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3. 春休み:水族館③/《魔術師》の家




 真白の体調が落ち着くまで、近くのベンチに座って休むことになった。ベンチまで歩くだけでもフラフラだったけど、今は少し顔色がよくなった気がする。


「落ち着いた?」

「うん、ありがとう。そういえば、小夜時雨君は?」

「飲み物買いに行ってくれた」

「そっか……」


 体調は良くなさそうだけど、なんとなく真白の顔は穏やかだ。文化祭のときみたいに落ち込んでないことにちょっとほっとする。


「奈美」

「ん?」



「私、前世のことちょっと思い出せそうかも」



 顔をあげてにっこりと笑う。落ち込んでないどころか、すごく前向きな真白に驚かされる。


「まだあきらめないでがんばってみるね」

「真白……」


 ふらついちゃうくらい頭が痛くなるはずなのに、こんな風に笑えるなんて……。真白はスーパーかわいくてやさしいけど、それだけじゃなくてめちゃくちゃ頑張り屋さんなんだよね。そんながんばってる姿にみんな惹かれていくんだと思う。



 いつもひたすらかわいい真白だけど、今日はかっこよくも見えちゃうなんて、さすが真白だ。



「真白なら、すぐに全部思い出せるよ」

「ありがとう、奈美」


 正直、真白の体のことが心配でこの作戦あんまり乗り気じゃなかったんだけど、記憶を思い出して真白がこんなに喜んでくれるなら、私もがんばれるかも。

 よし!さっちゃんには脅されたけど、後二ヶ所くらい張ったりかましてでも2人で出かけてもらうんだから!!




「やぁ、こんにちは」



 うげぇぇぇ!!!こ、この声は!!!




 ぞわりと走った悪寒に反射的に声のほうを向く。そこに立っていたのは案の定、《王子》だった。




「御堂先輩!」

「病院で会って以来だね」



 《王子》の登場に真白もちょっとびっくりしたみたいだ。てか、《王子》と会うのは例のあの日以来。以前と変わらないキラキラエフェクトを撒き散らした笑顔を浮かべてるんだけど、そのすべてが薄ら寒く見えて仕方なかった。



 自然と脳裏に、手を赤く染めた《王子》の姿がよみがえってくる。



 ……いかん。ただでさえ苦手だったっていうのに、あんなの見ちゃったから更に怖さが増しちゃったよ。これはAnother Dimensionとか関係なく、真白との会話を邪魔しにいく気にもならない……。

 向こうもこっちがびびりまくってるのがわかってるのか、私には見向きもせずに真白に笑いかけ続ける。


「お見舞いに来てくださってありがとうございました。何もご連絡できなくてすみません」

「真白さんが元気になったならいいんだよ。それより、こんなところに座ってどうしたんだい?」

「あの……ちょっと疲れちゃって休憩を取ってたんです」

「そうだったのか。文化祭のときも体調が悪そうだったし、あまりがんばり過ぎないようにね」

「お気遣いありがとうございます」


 こいつ……文化祭の時のごとく、釘を指しに来たのか。真白の体調を気遣う振りして、腹の中では世界滅亡に加担してるなんて。最初から思ってたけど、本当の本当に腹の中腐りきってて真っ黒なんだな。



「君も、友達なら無理をさせるべきじゃないよ」



 真白との話が終わると、そういい捨てた《王子》はさっさと離れていった。わざわざ邪魔しに来たくせにお早い退散で。あ、もしかしたら《暗殺者》と鉢合わせるのを避けたのかな?あの《王子》にまで敬遠されちゃうなんて、すごいな《暗殺者》。



 それにしても、今回は邪魔される前に真白の記憶を刺激することができたけど……もしかして毎回邪魔しに来る気、なんてことないよな?

 そうなったらすっごい厄介なんだけど……これは一回《魔術師》たちに報告したほうがいいかもしれないな。




 ■ □ ■




 3日後、真白、《勇者》、《魔王》を除くメンバーで《魔術師》の家に集合した。目的は水族館に《王子》が妨害に現れた件をみんなに報告するためだ。



 ……だったんだけど。



「え?先生のところにも《王子》現れたんですか?」

「あぁ。俺のときは思いっきり邪魔して帰ってくれたよ」


 大きめのため息を付いたのは《吟遊詩人》だ。どうやら教師が特定の生徒と一緒に出かけるのはいかがなもんか、といちゃもんをつけられたらしい。

 相手が理事長の血縁者だけに、ちくられたら教師としての立場が危なくなる《吟遊詩人》はなんとかその場を誤魔化して、真白とはすぐに別れたらしい。



 しかも、《王子》が現れたのは《吟遊詩人》のところだけじゃなかった。



「僕のところにも来たね」

「私のところにもだ」

「昇の時にも現れたって言ってたな」



 《魔術師》、《女騎士》、《暗殺者》が次々という。ってことは、たぶん《勇者》のところにも邪魔しに行ってるんだろう。後で確認してみるか。



「これだけピンポイントで邪魔しに来るってことは、十中八九《冥王》の差し金だよね」



 ことごとく真白の記憶を取り戻すことを目的に訪れた場所に邪魔しにしてるってことは、真白が記憶を取り戻すきっかけになる場所を《王子》が把握してるってことだ。

 《王子》にそんな知識があるとは思えないから、たぶん【今キミ】のことを知ってる《冥王》がいろいろと吹き込んでるんだろう。

 


 他のキャラのイベントもちゃんと把握してるなんて……やっぱり奴は【今キミ】をやりこんでんな。



 そうなってくると、やっぱり不思議なことがある。【今キミ】を《冥王》が熟知してるなら、わざわざ《王子》に妨害工作をやらせてる意味がわらからない。


「何で《冥王》自身が邪魔しにこないんだろう?」

「言われてみれば、そうだな」

「お見舞いのときも《王子》を代理によこしてたんだよね。本人はそんな小細工必要ないからって言ってたんだけど……」



「降臨したとは言っても、《冥王》が封印されてることには変わりない。もしかしたら、行動範囲にかなり制限があるのかもね」



 《魔術師》が腕組をしながら言った。確かに、行動に制限があるとすればいろいろと辻褄が合うかも。

 私と真白が《冥王》降臨の前に襲われてたのも一定の場所だ。ばらつきもあるし、登山のときのこととかどう考えればいいかわからないけど、街中とかで襲われたことはないんだよね。


「だとしたらこちらにはいい情報だ」


 《女騎士》が弾んだ声で言う。確かに、あっちの動きの範囲が把握できればこっちとしてはかなり有利になる。その辺の調査は《魔術師》が進めるということで話が付いた。



「まぁ、どちらにしろ、《王子》には警戒しないとけいないけどな」



 《暗殺者》の言葉に、全員が大きく頷く。



 ここに来て、《王子》が敵っていうのがかなり痛くなってきた。もっと早くあの人が《冥王》の手先だってわかってたら……。

 って、済んだことを悔やんでも仕方ないか。《王子》の目を欺きつつ、作戦がうまく行くように考えていかないとね。




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