5. 新入生歓迎遠足①
9章に入ってから誤字脱字がいつも以上に大量発生しておりました。すみません。
やってきました。春の恒例行事、新入生歓迎遠足。去年一昨年と全くこれぽっちもいい思い出の無いこの行事。今年は一体どうなることやら……。まさかとは思うけど、この行事自体が不吉フラグ化してるなんてことないことを願うばかりだ。
生徒会メンバーはいつものごとく朝早めに出勤。朝早いっていうのに《暗殺者》はいつもどおり私の家のとこまで迎えに来て、一緒に公園に来てくれた。それはものすごくありがたいんだけどね……。
「さっちゃん、さすがに集会のときはちゃんとクラスの列にいてね」
「……わかったよ」
渋り顔で返事をしたあたり、こっちから言わなかったら普通に後ろに立ってつもりだったな、この人。さすがにさっちゃんが後ろに立った状態で全校生徒の前に出るとかいやだ。新入生たちに何じゃありゃって注目浴びるのは請け合いだし……。せっかく何も知らない1年たちに余計なことを教えなくてもいいよね、うん。
全体集会はあっと間に終わった。さすがに3回目ともなれば全校生徒の前の挨拶くらいなんてことなくなっていた。今年は《勇者》も生徒会長として始終忙しそうにしてたから戯言を言い合ってる暇もなかった。
結局今年も生徒の顔がジャガイモに見えることはなかったと伝えてやろうと思ってたんだけど……。まぁ、所詮モブキャラポジションの私には及びようのない技だってことだ。
んでもって、集会が終わって全体のレクレーションが終わって、そしてお昼の時間。生徒会メンバーは毎年のごとく固まってお昼を取ってから、そのまま見回りの仕事に入る。
「あのー、平尾先輩……」
そして今年もまた私の名前をいまだに覚えない後輩君こと鈴木君と見回りペアになりました。Nだけ足りないニアピンさは相変わらず。訂正するのは遠の昔に諦めてるけどね。
そんな鈴木君がものすごく言いにくそうに私に話しかけてくる。顔色がさえないけど、おなかでも痛いのかな?
「小夜時雨も一緒なんですか……?」
あぁ、なるほど。えらく私の後ろのほうをちらちらと見てるなーと思ったら、そういうことね。考えてみればそりゃそうだわな。学校一遠巻きにされてるさっちゃんが一緒に見回るなんて、ごくごく一般的な生徒である鈴木君にはとんでもないことだよな。
「……文句あんのかよ?」
「や、ないけど……」
ガンを飛ばして即行鈴木君を黙らせる《暗殺者》。マジで怯えてるからやめてあげなよ。かたぎの人間にその睨み攻撃はほんといかんから。
「まさか、本当に丸め込むなんて、平尾先輩ってマジでただものじゃなかったんですね!」
「丸め込んだわけではないんだけど……」
「あれですか?ポリシーは、狙った獲物は逃がさない!ですか!?」
違う。歩きながらこそこそ言ってくる君も相変わらずだな。全部《暗殺者》には筒抜けだってことは黙っておいてやろう。
こんな感じで《暗殺者》と鈴木君とのやり取りがあったくらいで、見回りは何事もなく終わった。持ち場で特になにも問題が思ってないことを確認して、生徒会本部がおいてある広場の中心に戻る。
見回りが後輩2人を引き連れたタダの散歩と化してくれたのは非常に喜ばしいことだ。去年も一昨年もひどい目にあったのは見回り中だったからな。
今年はこのまま何事もなく遠足が終わってくれるのかもしれない。
「お、平野。見回りお疲れ」
こっちに気づいた《勇者》が声をかけてくる。相変わらずいちいち爽やかな奴だよ。去年の体育祭で、真白と《魔王》のいい雰囲気を目撃しちゃった後の駄々っ子みたいだったのは幻だたんじゃにかと思えるほどだよ。
ま、どっちかというとこっちが本来の姿だと思うけどね。自分たちが言われたわけでもないのに、周りの生徒会女子メンバーがなんかうっとりなってる。その人気も不動だな。生徒会長になってからは更にうなぎのぼりか?
「お疲れ様です、勇気先輩!」
「ははは、鈴木はいつも元気だな」
お、なんか鈴木君突然元気になったな。そういえば、やたらと《勇者》になついてる感じだったっけ?目をキラキラ輝かせちゃって、子犬みたいだな。あれか、同じ男として憧れます、先輩!みたいな感じか。
ってー、鈴木君に気をとられてる場合じゃなかった。ちゃんと見回りの報告しないとね。
「こっちは特に問題なかったよ」
「そうか。あとは真白と馬場が戻ってくるのを待ってれば……」
「た、大変だーーー!」
ぬ?なんだなんだ?何人か男子が血相変えてこちらに駆け寄ってくる。あれは、2年か(ジャージの色が学年によって違う)。表情からしてなんかものっすごく慌ててるみたいだけど。
てか、やっぱ、平穏なままこの遠足が終わってくれることなんかないのね……。最後の年くらい穏やかな気持ちでおうちに帰りたかったんだけど、それは無理みたいだ。
「あっちで1年たちが喧嘩をおっぱじめたぞ!」
「はぁ?原因はなんなんだ?」
かなり必死にここまで走ってきたのか、息を上げながも駆け寄ってきたうちの1人が声を上げた。《勇者》はあきれ返ったように眉を寄せる。
「どうもクラス同士のレクレーションの場所とりが原因で……」
マジかよ。この公園、リンチされそうになっても気づかれいくらいくそ広い公園なんですけどね。どんなレクレーションしようとしてたのか知らんが、どっちか譲って他に移動すればよかったでしょうよ。
突然もたらされた乱闘の情報に生徒会のメンバーたちは浮き足立つ。そんな中、私の横で《暗殺者》はおかしそうに笑った。
「今年の1年はやんちゃみたいだな」
「さっちゃんが言うと、面白くきこえるけど」
やんちゃナンバー1の君が言っちゃうと、乱闘もかわいらしいものに聞こえちゃうから不思議だよねー。横から思いっきり睨まれたけど、それはスルーして《勇者》の指示を待つことにする。
「仕方が無い……。男子全員で止めに行くぞ。女子はここで待機しててくれ」
女子はほっとして、数人の男子は顔を引きつらせた。うちの生徒会の男子たちってどっちかというと文科系だもんね。乱闘なんて冗談じゃないって感じだろうな。
まぁ、《勇者》が1人で何とかするとは思うけどさ、クラス規模での喧嘩らしいからさすがにてこずるかもね。
なんて思ってたら、《勇者》が《暗殺者》のほうに視線を移した。
「小夜時雨、お前も手伝え」
「は?何で俺が?」
これでもかっていうほど顔を歪める《暗殺者》。心底面倒くさいって思ってるのがすごく伝わってくる顔だよ。こういう顔は本当に可愛げがないよねー。
「人数が多いからな、お前がいたほうが早く抑えられる」
「俺は生徒会じゃねぇし」
まぁ、そりゃそうなんだけどさ、喧嘩絡みなんて思いっきり得意分野じゃんねぇ?早いこと乱闘を鎮めるのに越したことはないだろうし。ってことで、援護射撃でもしてみることにした。
「手伝ってあげなよ。さっちゃんならあっという間にとめられるでしょ」
「けど……」
あ、もしかして私のこと置いていくの心配してくれてんのかな?さすがにここでみんなと待ってたら襲われるなんてことないから、そんなに心配しなくていいのに。
「大丈夫、私はここで待ってるからさ」
「……」
乱闘に近づいたら近づいたでどさくさに紛れて《冥王》に操られてる奴に狙われかねないから、ここで待ってるって言うのが一番良い選択だよね。
そう言っても《暗殺者》はまだ渋るような顔をしていた。どんだけ心配性なんだよ。まぁ……今の今まで散々危ない状況に陥ってきた私ですからね、そうなるのも無理はないのかもしれないけど。
「……わかったよ。絶対ここを動くなよ」
「うん。いってらっしゃい」
眉間にしわを寄せまくって、やっと《暗殺者》は了承した。そうと決まればさっさと行くぞ、と《勇者》を置いてさっさと現場へ向かおうとする。
《暗殺者》も加わったことで、生徒会の男子たちはちょっとほっとしたみたいだ。喧嘩なんてしなくて良いならしたくないもんね。
あ、てか大事なこと伝え忘れてた。
「さっちゃん!」
「ん?」
「しっかり手加減するんだよー!!!」
《暗殺者》はちょっと期待はずれだ、みたいな表情をしてため息をつく。そんな《暗殺者》をなぜか横にいた《勇者》が励ますようにぽんぽんと肩を叩いていた。
私、なんか変なこと言ったかな?普通の高校生たち相手に、さっちゃんが本気とかまずすぎると思って釘刺したんだけど……。
気を取り直したようにこっちを向いた《暗殺者》はひらひらと手を振って、《勇者》と喧嘩勃発の現場へと向かっていった。




