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15. 昼休み




 突然現れた新任の保健医のことはすぐに学園全体に知れ渡った。その立役者となったのは主に女子たちである。若くてかっこいい男の保健医なんて、女子高校生の大好物なんだから当たり前だよね。おかげで、連日保健室には女子生徒が詰めかけるという現象が起こっている。


 あれが《冥王》とも知らずによくやるよ。と、あきれつつもちょっとその状況はありがたかったりする。他の女子が群がっているおかげで、真白が保健室に近づきがたくなってるからだ。



「朝なら大丈夫かなと思ったんだけど、私が付いたときには廊下まで生徒があふれてて……」



 昼休み、ご飯を食べながら真白は大きな大きなため息をつく。すでに新学期が始まって一週間たとうとしてることろなんだけど、いまだに真白は保健室に一度も近づけないでいる。

 今日は作戦を変えてかなり朝早く登校したみたいだけど、女子たちのイケメンへの執着心を舐めてはいけないよね。まだまだ寒くて早起きがつらい季節だっていうのに、本当に女子たちはよくやるよ。


「すごい人気だな。私にはよくわからないけど、やはり大人の男性というのにみんな憧れるものなんだろうね。」


 《女騎士》は心底不思議そうな表情でそう言った。まぁ、前世から《魔術師》一筋の《女騎士》には年上の魅力とかそんなん関係ないだろうね。一般的に価値のあるものよりも、自分だけのオンリーワンを愛してやまない《女騎士》。

 そういうところが共通してるから、《女騎士》はさっちゃんのことフォローをしたりするんだろうな。修学旅行の時も、さっちゃんが来る気満々だったのわかってたくせに私に教えてくれなかったし……。


 あ、ちなみに《女騎士》の記憶なんだけど、《冥王》降臨をきっかけにはっきりと前世のことを思い出したらしい。思い出した途端《冥王》の気配がしてたから慌ててたらしいけど、そこは《魔術師》が事情を説明して落ち着かせたんだって。

 そういう経緯があったからあの日も《魔術師》の家にいたそうだ。《冥王》が降臨してしまった今、確実にあいつを敵だと《女騎士》が認識してくれてるのはありがたい。一緒に真白が保健室に行くのを阻止してくれるからね。



「久永先生にお礼言えないまま、一週間たっちゃった……」



 ぐぅっ……真白の悲しそうな顔を見ると、こっちまで心臓が締め付けられちゃうよ……。

 相手が《冥王》でさえなければ、助けてくれた先生にお礼をいいたいなんて健気な真白の願いを叶えるために全力を尽くしていたところだけど……こればっかりはしょうがないんだ。


 あ、ちなみにちなみに、久永というのは《冥王》の現世での名前だ。フルネームは久永ひさなが 空人たかひと

 この名前、ゲームと全く一緒なんだよね。「永遠に空っぽの人」って意味でつけられたって裏設定をはっきりと覚えているから、間違いない。

 やっぱ《冥王》は【今キミ】のこと知ってるんだなぁ。名前引用してくるとか、あのゲームにそんな思い入れがあるのかな??




 ■ □ ■




 お昼を食べ終わると、真白は《勇者》と生徒会の引き継ぎ作業のため生徒会室に行った。私と《女騎士》は事前に話し合っていた通り屋上へと向かう。

 扉を開くと先に来ていた《魔術師》と《吟遊詩人》と《暗殺者》が向かい合ってご飯を食べて。もともとの記憶を取り戻してる組だけど……この3人が集まっても盛り上がるような共通の話題があるのかどうかは激しく謎だな。


 どんな話してたのか気にならなくもないけど、今はそんなどうでもいい話ししてる場合じゃない。今回集まったのは、真白の様子を報告するのと、今後どうしていくかっていうのを話し合うためだ。

 真白が《冥王》に対してどんな感じか見極めるために、今日はさっちゃんには席をはずしてもらってたんだよね。それを提案した時はかなりぶーられてたけど……女子だけのほうが話しやすいことってあるからね。



 ってことで、まずは真白の様子を3人に報告。



「やはり、保健医のことはかなり気にかけてる様子だったな」

「お見舞いに行った時も早くお礼を言いたいって言ってたし……。なかなか合えないからってすごく落ち込んでるよ」

「少し、かわいそうだったね」


 やっぱ落ち込んでる真白の姿は《女騎士》にもかなり堪えたみたいだ。フェミニストだし、可愛い可愛い真白があんな風に落ち込んじゃってるのをそのままにしておくしかないなんて、辛くて仕方ないよね。


「うん……。だけど、真白をあいつに近づけるわけにはいかないから」

「そうだな。しかし、その様子からすると真白の気持ちはすでに《冥王》に向かっているんじゃないか?」


 《吟遊詩人》の問いにとっさに答えることができない。気持ちが向かってるのは確かなんだけど……正直、どのレベルなんだろうかっていうのは微妙なとこなんだよね。


「まだ恋と呼ぶような感情ではないように見えたが、関心が向いてるのは確かだ。その気持ちを無理やり方向転換させるというのは難しいだろう」


 代わりに《女騎士》が答えてくれた。確かに、無理やり興味を逸らそうとするのは無理だし、逆効果にだってなりかねない。ダメダメっていわれるほど気になっちゃうのが人間の性ってもんだしね。

 だから、当面はさりげなく真白を《冥王》になるだけ接触させないようにがんばるしかないんだけど……世界滅亡がかかってるっていのに作戦がこれだけなんて、心許なすぎる。



「ここは《聖女》に記憶を取り戻してもらうしかないね」



 今までずっと黙っていた《魔術師》がやっと口を開いた。確かに真白に《冥王》が敵だって思い出してもらうのが一番だとは思うけどさ……。


「でも、真白は記憶を取り戻そうとしたら体調が……」

「体調が悪くなってぶっ倒れたら《冥王》が降臨しちゃうからまずい、って話だったでしょ?すでに《冥王》は降臨しちゃってるんだから、荒療治でも記憶を取り戻させることはできる」


 あ、そっか。もう《冥王》は降臨しちゃってるんだから、万が一真白が記憶を取り戻す過程で倒れちゃったりしてももう関係ないのか。や、でも真白が苦しむのには変わりないし……。


「《冥王》に対抗するならそれしかないんじゃねぇの?」


 《暗殺者》も《魔術師》を支持するようにそんなことを言う。この2人は真白に対する心遣いとかが足りなさすぎるよ。文化祭の時、真白がすっごい顔色悪くしてたのを忘れたわけではあるまいに。



「……真白が苦しむのを見るのはあまり気が進まないが、それしか方法はないか」

「自分の判断のせいでこの星が滅びてしまうのを真白君が望むとは思えないしね」



 渋々という感じで《吟遊詩人》と《女騎士》も《魔術師》に同意する。私も全然乗り気じゃないけど、《女騎士》が言ったことは一理あると思う。なにも知らずに《冥王》の野望に加担させるよりも、ちょっと無理して記憶を取り戻してもらうほうが真白のためでもあるのかもしれない。

 《冥王》のこと思い出したとしても気持ちが変わらないって可能性もなくもないけど……優しい真白がこの世界すべての命よりも自分の恋心を優先するとは思えないからね。……それはそれで可愛そうではあるけど。


 てか、真白が何も思い出してないのはともかくとして、《勇者》と《魔王》も未だに《冥王》のこと思い出してないのはどういうことなんだろうね?

 《女騎士》が《冥王》降臨のショックで思い出したんだから2人も……って思ってたんだけど、探りを入れてみたところ《冥王》のことは思い出してなかった。《魔術師》いわく、あの2人は特に《聖女》とのつながりが強かったから、《聖女》である真白が記憶を取り戻してないことが影響してるのかもって話だったけど……。

 個人的には《勇者》か《魔王》のどっちかだけが《冥王》のこと思い出して、俺が世界と真白を救ってやるぜ!的な感じでガンガン真白にアタックしてくれればうれしいんだけどなぁ。

 文化祭以来、お互いが最終的に敵じゃなかったって思い出してから、なぁんか妙に仲良くなったんだよなあの2人。そのせいか、真白への恋はおざなりになってる感がある。友情をはぐくんでくれるのも結構だけどさ、恋という名の青春も謳歌しとこうぜ。



「それは奈美にも言えてるだろ?」



 ……おいおい、《暗殺者》よ。不意打ちで心を読んで上げ足取ってくるんじゃないよ。まったいつもにも増してうさん臭い笑顔浮かべてるし。

 どんな反応を期待してるのかは知らんけど、面倒なことに変わりはないからいつも通りスルーだよスルー。

 あ、てか、《吟遊詩人》に一個確認したかったことがあったのを思い出した。さっちゃんをスルーするにも丁度良いし、その話でも振ってみるか。


「そういえば、橘先生がどうなったのかは分かったんですか?」

「ああ、この間連絡が取れてな。相変わらず元気そうだったぞ。平野が心配してるって伝えたら、何も言わずに悪かったと伝えてくれって」


 見事に話題に食いついてくれた《吟遊詩人》が橘先生の様子を話してくれる。《冥王》が保健医ってポジションに着いたってことは、橘先生はもうこの学校の保健医じゃないってことだ。

 そこそこ仲良くさせてもらってたから、なんで橘先生が辞めることになったのか、その経緯が気になってた。ってことで、同じ教師であった《吟遊詩人》にその辺を調べてもらっていたのだ。

 元気そうだという言葉を聞いてひとまずほっとする。リリィの件があったから、まさか橘先生にも手荒い真似を働いたんじゃないかと心配してたんだ。



 ……だからね、さっちゃん。話逸らされたからってそんなに睨んでくるんじゃないよ。



「それで突然辞めた理由なんだが……」


 《暗殺者》にがっつり睨まれてるのに気にせず話を続ける《吟遊詩人》。相変わらずいい意味でも悪い意味でも空気を読まない。

 そのペースに便乗させてもらうことにして《暗殺者》の視線から逃れる。橘先生がどういって辞めることになったのか、気になるのは本当だしね。理事長が絡んでるから、理事長権限を使うという強引な手段に出た可能性だって考えられる。


「まさか、無理やり辞めさせられたんじゃないですよね?」

「いや、きちんと教頭と話し合って決めたそうだ。というか、実は橘先生は以前から長期休暇を要請してたらしくてな」

「理由は?」




「妊活のためらしい」


「「「「「……」」」」」




 ……そっか、橘先生頑張るのか。いや、どっちかというと頑張るのは旦那さん?思わず生々しい場面を想像してしまったよ。知ってる人のそういうとこ想像しちゃうとなんか申し訳ない気持ちになるのは私だけ?

 てか、一応思春期真っ盛りの高校生を前に堂々と言ったな《吟遊詩人》。誤魔化して言うとか色々あったでしょうに、相変わらずのぎりぎり教師っぷり。さすがだよ。



 橘先生にはお世話になったし、退職祝いに何か贈ろうと思ってたんだけど……生牡蠣でも送るか。



 今って牡蠣がいおいしい季節だし。うん、帰ったら通販でさっそく検索してみることにしよう。




亜鉛がいいらしいですね。

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