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8. 病室

2015/12/2 6話がごっそりと抜け落ちてたので割り込み投稿しました。申し訳ありません。




「…………れ?」



 えっとー…………。ここ、どこだ?今まで寝てたみたいで目が覚めたとこだと思うんだけど……見えてるのが自分の部屋の天井じゃない。すごい寝方しちゃってたのか、首が痛くてあんま頭動かせないんだけど……どこだ、ここ?

 寝相が悪すぎて他人の家まで移動しちゃった……なんてことはさすがにないか、うん。



「平野!よかった、目が覚めたんだな」

「……先生?」



 声がしたと思って右のほうに視線を移動させたけど、そこに《吟遊詩人》の顔は入ってこなかった。よく見たら、なんか視界が異様に狭い。手で触って、やっと右目のところに眼帯が付けられるのに気が付いた。そりゃ視界が狭いはずだ。


「えっとー……、ここどこですか?」

「病院だ。お前、顔をぼこぼこにされて倒れてたところを運ばれたの、覚えてないのか?」

「あー……あーーーー、そういえば、そんな感じだったかも。あ、思い出した途端顔が痛くなってきたっ……」


 ぬぐぐぐぐ……めちゃ痛い……。特に右頬が痛い気がする。

 あー……おかげでヤなこと思い出してきた。鈴木君に騙されてのこのこついていっちゃって、《勇者》の裏ファンクラブの男たちに囲まれてそれから……。




 それから、マジで容赦なくぼこぼこにされたんだった。




 いやー……人に殴られるのってこんな痛いもんなのね。初体験でしたよ。痛すぎて思わず笑っちゃうくらいだったよ。



「幸い、縫うような傷はなかったそうだ。気を失ったのも脳震盪だろうって」



 脳みそ思いっきぐらつくぐらい殴られたからな。後半のほうとかほとんど覚えてないし……。てか、寝違えたのかと思ってた首の痛みは殴られた時のか。むち打ちみたいになってるのかもな。


「殴られた以外はひどいことはされてないって、診断してくれた女医が言ってたぞ」

「あー……でしょうねぇ」


 女の子を集団リンチなんて、大抵性的暴行もセットでついてくるところなんだろうけど今回はレアケースですからね。ホモ集団にリンチされたとか、ネタみたいな話だ。

 おかげで容赦なんてものはかけらもなくて、痛すぎて強姦されたほうがマシかも、とか途中で思っちゃったのは口が裂けてもさっちゃんには言えないな。




 ……あれ、てか……気を失う前に、さっちゃんの声を聞いたような気がするけど……


 結局、どうなったんだっけ……?




「あの……」

「ん?」

「殴られた後のことあんま覚えてないんですけど……私、またさっちゃんに助けられた感じですか?」

「……」



 え?な、何……その反応……。さっちゃんが助けてくれたと思ってたのに、違うの?「そうだぞー」って感じいつものごとく軽い調子で肯定されてちゃちゃ入れてくると踏んでたのに……。思いっ切り眉間にしわを寄せる《吟遊詩人》に困惑する。なんで、そんな怖い顔するの?



「小夜時雨は、自宅で謹慎中だ」

「え?」



「お前を襲った男子達全員病院送りにしたからな」



 ま、まじか……。私自身こうして病院送りにはなってるんだけども、《吟遊詩人》の口ぶりからして、私とは比べ物にならない重症っぽいな。

 今まで何回か《暗殺者》が戦ってるところ見たことあるけど、相手にそこまでの傷を負わせるようなことなかったのに……。アサシンモードの時の殺気はまじでやばいけど、さすがに本当にやっちゃうようなことは……。




『ぶち殺す』




 っ……!!な、なんか……悪寒が……。あ、けどちょっと気絶する前のこと思い出してきたっぽい。

 えっと……今思い出したのは、さっちゃんの声だった……?あれ、でも、なんで手にナイフなんか持って……。

 


「ただの殴り合いならまだよかったんだが……刃物まで持ち出されちゃ、さすがにお咎めなしってわけにはいかないしな」



「え?刃物?」

「小夜時雨の話では、鈴木って男子が持ってたのを奪ったって話だったんだが」

「……あ」


 そういえば、意識がもうろうとしてる時にそんなものを突き付けられたような……。ついでに気絶するんじゃねぇぞ的なこと言われた気がする……。

 あの時は確かに鈴木君が刃物持ってたけど、多分それをさっちゃんが奪ったんだろうな。


 

 あぁ……そういえば、さっちゃんが鈴木君にむかって刃物を振り下ろそうとしたとき、とっさに声を上げたような気がする。



 そうだ。痛いのと頭くらくらなのではっきり認識できてなかったけど……でも、なんかすごいやばいと思って、とっさに声を上げたんだ。



 それで、その声に反応したさっちゃんと目が合って……。



「……」

「平野?どうした?」

「あ、いや……。ちょっとあの時のこと思い出してきちゃって……」

「……」


 あ、まずい。手が震えてるの《吟遊詩人》に見られた。できれば気づかれたくなかったのに……。



「怖かったに決まってるよな」



「え……」


 ……あり?なんか、私、《吟遊詩人》になでなでされてる?今まで見たこともないほど真剣な顔してこっち見ているし……。これは本当に私の知ってる《吟遊詩人》??


「お前を助けられなかったのは担任の俺の責任でもある。登山の時もそうだったけど……いつも助けてやれなくて、すまない」

「や、そんな真面目に謝られると調子が狂うんで……やめてください」

「そうはいっても……」

「今回も私が油断してのこのこ敵さんについて行っちゃった結果ですし、さっきのは思い出し震え?ってやつで……そのうち収まりますから」


 わざとおちゃらけめで言ったら、やっと《吟遊詩人》も笑ってくれた。ただでさえ気が滅入ってるのに、あんな雰囲気たまったもんじゃないからね。



 それに……震えるくらい怖いと思ったのが、さっちゃんの顔思い出したからなんて、絶対に知られたくないし。



「あの……」

「ん?」

「さっちゃん、何か言ってましたか?」

「……あぁ」



「お前に会いに来るなって伝えとけ、って」



 ……そっか。やっぱりか。


 やっぱり、あの時見たのは見間違いじゃなかったか……。



「何があったのか知らないけどな、あの時のあいつは明らかにおかしかった。それこそ前世の時と同じ、現役みたいなおっかない目つきだったな」


 きっと、フォローするつもりだったんだと思う。だけど、《吟遊詩人》が言ってることが全部気休めだって、わかってた。


「あいつも多少は錯乱してたんだろう。だからしばらく経てばまた―――――」

「多分、そういうことじゃないんです」

「え?」




 《吟遊詩人》と話してる間に大体、思い出せた。


 気絶する前、確かにさっちゃんがあの場にいた。


 



 いつもと違うさっちゃんを、私は心の底から怖いと思って、叫び声をあげたんだ。





 その声に気付いてこっちを向いたさっちゃんは……。


 見たこともないくらい鋭くて冷たくて、失望した目をしていた。




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