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17. バレンタインデー①

お休みしてました。今日からお昼の12時更新に変更します。なるべく毎日更新予定。




 それから、月曜日の朝になりました。



「で、結局《聖女》がチョコ買うのを阻止できなかったのか?」

「うん……すっごい一生懸命チョコを選んでる真白が健気すぎてかわいすぎて……」


 バス停に向かう途中、土曜日の様子を一部始終を聞いた《暗殺者》があきれ返ったように尋ねてくる。予想していた反応でしたけど。



 《暗殺者》に話した通り、私は真白が《冥王》へのプレゼントを買うのを阻止できなかった。 



 何とかしようと試みたんだよ?真白がうっかりプレゼントのことを忘れてくれることを願って、見たくもないお店に立ち寄りまくったりとか。対して疲れてもないのにお茶休憩しようとかしてみたんだよ。



 だけど、もちろんあんな顔してる真白が《冥王》へのプレゼントのことを忘れるはずもなく……。

 


 結局私にできたのは、消え物が無難だろうっていう以前にどこかの誰かさんにしたのと同じアドバイスのみ。あんな真白に「バレンタインのプレゼントなんて迷惑だと思うよ」なんて残酷なこと言えなかった。



 そんな私をじと目で見つめてくる《暗殺者》。



 わかるよ、言いたいことはよくわかるよ。でもね、仕方ないじゃんか。


「世界の滅亡がかかってるのはわかってるんだよ?けどね、そんなひどいこと言って真白に嫌われちゃったら、それイコール私の世界滅亡だから。生きてる意味なくなっちゃうからっ!」


 みんなの世界が守られても、私の世界滅亡しちゃったら私楽しくないじゃんか。そんな自分の人生棒に振ってまで世界救おうとか思えるほど、私は善人じゃないんだよぉ!!!


「……なんでそんなに《聖女》のこと好きなんだよ?」

「え?だって、かわいいし優しいし、清らかだし、見てるだけで心が癒されない?」


 じとめで聞いてくる《暗殺者》に即答する。てか、そんな質問、愚問でしょ。真白の魅力は全人類が共通認識するところだと思うんだけども……。



「……全っ然わかんねぇ」



 あー……さっちゃん極悪人だからな。吸血鬼が十字架嫌いな感じで、あの清らかさにむしろ気分悪くなっちゃったりするのかも。真白を前にしても浄化されないなんて、さっちゃんの極悪っぷりも筋金入りだ。

 こんなさっちゃんにまでみんなと変わりなく気を配ってあげる真白は本当の本当に聖人だと思うよ。そんな真白の優しさからくる説得により、説得しなければいけないはずだった私のほうが説得されちゃったんだから。



 あのときは、どうやって真白止めようかとテンパってたのもあるけどさ……。あまりに一生懸命薦めてくる真白に抗う術があるはずないんだよね。



 おかげで様で買っちゃったんですよ、チョコレート。



 自分で食べようかとも思ったんだけどね、真白に勧められて買った手前、後であげなかったなんて言ったら真白ががっかりするのは目に見えているし、そんなことしたら真白への罪悪感で私のハートが潰れちゃうから。


 しかし……いざ本人に渡すとなると躊躇しちゃうよな……。いや、別にこれには特に深い意味なんてこもってない。真白の慈悲により私に購入された砂糖とカカオの塊だ。それをただ渡せばいいだけだ。

 渡すなら人目につかないに越したことはないだろうし……ここは腹を括って、バス停に着く前にさっさと渡してしまおう。

 自然に自然にー、と念じながら素早く鞄から取り出した小さな箱を《暗殺者》の前に突き出す。



「これあげる」

「ん?」



 ん?じゃないよ、ん?じゃ!早いところ受け取ってくれ!



「人目につく前にしまってよね」

「これ……チョコ、だよな?」

「そうだけど?」


 やっとチョコを受け取った《暗殺者》は目を真ん丸くして首を傾げてくる。こんな驚いている《暗殺者》はレアだ。下手したらクリスマス以上に驚いてるかもしれない。


「……俺、今回は何もあげてないけど?」

「それは……この間励ましてくれた時のお礼ってことで」


 用意しておいた言い訳を伝える。ほら、《冥王》が降臨した後、1人でプレッシャーに負ぺしゃんこになりそうになってた時励ましてもらったからね。あの時はホントいっぱいいっぱいだったから、感謝してるのは本当なんだ。だから、これをお礼の品としちゃうのは決して的外れじゃない。



「……うれしい」



 ただのお礼だからねバレンタイン的な意味は全く無いんだからね、……って釘を刺そうと思ってたのにタイミングを逃してしまった。またその顔ですか。

 いや、クリスマスの時より無防備か。あの時はなんか思わず顔崩れた、みたいな感じで慌てて口元押さえてたのに、今回はふにゃって笑った顔のままチョコをジーッと見てる。いつもの凶悪顔が嘘みたいだ。



 ……そういう顔されるとこっちまで照れちゃうから、ホント勘弁してほしいんだけどね。



 てか、チョコ1つで喜びすぎでしょ。相変わらず意味わからんな、さっちゃん。怒るポイントも、笑うポイントも、泣くポイントも、喜ぶポイントも摩訶不思議だよ。だから不意打ちが多くて、こっちもびっくりしちゃうんだよ。

 おかげで今もちょっと心臓が……。これはあくまで驚きからくるものなんだけどね!決してトキメキなんて乙女チックなものじゃ無いんだからね!!!


「って、何やってんの?携帯なんか取り出して……」


 頭の中でわちゃわちゃ考えてたら、視界の端で《暗殺者》がスマホを取り出すのが見えた。急な連絡でもあるのかなと思ったけど、顔が崩れたままだし……なんか様子がおかしい。だから気になって何するのか聞いてみたんだけど……。


「昇に電話」

「……何で?」



「奈美にチョコもらったこと自慢しようと思って」



 なんの自慢!?意味わからんっ!!!《魔王》にとっても非常に迷惑極まりないでしょうが!!てか、これから学校で会うんだから、自慢したいならそこですればいいでしょうが!!

 てかてかてか!こんなただのチョコをどんな風に自慢するか知らんが、それを横で聞くのは全力で願い下げですからね!!そのスマホよこせ!!!


 

 それからすぐにバスが来てくれたので、何とか《魔王》に謎の電話をかけるという《暗殺者》の目論見を阻止するはできた。



 出会ってから1年くらいになるけどさー……それ以来最大級に意味不明な行動でしたよ、さっきの。今もなんか鼻歌歌い出しちゃいそうなくらいニコニコ顔でいまだに手に持ったチョコを眺めてるんですけど。……昨日の今日でキャラ変したのかな?



 ……ていうかさ、まさかこんな調子でクリスマスの時のプレゼントまで《魔王》に自慢しまくったんじゃないだろうな?



 新たな恐ろしい疑惑が浮かび上がってきて顔が引きつる。《魔王》と同じクラスだっていうのに、なんか顔あわせづらくなったわ!!!



「来年は手作りチョコがいいな」



 こっちの気なんて知りもしないで、ニコニコしながら言ってくる《暗殺者》。





 お礼だからね、うれしそうにしてくれるのはよかったんだけどさ……。


 やらかしてしまったという気持ちになるのは何でなんだろうね。




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