11. 体育祭準備①
それから、地味ないじめは続いた。
おかげで前世でぼっちやってた感覚がだいぶ戻ってきてくれた。
てかね、考えてみればこっちが正常なんですよ。靴箱にごみつめまくるとか、机や椅子に落したりとか、すれ違う度にひそひそ話とか。ちょっと気に食わない相手に対するいじめっていうのは、普通はこうやって誰がしたかばれないように、こそこそやるもんなんだよ。
あからさまに呼びつけてぼころうとかいう井之上様と木戸がおかしいのであって。崖から突き落とすとか、集団リンチとかがおかしすぎるのであって。
そして、それらがおかしかったのと同じように、今まで私がぼっちじゃなかったっていうのも、おかしな話だったんだよ。
「奈美、最近元気ないけど、大丈夫?」
「うん、まだちょっと怪我がね」
お昼ご飯を食べながら真白が心配そうに顔を覗き込んできてくれる。真白にこんな風に心配してもらえるのも、当たり前みたいになってたけどさ、でも、実際そうじゃないんだよ。
「小夜時雨君とはあれから連絡はとってないのかい?」
「うん……。きっと、嫌がるだろうから」
さっちゃんが守ってくれてたのだって、どっかの聖人が復活したっていう奇跡くらいに、嘘みたいな話だったんだよ。
それが、今、全部正常に戻ろうとしてるだけだ。
「……本当に大丈夫なのかい?」
「え……」
《女騎士》のいつもより一際低い声に、はっと我に返る。……あれ、今の会話全然頭に入ってなかった。鬱モード全開で自虐かましちゃってたし。2人がこっちを見てくる顔が、今までに見たことないほど暗いことに気づく。
「平野君、ずっと上の空だし、最近あまり私たちとも話してくれないから」
「ま、まだ本調子じゃないだけだよ、本当に」
「……それならいいんだけど」
慌てて笑顔をつくろうと、《女騎士》はそれ以上は問い詰めてこなかった。
いかんなー……。最近、こんなやり取りばっかりしてるなー……。気がつくと鬱モードに突入しちゃって、ほかの事考えられなくなっちゃうんだよね。
真白と《女騎士》がこうして一緒にお昼ご飯を食べてくれてるって言うのに、顔をあわせれば《勇者》や《魔王》は声かけてくれるし、《吟遊詩人》だってちょいちょい気にかけてくれてるのはわかる。《魔術師》はあんま顔合わせないけど、周りにあわせてあんなちゃちないじめをしてくるような奴じゃないのはよくわかってる。
前世みたいに、完全にぼっちじゃないってわかってる。
でもねー……ほら、よく言うじゃん。心の傷はついたら1回でもついちゃったら治らない、なーんて。まぁ、そんな感じなんですよ。
今までだってすごい嫌なこともあったし、てかマジで生命の危機を脅かされたりもしてきた。それでもたいていのことは戯言吐いて、笑って済ませてきたのにな……。
なんか、これだけは、うまくいかないや。
■ □ ■
過去にトラウマがあるとはいえ、いつまでもウジウジしていい免罪符にはならない。心の傷があるのは確かでも、世の中そんなのお構いましに回っていくんだ。
受験生ってことで、気合の入った鬼教師達は情けも容赦ない量の課題を突きつけてくるし、体育祭の準備始まって生徒会の仕事もしなくちゃいけない。幸い、《冥王》の動きは最近見られないけど、真白が保健室に近づかないように気をつけておかないといけない。
まぁ、忙しいのは大歓迎なんだけどね。やることがあれば、変に考え込まなくてよくなるし、ほかの事に集中してれば周りの雑踏も気にならなくなる。安請け合いで生徒会なんて入るもんじゃないって散々文句言ってきたけど、今はこの忙しさにありがたみさえ感じる。
忙しいの万歳。社畜になるのはもうごめんだけどね。
遠足から、もうすぐ半月たつ。《暗殺者》がそばにいないことにもだんだん慣れてきたし、地味ないじめは相変わらずだけど、そっちにも最初ほど心を削られるような気分になることはなくなってた。うん、何事も慣れが肝心だよね。
ここ数日は、欝モードに入ることも少なくなってきたし。前世では成人してからもずーっと引きずり続けちゃって吹っ切れるのに時間がかかったけど、さすがに二度目の人生ともなると吹っ切れるのも早くて助かる。
だいたい、世界の滅亡がかかってるのに、ウジウジしてる暇なんてないんだよね。《冥王》である保険医への真白の興味は薄れたわけじゃない。真白の記憶を取り戻すための作戦も続行中なのに、最近はあんまりそのこと考えられてなかった。卒業まであと10ヶ月弱。改めて気合入れて《冥王》の野望阻止に力入いれていかないとね!!
そんな風に、なんとか浮上しつつあった。だらだらといろいろ考えまくって、やっとちょっと大丈夫になってきてた。
……なのに。
「ねー、何で清華ってあんなのと仲いいの?」
「え?」
「平野だよ。あいつ、地味でキモくない?」
なんで、こんな場面遭遇しちゃうんだ。




