表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/202

14. 靴箱




「ねぇ、やっぱ変だよね」

「何が?」



 ほぼ一週間遅れで始まった新学期1日目。真白のお見舞い以来妙に引っかかってたことを通学中のバスの中で再度考えてみる。どう考えたって、なんかしっくりこなかった。



「さっちゃんも変だと思わない?弱り切ったところに付け込んで、しっかり真白の気持ちを引き寄せてる絶好の機会だっていうのに、なんでお見舞いに来ないんだろう?」

「……それもそうだな」


 上履きに履き替えながら《暗殺者》も眉間にしわを刻む。《王子》を使ってあんあことをしでかしてまで降臨した《冥王》は、目的のためならなりふり構わないって類の人格のはずだ。それが、お見舞いなんて言う絶好の好感度アップの機会を活かさないなんて……。


「奈美が入院したら、俺は絶対にお見舞いにいくな」

「……いや、なんか怖いから来なくていいよ」


 うん、なんかいろんな意味で怖い。弱ってベッドの上とか、《暗殺者》の絶好の餌食じゃん。いつものうさん臭い笑顔に磨きがかかってるし、絶対よからぬこと考えてるよ、この人。


「てか、私の話はどうでも良いから。思ったんだけどさ、《冥王》が真白のお見舞に来なかったのは何か理由があるんじゃない?」


 



「別に理由などない」





「!!!」


 《暗殺者》に投げかけた問いの答えは、思いもよらぬ方向から返ってきた。全神経がその聞き覚えのある声に反応して震える。反射的に足を止めて顔を上げた。




 そこに立っていたのは白衣を着た男性……《冥王》だ。




 し、新学期に登場するっていうデフォルトは降臨した後も有効ですか!?や、てか……朝から鉢合わせると思ってなかったらびっくりした。

 硬直してしまった私をかばうように、《暗殺者》が一歩前に出て《冥王》と私の間に立つ。おかげでちょっとショックから立ち直れた。


「ただ単に小細工はもう必要ないということだ」


 《冥王》は薄い笑みを口元に浮かべて静かに言う。それはさっきの私の疑問への答えなんだろう。本人直々に答えていただけるなんて、光栄極まりないね。

 ……しかし、あらためて顔を見てみるとこいつもかなりのイケメンだな。同じ大人の《吟遊詩人》が爽やかな王道好青年なら、こっちはミステリアスで色気を漂わせる大人の魅力を前面に押し出してる感じ。って言ったら聞こえはいいかもしれないけど、別の言い方をすれば髪が長くておまけに色白でけだるそうで、見るからに不健康だ。

 他人の健康取り扱う前に、自分の健康ちゃんと管理しろって言いたくなる。こんなのが保健医とか……。ムチムチボンバーで肌ぴっちぴちだった橘先生を少しは見習え。



 ……なんて御託を並べてみるけど、実際に口には出せない。



「異空間は随分と威勢が良かったくせに、ここではえらく大人しいんだな。すでに負けを認めたか?」

「……んなわけないでしょ」


 《暗殺者》の後ろに隠れて何も言わない私を《冥王》は鼻で笑う。だけど強く言い返すことはできなくて、何とかそんなことだけ言い返した。

 夢の中だったらよかったけどさ、さすがに《冥王》と直接対決は怖いんですよ……。リリィをあんな風にするような発想を持ってるわけだし……さっちゃんいなかったら即行でトンズラしてるところだ。



「まあいい。せいぜいあがいて、私を楽しませることだ」



 背を向けた《冥王》は肩越しにそれだけ言うと、保健室のほうへと去って行った。その姿が完全に見えなくなってから、やっと緊張が解ける。いつもの見慣れた学園の廊下のはずなのに、さっきまでどこかの異次元にいたような感覚だったよ……。


「あ、朝から待ち伏せとか……心臓に悪すぎる……」


 大きく息を吐く。胸に手を当ててみるとまだ心臓が早く動いてるのが分かった。……さっきので確実に寿命が縮まった気がするな。

 《冥王》が降臨して学園に潜入してきたってのは理解してたけど、こうして突然鉢合わせることがあるっていうのはあんまり想定してなかった。でも、考えてみれば当たり前にあり得ることだ。私になんか用はないだろうし当分会うことはないと思ってたけど……今後は普段から気を張っておかないとな。


 教室に行きながら無理やり気持ちを落ち着けるか。そう思いながら顔を上げると、《暗殺者》は未だに見えなくなった《冥王》の背を睨みつけるようにして廊下の先をじっと見ていた。



 なんか、……すごく怖い顔をしてるんですけど……。



「奈美」

「は、はい?」


 かと思ったら、突然名前を呼びながら肩をつかまれた。ひえっと叫びそうになるほど鋭い視線を向けられる。

 な、なんか物凄く怒ってらっしゃる……?



「絶対に、1人で《冥王》に近づくなよ」



 い、痛いです。肩をつかむ手に力がこもっててすごく痛いです。また無茶するかもしれないって疑ってるからこんな怒ってるってこと……なのかな?


「さ、さすがにそんな命知らずなことしないよ?」

「いいから、約束。返事は?」

「……はい」


 なんでアサシンモード入りかけてるんですか?そうなった《暗殺者》相手に、返事をする以外の選択肢が残されてるはずもないでしょうが。本当に1人で《冥王》に挑もうなんて思ってないからいいんだけどさ……。

 え?てか、なんなの?なんでさっちゃんこんな怒ってんの?また知らない間に地雷を踏んじゃったのとか……?いやいやいや、一体どこにあったよ地雷ポイント!?




 そろそろ出会って1年たつっていうのに……相変わらずさっちゃんの地雷ポイントは謎すぎだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ