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2. 春休み:水族館②




 どうにかこうにか《暗殺者》を説得して水族館への入場に成功。入るだけでこんな労力使うなんて……水族館初の体験だわ。

 てか、水族館に3人で入ったはいいけど、こんな調子でちゃんと真白の記憶を刺激する会話をしてくれるのかなー……。《暗殺者》から話を振ってくれないと、イベントは起こんないんだけど。


「奈美、何でそんな後ろ歩いてるの?」

「え!?あ、えっとー……わ、私結構魚好きでさ!ゆっくり見たいから」


 考え事をしながら歩いてたら真白が不思議そうに後ろを振り返ってくる。慌てて誤魔化したけど真白は訝しげな表情で首をかしげた。

 2人との距離約1メートル。明らかに不自然な距離だってさすがにばれちゃいますよね。考え事してて魚眺めるどころじゃなかったし。

 でもね、今回は2人っきりでイベントを発生させてもらわないと困るから、私はただのお邪魔虫なわけなんですよ。なのでこの距離感で歩いてるわけなんだけども……。



「……」



 離れて歩いてる理由が筒抜けな《暗殺者》が渾身の鋭さでこっちを睨みつけてくる。途轍もなく怒ってますね。

 入る前に散々説明したし、《暗殺者》だって私の行動の意味をちゃんとわかってくれてるはずなのに……何であんなに怒ってるのかね。さっきから真白と一言も会話を交わそうとしないし……。

 こんな調子じゃイベント発生しないままお開きになっちゃうよ!そうなったら私が《魔術師》にお仕置きを受けるんだよ!


 

 てか、それ以前に、イベント発生して真白の記憶が戻らないと世界滅亡しちゃうかもしれないんだよ!!



 もおぉぉぉ!こうなったら捨て身だ!!そもそも女らしさなんて前世から持ち合わせてない!恥じらい?大和撫子?んなもん知るかあぁ!!!



「あ、わ、私ちょっとトイレ!!ちょっと長くなると思うから、ここで水槽眺めて!!」



 言い捨ててダッシュ。《暗殺者》に止められたらせっかくの機会を逃してしまうからね。後ろから真白が呼び止めるような声が聞こえた気がするけど、今回ばかりは聞こえなかったことにして一直線にトイレに向かった。



 ……と見せかけて、途中でUターンして真白たちの様子が伺える場所に移動する。



 《暗殺者》はかなり鋭いから、ある程度距離とっとかないと覗き見してるのがばれちゃうからね。水族館の中が暗くて助かったよ。

 柱に隠れて水槽のほうを伺う私は傍からものすごく怪しいであろう。しかし、今はそんなことを気にしてしまっては負けなんだ。耳ダンボで真白と《暗殺者》の会話に集中だ!

 てか、……集中はいいんだけど、その前に会話始まるのかしら。《暗殺者》はそっぽ向いてて会話始める気皆無だし……。あの人、本当に世界滅亡を阻む気あんのかなー。世界滅亡イコールみんな死んじゃうってことなんだけど、そこんとこわかってないのかな?



「バレンタイン、奈美からチョコもらえた?」



 なんて、心配してたら真白が話題を振ってくれたー!!!ありがとう、真白!話題がバレンタインなのがあれだけど、ともかく会話が始まったことを喜ぼう!しっかり会話するんだぞ、《暗殺者》!!



「……ああ」

「そっか。よかったね」

「どうせ、あんたが買うように言ったんだろ」



 あれ?さっちゃん、あれが真白の慈悲によって私に買われたものだってわかってたのか?それにしては《魔王》に電話しそうになるくらい喜んでたけど……。

 まぁ、喜んでもらえたならそれに越したことは無かったんだけどさ。それを知られたら怒られるかなーとか思ってたんだけど……ただチョコが好きなだけとか?



「すすめはしたけど、奈美が自分の意思で買ったものだと思うよ」

「……」



 おいおい、真白が満面の笑みでフォローしてくれたって言うのに、無言返しかい!なんて奴だ。

 てか……せっかく真白が振ってくれたのに、会話が途切れちゃったじゃんか!なんで何も答えないんだよ、《暗殺者》!自分から話題振るならまだしも、その気が無いならせめて会話をつなげよ!!



「小夜時雨君は何でそんなに奈美のことが好きなの?」



 真白!!あんな無愛想でやな感じのさっちゃんに更に話題を振ってくれなんて!さすがガチ《聖女》!真白の背中にご光臨が見えるよ!

 ……なんか、話題がまたあれな気がするけど、もうこの際そんなこと気にしない!

 さぁ、さっちゃん!真白がくれたチャンスだ!!ちゃーんと会話をつなげて、イベント発生へともって―――――




「あんたに関係ないだろ」



 さっちゃーーーん!!!お願いだから会話を続けてーーー!!!




 もうっ……。さすがの真白も黙り込んじゃったじゃんかぁ……っ!さっちゃんのあほぉ!!近くにいたらすぐさまどついてやるところだよ!!

 はぁ……このままにしてても、イベントが起こる望みは薄そうだな。ひとまず2人のところに戻って、またどうにかして2人きりに―――――



「あんたこそ……」

「え?」



「あんたこそ、なんであんなに奈美と仲いいんだよ?」



 え……嘘……。《暗殺者》から話題振った……?夢じゃない!?いや、真白もめちゃくちゃ驚いた顔してるから夢じゃない!!!

 よかったー……やっぱ世界滅亡がかかってるんだもんな。なんだかんだ言いながらやるしかないってさっちゃんもわかってるんだよな、うん。

 ってか、相変わらず話題が私っていうのがなんか聞き辛い気もするけど……ちゃんとイベント発生したか確認しないといけないからな。



「うーん……安心感があるから、かなぁ?」

「安心感?」

「中学のとき始めてクラスが一緒になったときにね、変な話しちゃったんだけど、奈美は1つも笑わず真剣に私の話を聞いてくれたんだ」

「……」

「その後もね、どんな話をしても奈美は全部真剣に聞いてくれた。たまに冗談でも真剣に取られちゃうのは面白いけどね」



 ……全然身に覚えが無いんだが。え?真白の冗談?どれ、どれだったの!!?すごく気になるじゃんかぁ!後で真白に聞こうにも、そんなことしたらここで盗み聞きしてたのがばれちゃうし……。



「奈美なら、何でも受け入れてくれそうだなって思うの。だから一緒にいて居心地いいんだよね」

「……」



 ってー……関係ないこと気にしてる間にまた会話が途切れちゃったし!あ、でも今度は会話終了って感じじゃないかも。何かを考え込むみたいに、《暗殺者》は下を向いてる。ちょっと眉間にしわが寄ってるけど、何考えてんだ?



「あんたの……」

「え?」

「あんたのおかげ、なんだよな……奈美があの学園に来たのって」

「小夜時雨君?」



 ちょっ、さっちゃん!声が小さくてここまで聞こえませんよー!隣の真白さえちゃんと聞き取れなかったのか、不思議そうに首をかしげてる。頼むから声は張ってくれ!

 そんな願いが通じたのか、《暗殺者》は顔を上げて真白のほうを向く。その表情は今まで真白に向けたどの表情よりもやわらかいものに見えた。



「癪だけど、俺が今楽しいって思えるのはあんたのおかげだ」

「えっ……」




「ありがとう」




 ……さっちゃんが、真白にあんなに素直にお礼を言うなんて。ちょっと意外だ。真白もすごく驚いてるのか目をまん丸にして沈黙しちゃってるし。

 あ、てか……これってもしかしてイベントだったのかな?【今キミ】の内容とは全然違うんだけど、こっちの世界では昔《暗殺者》が《聖女》にお礼を言ったことがあるらしい。それは【人族】の《魔王》への誤解をといてくれたことに対してのお礼だったって話だったけど……。

 会話の入りも内容も全然違ってたけど、これで真白の記憶が刺激されるのかな?



「あ、れ……?」



 真白がふらりと後ろに一歩下がりながら頭を抑える。戸惑ったような表情で《暗殺者》をまっすぐと見る。



「私、前にも小夜時雨君に、こんな風にお礼言われた気が、する……」



 やった!ちゃんと、真白の前世の記憶を呼び起こすことができたんだ!!

 なんて喜んだのもつかの間、真白の体がそのまま後ろに大きくぐらりと揺れた。



「っ!!」

「真白!!!」



 思わず柱の影から飛び出す。倒れこむ前に《暗殺者》が手を引いてくれたから、真白はその場座り込むだけで済んだ。顔を覗き込むと、明らかに顔色が悪くなってるのが伺えた。

 やっぱり、文化祭の時と同じだ。前世の記憶を思い出そうとすると、真白は体調が悪くなるんだ。


「奈美……」

「大丈夫!?」

「うん……また、ちょっと頭が痛くなって……。でも……」



 そこで言葉を切った真白はゆっくりと顔を上げる。立ったまま真白の様子を伺っていた《暗殺者》の顔を見ようとしてるみたいだ。

 水槽からもれる逆行であんまり表情は良く見えないけど、《暗殺者》もじっと真白のほうを見てるみたい。沈黙したまま2人は見詰め合う。



「……」

「……そっか」



 しばらくすると、真白はポツリとつぶやくように言って、そして……。




「笑ってくれてて、よかった」




 まぶしそうに優しい笑顔を浮かべた。それに釣られるようにして、《暗殺者》の口元が緩むのが伺える。



 過去にどんな会話をしたかって言うのは正確には知らないし、さっきも聞き取れないところはあった。だから2人が何でこんな顔してるのかはわからない。

 だけど、2人が過去の記憶を共有してるんだなって言うのはなんとなく感じ取れる。




 真白の体調は心配だけど、2人のこんな顔が見れるなら無駄じゃなかったかも。



 世界滅亡のことなんかそっちのけで、そんなことを思った。




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