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16. お買い物




「奈美、明日一緒に買い物に行かない?」



 とうとう真白が《冥王》に接触できないまま、一か月以上が経過しようとしていたころ。久々に放課後に寄り道をして帰ろうと真白からお誘いをいただいた。


 一か月たとうっていうのに、女子たちの《冥王》への熱は相変わらずで、今でも保健室には常に女子が群がっている。最近保健室としての機能が危ぶまれてるから、ホームルームなんかで先生たちが注意する始末だ。

 おかげで真面目な真白は余計に保健室に近づきにくくなっている。《冥王》が降臨したっていうのに、結構のんびりな生活を送れているのはひとえに恋心に燃える女子たちのおかげだよ。ありがたやありがたや。



 ちなみに、明日の買い物だが、私が真白からの誘いを断るなんてことあるわけない。



「もちろん、いいよ」

「俺も行く」


 いつの間にか後ろに来ていた《暗殺者》がすかさず言う。まだ放課後のチャイムが鳴って数秒しかたってないっていうのに、なんでこの人はもう二階のこの教室にいるんだろうね?いつものことだからもうびっくりはしないけどさ。

 てか、せっかく久々に真白と2人っきりで買い物に行けると思ってたのに、あんたも来るんかい!私が文句言ってもひと睨みで却下されるし、真白も断らないからなー。また3人で買い物か。それも楽しいからいいんだけどさ。



 なんて諦めきっていたら、意外なことに真白が申し訳なさそうな顔をしながら《暗殺者》のほうを見た。



「あ、えっと……小夜時雨君、今回は奈美と2人で行きたいんだけど……だめかな?」

「……」


 え、真白がさっちゃんついてくるの反対するなんて初めてだ。いつもさっちゃんの強引なわがままを嫌な顔1つせずに受け入れるのに……。

 《暗殺者》も真白のいつもと違う反応に眉をよせっている。てか、睨むのはやめなさいってば。



「ほら、明々後日は……」



 睨んでくる《暗殺者》をものともせず、苦笑した真白は可愛げに首を傾げて見せる。ほんと真白かわいいなー。あんな可愛い言い方されたら、四の五の言わずどうぞどうぞってなっちゃうよ。それが効かないのがまた《暗殺者》の摩訶不思議なところだけど。



 てか、明々後日ってなんかあったっけ?



「……」

「ね?お願い」

「……わかった」


 え、絶対に文句言うと思ってたのに、《暗殺者》もあっさりと引いたし。すごい仏頂面のままだけど。

 明日は土曜日で、明後日は日曜日、明々後日は月曜日だけど……週の初めだから?またその時会えるじゃんってこと??

 んー……よくわからないけど、《暗殺者》を簡単に説き伏せちゃうのは、ひとえに真白が優しくて清らかだからに違いないよね。さすがの《暗殺者》も真白の清さにやっと心を動かされたってことなんだろうな、うん。



 何はともあれ、久々に真白と2人っきりで買い物だ!服とか気合い入れて選んじゃうぞ!!




 ■ □ ■




 約束の次の日、つまり土曜日になりました。



 街の入り口で待ち合わせして、歩き始める。今日の真白は真っ白なコートにお揃いのベレーボー姿。本当に真白は白が似合うよ。かわいすぎるよ。こんなかわいい真白と2人で歩けるなんて、本当に私は幸せ者だよ。


 あ、てか2人だけでお出かけがうれしすぎて、今日の目的がなんなのか聞くの忘れてた。買い物に付き合ってて言われたから、何か買いたいものがあるってことだよね?



「真白は今日何を買う予定なの?」

「……奈美、これだけ周りがそういう雰囲気なのに気付かない?」



 私の目にはかわいいかわい真白しか見えてないからね!……じゃなくて、すっごい驚いた顔で聞き返されてしまった。

 えっとー……周り?確かになんか全体的に統一感のある飾りがしてあるなーとは思う。……赤とかピンクとかの色が多くて、形的には圧倒的にハート型が多いかな?……ってことはつまり、



「明後日はバレンタインデーでしょ」



 ……またしてもすっかりポンッと忘れておった。いやー、なんでこうバレンタインデーってものを忘れてしまうんだろうね。前世からバレンタインデーと言えば乙女ゲームの重要イベントって感じくらいにしか思ってなかったから、仕方ないんだろうけどさ。



「奈美も小夜時雨君にあげるんでしょう?」

「え、いや、あげないよ」



 な、なんかものすごく、当然だよね?的な感じで言われてしまったんだが……そもそもバレンタインデー自体忘れてたんだから、あげるつもりなんて一切ありませんでしたよ?明後日がバレンタインデーだと思い出しても、誰かにあげようなんて発想すら出てきませんでしたよ?

 なので即答したんだけど、この返答に真白さんはご不満な様子だ。ぷくっとほうを膨らませて眉をつりあがらせる。



「もう、そろそろ私には本当のこと言ってくれてもいいと思うだけどなー……」



 トドメは斜め下からのおねだり顔。真白のおねだり顔とか……たまらん。心臓ばっくんばっくんなんですけど。私が男だったら急いでトイレ駆け込まなきゃならない事態になってたよ。



「あ、奈美の分はもう買ってあるから、明後日楽しみにしててね」



 うはっ!さらにそんなこと言っちゃうの!?……この人かわいすぎる。知ってたけどね。真白がかわいいって知ってたけどね。一緒に時間もだいぶ長くなってきているというのに、まだまだ真白の新たなかわいさを発見し続けられるなんて……。この人のかわいさは未曽有だ。



 もー、おかげで口元が緩みまくって、ニヤニヤしないように我慢するのが大変だよ!



 これ以上真白のかわいい攻撃をくらったら、いよいよ向こうの世界へ足を踏み入れてしまいそうな気がする。このままかわいい真白をもっと見ていた気もするけど、ここは踏みとどまって話を逸らさなければ!


「えっとー……つまり真白は今日チョコを買いたいの?」


 自然な話題をー、と厳選したつもりだった。だけど、真白から返ってきた反応はちょっといつもの調子と違う。一瞬表情を固めて、不自然に視線だけを逸らす。

 ……あれ、なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃった?や、でもこうして一緒に買い物に来てるわけだし、聞いちゃまずいってことはないと思うんだけど、どうしたんだろう?

 


「……チョコ、じゃなくても良いかなと思ってるんだけど。急にあげるのを思いついたから。どんなのがいいか奈美にも相談に乗ってほしくて」



 しばらくすると、たどたどしく真白はそんなこと言う。また不自然なくらいにこっちを見ようとしてないし、おまけになんかちょっとほっぺたが赤い気がする。寒いせい……ってわけじゃないよね。



 この様子……なんか、ヤな予感がするんだけど……。



「……誰に渡すの?」


 恐る恐る聞いてみる。と、同時にどうか私の予感なんて当たりませんよーに願う。ドキドキしながら真白を眺めていると、真白の顔はさらに赤くなっていった。




「えっと……久永先生に……」




 や、やっぱり……!!嫌な予感的中しちゃったよ!!!



「ほら、まだ助けてもらったお礼ちゃんとできてないでしょ?時間もたっちゃったし、ただお礼言うのもなんだからと思って」


 ぶんぶんと両手を胸の前で左右に振りながら真白は言う。特別な意味なんかないんだよ?って真っ赤になりながら必死に誤魔化そうとしてる姿に、いつもの私ならかわいすぎるって反応しまくってるところだけど、残念ながら今の私には真白のかわいさを堪能する余裕なんかなかった。



 真白……《冥王》にバレンタインに何か渡したいと思ってるほど、気持ちが傾いてるんだ。



 やばいよ、やばいよやばいよ……!ただのお礼だって言ってるけど、その顔はただのお礼を買いに来た顔には見えないよ、真白さん!!



 え、もしかしてこれって……、私がここで真白がプレゼントを買うの事態阻止するべき……?



 や、でもこんな顔してプレゼント選ぼうとしてる真白に、買わないほうがいいんじゃないとか言えないんですけど!?そんなことしたら真白が悲しい顔するに決まってるじゃん!!

 え、でも……他にどうやって真白がプレゼント買うの阻止すればいいの!!?





 お願いだから、誰か今すぐ教えてーーーー!!!!





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