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9. 靴箱

2015/12/2 9章6話がまるっと抜けてたり、話の番号がおかしくなってたりしたのを訂正しました。申し訳ありません。





 遠足の日から休日を挟んで最初の登校日。私は真白と一緒にバスで学校に向かっていた。



「奈美、本当に怪我大丈夫なの?」 

「うん。鎮痛剤ももらってるし、一昨日よりは腫れも引いたから」



 登校する間、何度も聞かれた問いにまた笑いながら答える。けど、真白は全然笑ってくれる様子を見せず、始終悲しそうにして私の顔を見ていた。

 まぁ……眼帯までつけて絆創膏だらけの顔見たらそうなっちゃうか。コンシーラーとかも使ってみたんだけど、完全に痣を消すことはできなかった。



 鈴木君たちの思惑通り、私がぼこぼこにされたことで真白が悲しくなるなんて癪だから、できれば阻止したかったんだけどな……。

 


 おまけに、学園の近くになったらたくさんの生徒からちらちらと視線を向けられた。遠足の騒ぎは詳しくは伏せられてるって《吟遊詩人》は言ってたけど……こんな顔してたら遠足の時になんかあったんじゃないかって勘くぐられちゃうよな。

 周りの目はあんまり気にしないように努力しながら、校門をくぐって靴箱へ向かう。



「おはよう、真白君、平野君」

「あ、おはよう」

「おはよう」



 上履きに履き替えたところで出くわしたのは《女騎士》だった。いつもはすがすがしいくらい爽やかに挨拶してくれる《女騎士》なんだけど、私の顔を見た途端、その顔が曇った。



「遠足の時は大変だったね……」



 あー……病室での《吟遊詩人》もだったけどさ、そうあからさまに沈んだ顔されると調子狂うから本当にやめてほしいんだよー。心配してくれてるのはありがたいんだけどね。

 少しでも辛気臭いのがなくなるように、《吟遊詩人》時よろしくヘラりと笑って見せる。


「顔はこんなんだけどさ、こうして登校できてるから大丈夫だよ」

「そうだね。それは何よりだ」


 うん、よかった。いつもみたいに笑ってくれた。おかげでちょっと沈んでた気持ちが浮上する。散々な目にあってただでさえ気が滅入りそうなんだから、無理やりにでも気持ち持ち上げていかないとね。 



「ところで、今日は小夜時雨君と一緒に登校しなかったんだな」



 ……っとー、気持ちを切り替えかけ途端にその質問ですか。いや、わかってたけどね。むしろ朝一であった真白が何も聞いて来なかったことのほうが不思議だっただけで、その質問は至極当然なんですよね。



 さっちゃんと登校し始めてから今日まで、一度だって一緒に登校しなかったことはなかったんだから。



「……うん」


 ひとまず頷くと、その先を促すように真白も私の顔をじっと見てくる。登校してた時に聞いてこなかったのは、気を遣ってくれてたのかもしれないな。

 《暗殺者》が鈴木君たちを病院送りにしたことも、他の生徒には伏せておくことになってる。だから、2人も《暗殺者》が謹慎してるってことは知らない。まぁ、今日一緒じゃなかったのは謹慎とは全然関係ないから、それを説明したって仕方ないんだけどさ。

 だって、そうじゃん?あのさっちゃんが謹慎なんてもの、大人しく受けてるような人じゃないでしょ。たとえ謹慎中でも、こっそり家を抜け出して私の登下校には付き合うって言い張ってたと思うんだよね。



 ……この間までのさっちゃんだったらさ。



「今回のことで、何かあったのかい?」


 《女騎士》に促すように言われて、反射的に遠足での出来事が脳内で反芻される。病院から帰ってからなるべく考えなようにしてんだけど……いやでもあの時のさっちゃんの目が浮かんできて、思い知らずにはいられなかった。



「多分……もう私の近くには寄ってこないと思う」



 あ、れ……。なんかすごい声震えちゃったんですけど。いつか《暗殺者》が私に飽きてひっついてこなくなるなんて展開、前々から予想はしてたことだったのに。それが現実になったってだけなのに……。



 なんで、声出すだけで、こんなに苦しんだろう。



「どういうこと?」

「前から言ってた通り、さっちゃんは気まぐれで私の傍にいたんだけど、それを終わりにしたってこと」

「……平野君に飽きた、ということか?」

「んー、飽きたというよりは、呆れられちゃった、かな。今まで何度もこんな状況になりかねなかったところを助けてもらってたのに、またやらかしちゃって、この様だしさ。いい加減付き合いきれないって思われたんだと思う」

「そんな……」

「担任から聞いたんだけど、会いに来るなって言われてるし」

「……」


 

 悲しそうに視線を下げる真白。《女騎士》も言葉が何も見つからないのか、黙ったままこちらを見るばかりだ。

 2人とも、さっちゃんが私に飽きるなんてありえない、みたいな感じでよく言ってたから、驚いてるんだろうな。まぁ、けどこれは事実だ。




 気を失う前に向けられた冷たいあの目は、間違いなく失望してた。


 期待外れだったって、突き放すような、そんな感じだった。




 いつかそんな風になるんだろうなとは思ってたんだけどさ……まさか、さっちゃんからあんな風に見られるのを、こんなにきついと感じるなんて……そこは予想外すぎだわ。

 けど、起こっちゃったもんはどうしようもない。


「もともと向こうの気まぐれで傍にいてくれたわけだし、仕方ないよ」

「平野君……」


 すごく心配そうな顔でこちらを見てくる真白と《女騎士》。少しでも安心してくれればいいと思って、またヘラりと笑って見せる。でも、それも限界だった。

 ただでさえぼこぼこにされた顔が痛いのに、無理やり笑ったせいで余計に傷が痛んで、なんか本当に泣きそうになってきちゃったじゃんか。

 もうこれ以上この話をするのは無理だ。2人はまだ何か言いたそうにしてたけど、強引に話を遮って、教室に向かうことにした。

 きっと2人は、何かの間違いだとか、ちゃんと話してみたほうがいいとか、言ってくれるつもりだったんだろうけど……間違いじゃないし、話してみる余地もないんだよね。



 会いに来るなって伝言が、何よりもの裏付けだ。



 顔も見たくないと、思われてるのかもしれない。そういえば、初めてまともに話した時に「憎さ余ってかわいさ百倍」みたいなこと言ってたけど、またその逆転現象が起きたのかもしれないな。

 あの日から妙に気に入られて、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になってたっけ……。というか、そもそもおかしな話だったんだ。前世で壮絶な人生を送った《暗殺者》が退屈すぎるからって、私なんか平々凡々の人間に引っ付いて、気まぐれで世話を焼いてくれてたなんて異常のさただった。



 それが、今、正常に戻ったんだ。



 1年の頃の感覚を思い出せば、きっとすぐにこの状況にもなれるはず。真白と《女騎士》がしばらく心配してくれそうな気がするけど、それはなるべくスルーする感じで行こう。

 あ……てか、1年の頃にくらべたら《冥王》が降臨しちゃってるっていう大きな違いがあるけど……こればっかりは自分で気を付けるしかないよな……。気を付けてたつもりで今まで散々痛い目みてるくせに、って感じだけど……他に方法ないもんなー。


 まぁ、前みたいに《冥王》が生徒を操ってっていうようなことはなくなってるみたいだし。鈴木君にいらんこと吹き込んだのは《冥王》か《王子》だろうから予断はならないけど……遠足での騒ぎでさすがに先生たちもピリピリしてるから、派手に喧嘩を売ってくるような奴らはしばらく現れないだろう。

 受験生ってことで行事ごととかも少ないし。しっかり気を付けてれば今度こそ大丈夫なはず。……はず。あー……自信ないけど、なんとか学校これなくなるような事態だけは避けられるように頑張ろう、うん。

 まずは、あれだよね。不穏な動きに気付けるように、日頃から周りの様子に気を配ることからはじめ――――――






「キモイ」






 ……え?なんか今、すれ違いざまに前世から聞きなれた単語がささやかれた気がしたんだけど……聞き間違い?

 後ろを振り返ってみると、さっき横を通り過ぎた女子の集団がこちらをチラ見しながらくすくすと笑い声を上げている。さらに何か顔を寄せ合って小声で何やら言っている様子。そんな光景には見覚えがあった。だからわかった。



 さっきの、聞き間違いじゃないな。



「どうしたの?奈美?」

「う、ううん……なんでもない」



 突然足を止めたから、真白と《女騎士》は訝しげにこっちを見ていた。適当に誤魔化して《女騎士》と別れて真白と教室に入る。

 席に着くのと同時に、いつもと違う視線を感じた……ような気がした。そりゃ、こんな絆創膏だらけの顔してるからみ見られて当たり前なのかもしれないけどさ、はっきりとは聞き取れない囁き声が妙に耳につく。




 じんわりと、背中を這い上がる嫌な感じ。



 デジャブだ……それも、かなり最悪なやつ。



 あー……お願いだから、ただの気のせいでありますように。




長らく休憩してましたが一週間くらい連投できるかも。当初の予定通り、ともかく完結を目指す。

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