる私といたって、そりゃ誰だって損すると思うでしょうよ。
それは、認めますとも。けどね、心の底から聞き返してやりたい。
あんたらといたら、どんな得があるんでしょうか?
笑える。自分が世界の中心だって、疑いもしない発言だ。ああいうのを、真の中二病って言うの、わかってんのかね?私みたいな二次元に思いを馳せるオタクなんかより、現実でガチで自分が特別だと勘違いしちゃったその発言が、どれだけお間抜けで的外れで思い上がりか、わかってんのかね?
……わかってないんだろうなー。若さがそうさせちゃうんだよね。中二病なんて、誰が言い出したか知らないけどさ、これはまさに病気だよ。
そして、あぁいう奴に限って、大人になって現実を知ったときには、そんな風に思い上がってた恥ずかしい記憶をあっさりと忘れちゃうんだよ。忘れちゃうっていうか、気づかないんだと思う。成長して現実を受け入れて、そんな風に付け上がっていたことにさえ気づかないで、だから勘違い発言のことも記憶になんて残らない。
そのはた迷惑な勘違いで、どれだけ他人が傷ついたかもしれないでさ。
何でよりにもよって、前世で一番傷ついた言葉を現世でも聞かなきゃなんないんだ。なんで、なんで……。
よりにもよってそれを真白に言うんだよ。
■ □ ■
『もしもし、奈美?』
「……」
『今日、どうしたの?先に1人で帰っちゃうから、心配してたんだよ。何も連絡もくれないし……、何かあったの?』
「……」
『……奈美?』
「ごめん、真白。もう、私と一緒にいないほうがいいよ」
『え……?』
「《女騎士》にもそういっといて」
『何、言ってるの?……奈美?奈美ってば!』
「……」
『奈美、ちゃんと話してくれないとわか――――――』
通話をきるボタンを押して、スマホの電源を落とす。
わかってる。真白は何も悪くない。わかってても、無理だった。
あの言葉をきいた真白が何を思ったかなんて、知りたくなかった。
だから、自分から突き放した。怖かっただけだ。これ以上、私の悪口を真白に聞かれて惨めな思いをするのが、耐えられなかっただけだ。意味わかんない自尊心。前世でもそうだった。結局、トドメを刺したのは自分自身だ。
誰ですか、二度目の人生だと吹っ切れるのが早くて助かるとか思ってた人。
そんなのただの錯覚でしたよ。




