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13. お見舞い②




 真白の病室は事前に《吟遊詩人》から聞いていたのですぐにわかった。ゆっくりと落ち着けるように1人部屋を使ってるみたい。扉をノックすると中から真白の返事が聞こえてくる。ゆっくりと扉を開きながら中を覗き込む。


「お邪魔しまーす」

「あ、奈美!来てくれたんだね、ありがとう!」


 嬉しそうに笑いながら、真白は持っていた本を膝の上に置いた。うん、今見た感じ、真白は元気そうだ。ほっとしながら、ベッドに近づく。

 ちなみに、《暗殺者》はエレベーターでこの階まで一緒にきたくせに、廊下にあるソファーに座って待ってると言い張った。私と2人のほうが気兼ねないだろうっていう気遣いはありがたいんだけど、せっかくここまで来たから顔くらい出して行けばいいのにね。


「体調はどう?」

「うん、体に問題はないよ。心配させちゃってごめんね」


 苦笑しながら真白が謝る。私が真白を心配しちゃうのは私が真白を大好きだからであって、決して真白のせいじゃない。

 だから、真白の顔を見て心底ほっとした。ちょっと顔色はさえないかもしれないけどあの時の様子と比べたら、今の真白はずっといつもの真白に近いと思う。

 だから意を決して口を開く。


「あの、真白……」

「ん?」

「ごめんね……あの時は、私なにも力になれなくて……」

「……」


 真白は一瞬表情を固める。やっぱり、あの時のことは話題にするべきじゃなかったかとすぐに後悔した。

 ここにくるまで、ずっと真白にあの日の話題をいいのかどうか迷ってた。けど、あの日のことを全く話さないっていうのは不自然すぎるだろうとも思ってた。真白の顔を直接見て、大丈夫かもと思ったど……やっぱ、大丈夫なわけないよね。



「な、奈美が謝ることじゃないよっ……」



 下をうつむいて、絞り出すような声で真白はそういった。明るく振る舞おうとしてるんだと思うけど、その様子がさらに痛々しい。やっぱりあの時のことはまだ話すべきじゃなかった。必死に泣くのをこらえようとしている真白に、私まで泣き出しちゃいそうだよ。


「もういっぱい泣いたから、大丈夫」

「真白……」

「だから、心配しないで」


 浮かんできた涙をぬぐいなら真白は笑った。お見舞いに来た身なのに気を遣わせてしまうなんて本当に情けない。こんな浅はかな私に怒るどころか優しく接してくれる真白は本当に天使だよ、聖女だよ。



「それに、あの人にも……たくさん励ましてもらったし」

「あの人?」



 真白の優しさに改めて感動していたら、真白がぽつりとつぶやくように言った。独り言なのかなとも思ったけど、それにしては大きな声だったからついつい聞き返してしまう。

 すると、真白はなぜか慌てたように目を泳がせる。こんな反応は珍しい。だから余計に気になって答えを促すために顔を覗き込む。



「あの、ほら……私を保健室まで運んでくれた人」





 《冥王》だ。





 真白の口から奴の話題が出てきたことに一瞬にして体温が下がっていく感じがする。そんな私とは真逆に、真白は少し顔を赤らめて視線を落とした。



「泣いてる間……ずっと、傍にいてくれたんだ」



 あぁ……だから、知りたくなかったんだよ。予感がしてたからさ。大事なリリィが死んで、弱り切った真白の心。



 その隙を、《冥王》が見逃すはずないってわかってたんだよ。



「橘先生の代わりにきた保健の先生なんだって」

「……そう」


 さっきまでの悲しそうな顔が嘘みたいに、真白は楽しげに話す。いつもの真白ともちょっと違う。すごく弾んだ声。そのすべてが物語ってる。



 真白は《冥王》に対して、明らかに特別な感情を抱いてる。



 あぁ……もう、よりにもよってなんで。真白がこんなに可愛い顔をして一生懸命私に何かを伝えようとしてるのに、その内容でこんなに苦しい気持ちになる時が来るなんて……。なんか自分がすごく罰当たりな気がしてならないよ。


 いや……でも、いくら真白でもこればっかりは容認できない。なんてったって世界滅亡がかかってるんだから。絶対真白が《冥王》に恋しちゃう状況は避けなきゃいけないだ!!

 そのためにはやっぱり真白と《冥王》が接触しないよう気を配るのが第一だけど……、学校ならともかく、真白が病院にいる間お見舞いに来られたりしたらこっちは打つ手がないんだよねー。みんなで交代でずっと真白のそばにいるわけにはいかないし……。

 てか、もうすでにお見舞に来てて、さらに追い打ちをかかけるような甘い言葉を真白に聞かせまくったんじゃないだろうな、《冥王》よ!!?よくみたら、真新しい花が花瓶に挿してあるし……。ここも《冥王》に先手を打たれたっていうのか!?



「あの時は泣いてばっかりでちゃんとお礼を言えなかったから……早く会ってお礼、言いたいんだ」

「え、その人、お見舞いには来てないの?」

「え?うん……急に赴任することになったって言ってたし、色々忙しいんじゃないかな?」

「……その花は?」

「これは御堂先輩がお見舞いに持ってきてくれたんだ」



 《王子》。



 あーーーー……いかん、お手てが真っ赤な《王子》の姿がフラッシュバックするー。あれを真白が見てなくて本当に良かったと思うよ。まぁ、真白に見られるようなへまをあの人がするはずないけどさ。


「……あの人、何か言ってた?」

「うん。無理はしないようにってすごく心配してくれてたよ」

「その、保健の先生のこととかは?」

「え?特に何も言ってなかったけど……」

「そう……」


 あれー?てっきり《冥王》の代理で《王子》が来たと思ってたんだけど、違ったのか。さっきまであんなに焦った気持ちだったのに、ちょっと拍子抜け。まぁ、《冥王》のお見舞い作戦が杞憂ならそれに越したことはないんだけどさ。

 ってことは、《王子》は普通にお見舞いに来たってことか。あんなことしておいて、のこのこお見舞いに来るなんて、信じられない神経してるな……。



 てか、なんで《冥王》はお見舞い作戦しなかったんだ?真白のハートをがっつりつかむのは早いのに越したことはないはずなのに……。



 こんなチャンスを見過ごすなんて……なんか特別な理由でもあんのかな?




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