1. 春休み:水族館①
とうとう3年目突入。
春休みになりました。
「なぁ、奈美」
「なんでしょう、さっちゃん」
ただいま、水族館の前で《暗殺者》と睨めっこ中。普段の私なら即逃げしちゃうところですが、今日はそういうわけにはいかないのです。
不機嫌MAXの《暗殺者》は、ちょっと離れたところに立つ真白を指しながら尋ねる。
「何で《聖女》がここにいるんだよ?」
「もちろん、私が誘ったからだよ」
ピシリと、《暗殺者》の額に浮かび上がる青筋。ギラリと鋭く光る《暗殺者》の瞳。
「俺、ホワイトデーにと思って、奈美をデートに誘ったんだけどなぁ?」
ひええぇぇぇぇ!!即行でアサシンモードONですか!!?予想はしてたけどさ、言い訳くらい聞いてくれてもいいじゃんかーーー!!!
「ご、ごめんって!だけど、こうでもしないとさっちゃん、真白と一緒に出かけてくれでしょ!?」
「当たり前だ。何で俺が《聖女》と2人出かけないといけないんだよ。俺は奈美とデートしたいんだ」
したいんだ、じゃないよ!この人、春休みが始まる前に《魔術師》たちと話し合ったときにも一緒にいたって言うのに、なんで状況わかってないの!?
「や、だからね……真白に記憶を取り戻してもらうためには、前世での出来事と関係した場所に出かけてもらうのが一番だって話を《魔術師》たちと……」
「……もしかして、だから水族館を選んだのか?」
「えぇぇぇっとー…………うん」
「……」
ひいぃぃぃぃいい!!!正直に頷いたら、超怒らせちゃったーーーー!!!ひ、久々にガチのアサシンモードだよぉぉぉ!!!
けどけど、仕方ないじゃん!《冥王》に対抗するためには真白に前世の記憶を思い出してもらうしか無くて、そのために前世にまつわる出来事の場所に真白を連れて行こうって話になったんだから!!
そのヒントになってるのが私の世界にあった【今キミ】のイベントで、イベントが起こる場所、起こる時期に対象の攻略キャラに該当する人と真白をでかけさせるっていう作戦を立てたんだから。
てか、その作戦立てたとき、《暗殺者》もいたし、それでいいってちゃんと同意してましたよね!?なのにいざ春休みに入っても真白と2人で出かけるのを異様に嫌がるからさ、仕方ないから私と2人で行くように見せかけて真白を連れてくるしかなかったんだよ!!
「こ、今度ちゃんと2人だけで出かけるから!ねっ、ね!?」
「……絶対だな?」
「う、うん……」
「今度黙って《聖女》つれてきたら、どうなるかわかってるよな?」
「わかってます……わかってます」
あと二ヶ所こんな感じで真白と出かけてもらおうと思ってたんだけど、実行は無理そうだな。そんなことしたら私の命が危うくなってしまう……。
どうしよう。すごく困った。ちゃんとやんないと《魔術師》に頭開くぞって脅されてんのに……。どっちにしろ私お陀仏コースじゃないですか。
てか、世界の滅亡がかかってるって、この人ちゃんとわかってんのかな?何で真白と2人で出かけのをそんなに嫌がってるのかは知らないけどさ……。《魔王》に気でも使ってんのかな?
「あの、奈美。小夜時雨君がいるなら私は帰るよ」
ちょっと待っててね、といって少し離れたところにいた真白が見かねたように話しかけてくる。
いやいやいや、真白が帰ったら意味なくなっちゃうから!!《魔術師》に頭切り開かれちゃうから!
「い、いいのいいの!チケット3枚あってさ、みんな都合悪くてさっちゃんしか暇じゃなかっただけだから!!」
「……本当に?」
「うん!今日しか使えないチケットだし、あまったら無駄になっちゃうから!」
「そういうことなら……」
チケットを差し出すと真白は渋々とチケットを受け取ってくれた。
ふぅ……前売り券買っておいてよかった。これで前売り券無かったら真白が帰っちゃうところだったよ。ナイスプレイ、私。
「……」
あーーー……後ろに突き刺る視線がものすごく痛いけど……何度も言うけどこればっかりは仕方ないんだって。事前に言ってたら来ないか《魔王》連れてきちゃっただろうしさー、こうするしかなかったんだって。
ホワイトデーのお返しって考えてくれてたところを申し訳ないとは思うけど……。
水族館なんて年がら年中来れるんだから、そんな怒んなくてもいいのに、ねぇ?
短くなった。
さっちゃんが真白と2人で出かけたくないのは、奈美がやきもちを妬いてくれなくていじけてるからである。




